一の巻・二十五
辺りは静寂に包まれていた。
粗末な家の中には先程までと同様、武将と男が対面で座していた。
「よもや、そなたの話の中にこのわしが出てくるとはな。
今この場におる、このわしが」
間を置いてから、武将が言った。
「失礼をいたしました」
男は頭を下げた。
「今、ここで語らうておるそなたが鬼に変わる、か。
流石は修羅ノ介、そんな話よくも考えつくものじゃ」
「有り難きお言葉にございます」
男は頭を下げたままで言った。
「そなたが本物の鬼であれば良かったのじゃがのう」
武将が言った。
「それはなかなかに難しい要望でございますな」
男はなおも顔を伏せたまま言った。
「そなたの話によれば、わしは生き延びることになるのか?
帳面に書かれた名が消されていたということは」
「さあ?どうなりますことやら。
その先の話までは、私も考えておりませんでした」
「つまらんのう。
続きの話が聞きたいわ。
わしがこの窮地を脱し、あわよくば魔王信長を討つことがあるやもしれぬしな」
武将は落胆したように言った。
「続きをご所望であれば、今から考えますゆえ、しばしお待ちを。
その間、私は別の話をすることといたしましょう」
男は、ようやく顔を上げた。