一ノ話・十五
信長公がしばらく行軍を続けると、にわかに空はかき曇り、黒雲が覆いました。それは未の刻(午後一時~三時頃)に差しかかろうかという頃でございます。
まるで逢魔が時であるかのように、辺りはみるみる暗くなっていきました。
そして、ぽつぽつと雨が降り始めたのでございます。それは、すぐに大粒の雨になり、程なくして、辺り一帯が豪雨に見舞われました。
激しく地面に叩きつける雨音のため、人の声はまったく聞き取ることが出来ませぬ。周りに目を移せば、一寸先を見ることさえ容易ならぬ様子でございました。
信長公はこれを千載一遇の機会と捉え、今がその時とばかりに兵を今川方に突撃させたのでございます。
思いがけぬ事体に今川の陣は混乱、総崩れとなりました。
この時、大将である義元の周りには、わずかな手勢しか残されていなかったのでございます。
なにしろ、激しい雨でございました。
両軍とも、敵味方の判別すら難儀な状況でございます。
さらに、この時の雨は織田方の背後から降りつけておりました。
今川方にとっては、すべてにおいて不都合な状況だったのでございます。
織田方の兵は、天の恵みとばかりに今川方に討ちかかりました。そして、この混乱の中、織田方の毛利良勝が今川義元の首級を挙げたのでございます。




