本能寺の夜・二
信長が大きな茶会を開くことなど滅多に無かった。
せいぜい五、六人止まりである。
それが、この日は五十人近くを招いていた。
それだけ、信長が長男信忠の推任を待望していたということである。
この日信長は、茶器をわざわざ安土の城より京まで運ばせていた。
いずれも自慢の品である。
容易に手に入れることの出来ぬ茶器の数々を目の当たりにし、招かれていた公家たちは感嘆の声を上げた。
それは信長の強大な権力を知らしめることにもなった。
やがて陽が落ち、公家たちは信長の前から退いた。
この日は新月にあたるため、この時分に月は出ておらず、外はすっかり闇に包まれていた。
信長は本能寺にて、なおも上機嫌のままに宴を開いた。
宴の間では信長が上座の位置にただ一人座り、他の者たちは信長を横に見る形で二列、互いに向かい合い座っていた。
この場に居るのは、信長の身の回りの世話をする小姓衆ばかりであった。
夜が更けていった。
信長は酒を飲まなかったが、愉しんでいるように見え、時折、小姓衆にねぎらいの言葉などかけたりもした。
普段、家臣や大名、公家たちに見せる厳しいものとは違い、その顔はずいぶんと優しげであった。
外の警護をしていた者が慌ただしく宴の間に報を知らせに来たのは、そんな折である。
無論、信長が直に受けるはずはなく、別の者が応じた。
知らせの者が言うには、寺の境内にて不審な者を見つけ、これを捕らえたとのことであった。