第3話「天国の住人って手が光るんですか?」
「う・・・・・」
目覚めると・・・そこは―――、
「どこ!?」
目の前に広がるのは、青い空、白い雲。
そして俺は、浅い湖に腰と手をついて座っていた。
風がそよそよと吹いている。
でも服は当然のこと、びしょ濡れだ。
ここは天国?
神様、俺は死んだのでしょうか。
「きっとそうだ!そうなんだ!!うわー俺ってなんてかわいそうなんだろう。17歳の誕生日に溺死なんて・・、もっと生きてたかったのにー」
なんだか泣きそうになってきた。
本当に天国ってあったんだな・・・。
ポチャン
ん?
「おにいちゃんが、次のひと?」
俺が、上半身だけを動かし後ろを振り返る・・・と、小3くらいの少年が立っていた。
「君は・・・・・」
白くて、なんか神様みたいな服を着て立っている少年。
珍しい銀髪で、瞳までも綺麗な銀だ。
おそらく彼は外人だろう。
彼もこんな幼くして亡くなったのだろうか・・・。
もっと生きていたかっただろうに・・・。
俺は、泣きたいのを我慢して、その男の子に声をかけた。
「ごめんね、ちょっといいかな?俺、ここの新入りなんだけど・・・・・」
すると少年は、子供らしい無垢な笑顔でこう言った。
「ここにいるってことは、やっぱり、おにいちゃんがこんどのおうさまなんだよね?」
「は?」
はて、王とは一体なんのことだろうか。
果たして天国に王がいるのかは不明だが、俺は天国の王様になった覚えはないな・・・。
・・・そうかッ!!
子供はそういった話が好きなものだ。
特撮ヒーローもののアニメを見ては、わーチャルメラマンかっこいー!!だの、御面ライダーさいきょー!!だの。
俺も昔は、ふろしきでマント作って枝持って「あくのだいおうをたおしに行くんだ!!」とか言っちゃって、町中その格好で駆け回ってたもんさ。
きっとこの子も、そういった遊びの最中なのだろう。
ここが天国かそうじゃないかはさて置き、この場は乗ってやらねば。
俺は立ち上がり、手で拳を作って胸の前に置いた。
そして力強く・・・・・・・、
「おう!我こそが次代の王だ!!」
我ながらノリノリだ。
「やっぱり!!よかったー、ちゃんとこっちに来れたんだね」
この遊びはどういうストーリーなのだろう。
それが分からないと、進めようがない。
「こ、こっち・・とは?」
「え、もうぜんぶ知ってるんじゃないの?ぼくはてっきり、もう魔人の人たちがどうにかして、おうさまのきおくを思い出させたのかと・・・・・」
魔人!?
ということは、俺は悪役側か・・・?
「お、おう。う・・・・っ」
「どうしたの!?おうさま!!」
何故かいきなりしゃがみこみ、苦しみ始める俺。
「う・・・うおおおおおおおおー!あああーっ!!」
「おうさま!?」
ここは、まだ記憶は曖昧で、ここで一気に全て思い出す、という設定にしよう。
「お、思い出したぞ!!全て!!」
「ほんとう!?」
と、いうことにしたのはいいものの、やっぱり俺が何も知らないという事実は変わらない。
「よかったー・・。じゃあ、ぼくは、なにもせつめいしなくてすむよね」
しまった。
そのままにしてれば、ちゃんと説明を受けられたのか。
やっぱり何も知らないということにすればよかった!!
「じゃあ、ぎしきをはじめちゃうね」
儀式・・・・・?
少年が腕を伸ばし、俺の胸の前で両手のひらを前に突き出した。
俺の胸に触れるか触れないかというところで、両の手のひらを形が三角形になるように重ね合わせる。
なんだなんだ?
そして、目をつぶり、なんだか呪文らしきものを詠唱し始める少年。
気づけば、今までそよそよと吹いていた風はいつのまにか止んでいる。
「此処神の御許において、彼の儀式を始めんとする。此れにより、貴様は此の国の命運を任じられる事となろう」
ずいぶんと本格的だな。
これはなんのアニメの台詞だ?
まさか自分で考えたわけではなかろう。
でもそれを全部覚えるとは、なかなかのマニアだ。
しかし・・・・・、
「其の覚悟はあるか?」
なんだ最近のガキはこんな演技力持ち合わせてんのか・・?
とても子供には見えない。
この大人顔負けの演技力、あとでスカウトしてもいいかな?
「お、おう・・・」
「よかろう」
少年の重ね合わせた手が黄色い光を帯びた。
「・・・・・は!?」
「ならば貴様を此の国の新たな王として迎え入れる。此の儀式が終われば貴様は此の国の君主だ。その自覚を持ち、何時如何なる時でも国民を守り、臣下を信じ、己を貫け」
少年の手が帯びた光はますます大きくなる。
まるで超ミラクルな技でも出しそうな勢い・・・・・。
あれ?
―――否、
光っているのは、俺の胸の方だ。
「では、ここに王の証を刻む」
「ちょ、待て待て待て待ていっみわかんねーし!!」
なんで俺の胸が光ってんのッ!?
おかしいだろこれ絶対変だろ!!
なのにどうしてこの少年は落ちついてられるんだ!?
もう誰かこの状況分かりやすくこの俺に説明してーぇっ!!
少年がゆっくりと目を開ける。
「魔王刻印・・・解」
開いた瞳に圧倒され、鳥肌が立つ。
ドクン
「・・ッ・・・・・!!」
一瞬、体中の血がざわめいた。
何かが俺の頭の中で何かを探し始める。
それはなんだ。
見つけてはいけないもの?
見つけたほうがよいもの?
もういいや、なるようになりやがれ。
光はどんどん増大し、俺と少年の体を包むまでになる。
視界が光で埋め尽くされ、、自分と少年の姿が見えなくなる時、俺は、こんな目にあわせた自分の不運を呪った。
こんどはなんだよ。
もういい加減に終わってくれ。