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一の巻・十三

その夜、一度は引き下がった男が、再び毘沙門象の前へとやって来たのでございます。

片手に小さな蝋燭の乗った燭台を持ち、もう一方の手には別の物を持っておりました。

それは火箸でございました。その先に、真っ赤に焼け、煙を上げている鉄ごてを掴んでいたのでございます。


男は毘沙門像に近づきました。

暗がりの中でゆらめく蝋燭の炎に照らされた毘沙門象の顔は、何とも恐ろしげでございます。

男は像の前に立ち尽くしたまま身震いしておりました。あらためて来てはみたものの、気の迷いが生じたのやもしれませぬ。


不意に声がいたしました。

当然のことながら、それは毘沙門像ではなく、その足に踏みつけられております鬼のものでございます。


「おまえが事をなさぬ限り、女を手に入れることは出来ぬのだぞ」


男は手にしていた燭台を下に向けました。

毘沙門象の下にいる鬼が炎に照らされました。

その顔は暗がりであることも相まって、昼間よりも一層邪悪なものに見えたのでございます。


男は返事をすることも、うなずくこともなく、もう一方の手に持った火箸の先の鉄ごてを像に近づけてゆきました。

その先には、隆々とした毘沙門天の脛がございました。

一方で、男の手は哀れと思われるほど震えていたのでございます。


しかし、鉄ごては毘沙門象の足にすぐには触れず、手前で止まりました。

男自体の動きもピタリと止まったのでございます。

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