一ノ話・十三
永禄三年五月のことでございます。
駿河の今川義元は所領である遠江、三河を越え、尾張へと攻め込みました。
これを迎え撃ったのが、織田信長公でございます。
公は若いながら百戦錬磨の強者でございました。
しかし、今川は大大名でございます。
兵力の差は歴然でございました。
今川方が二万五千、織田方は五千とも云われております。
「よう知っておるな。わしでさえ本当のところは知らぬというに。
そなたの寿命が明日まで延びるやもしれぬぞ」
信長はそれだけ言うと、口を閉じた。
再び、修羅ノ介が語り始めた。
織田方では軍議が開かれました。
家臣はみな籠城を唱えましたが、信長公は打って出ることを決めたのでございます。
この時、家臣のほとんどが死を覚悟しておりました。
しかし、信長公だけは違ったのでございます。
信長は時折目を閉じると、うんうんと頷くように聞き入っていた。
手勢を率いて城を出られた信長公は途中、熱田の神宮に立ち寄られました。
この辺りでは随一の神社でございます。
熱田で信長公が祈念されましたのは、もちろん御味方の勝利でございます。
しかしながら、その際、奇怪なことが起こりました。
なんとしても勝つ、勝たねば後は無い、
その念は、あるものを呼び寄せました。
拝殿の陰より現れましたるその者は、混じり気の無い漆黒の姿をしていたのでございます。




