五ノ話・五
私は土地神の言葉を信じず、
「きさまが手を出せるのは、治めている自らの土地だけであろう。
そんな狭い所で、どうやって貴人など捕まえるつもりか」
そう言い返しました。
ところが、土地神は顔をにやつかせ、こう言ったのでございます。
「わしの治めておる土地に寺が建っておる。悪くはない造りの寺じゃ。
ところでな、この寺に度々泊りに参る者がおる。わしは、この者を身代わりとして立てるつもりじゃ」
私は土地神の話を信じることが出来ず、醜悪な顔をじっと見ておりました。
「こ奴はただの男ではないぞ。大名、それも天下を治めようとしておるのじゃ」
土地神はそう言うと、私が地獄から持参しておりました、この閻魔帳に、とある人の名を書き記したのでございます。
修羅ノ介は、信長に目を向けた。
信長は、やはり、じっと座っていた。
しかし、
「それが、織田信長公の名でございました」
修羅ノ介が言うと、腰に差した刀の柄に手をかけた。
修羅ノ介は、続けた。
私は、閻魔帳を手に地獄に戻りました。
閻魔にそれを見せ、土地神の言いしことを伝えました。
すると閻魔は、あろうことか、それで手を打つ、そう言ったのでございます。
私が驚いたのは当然でございました。
こんな理不尽なことがありましょうか。
土地神は自分の罪を他の者の命で償おうとしているのですから。
しかし、人の生き死にに関して、閻魔の決めたことは絶対でございます。
よって、私はこうして信長公の命を貰い受けに参ったのでございます。
修羅ノ介は、にやと笑った。