一の話・九
「なに?」
信長、さらには蘭丸も不審な顔をした。
「私がどのような話をしようとも、本日殺されることはないのでございますね。私は明日までは間違いなく生き長らえるのでございますね」
修羅ノ介は念を押すように言い、顔を上げた。
「よかろう、明日まで、そなたを生かしておいてやろう」
信長が言うと、修羅ノ介は、
「ありがとうございます」
と言い、頭を下げた。
これを見た信長は、にやと笑った。
「わしはそなたを明日までは生かしてやろうと言ったが、それは今日は殺さぬということじゃ」
「はい」
修羅ノ介は静かな声で答えた。
「わかっておるのか?そなたが地獄に行き、わしの寿命を知ることが出来ずば、死ぬのじゃぞ」
信長の言に、蘭丸は声を押し殺して笑い出した。
「明日、天正十年六月二日がそちの命日になるのじゃ」
信長の言には凄みがあった。
だが、修羅ノ介に怯んだ様子はまったく見られなかった。
「言いたいことがあるなら、言うがいい」
信長が言うと、修羅ノ介はかすかに笑ったように見えた。
「私はかつて地獄に行った折、自分の寿命というものを見たことがございます。したがいまして、私は自分の命日というものを知っているのでございます」
「ほう、それはまさしく、明日であったであろう」
信長は片手で髭を擦りながら言った。
修羅ノ介はゆっくりと首を横に振った。




