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第2話「すいません、部屋を間違えました」

なんだこりゃ。






「・・・・・・・」






そこにはいつも通り、あっちこっちに漫画が散乱している俺の部屋が・・・・・、

































・・・なかった。




床に所狭しと並んでいる漫画、毛布のみだれたベッド、ゲームソフトが山になって置いてある机も、なにもかもがさっぱり消えて、というか部屋自体がもうなんかなくて、代わりに広がっていたのは暗黒の世界・・・。


枯れてるのに何故か果物のようなものが生っている木が所々にぽつりと立ち、土は乾ききっているようで、肌寒い風が吹き、まるで魔女の館でも建っていそうなほど気味悪い風景・・・・・・・























でもなく、















そこには、全く訳の分からない部屋が存在した。







「えっと・・・・・」
















サプライズプレゼント?














そんなまさか。

どこの時代のどこの世界の一体どんな国に、フリル全開の洋服にカーテン、何もかもがピンク色で、あっちこっちにクマやらウサギやらのぬいぐるみが置いてある部屋をプレゼントする奴がいるだろう。


小さな女の子なら分かる。

いや、かろうじて女ならまあ分かる。

だが男はないだろう。

17歳にもなって、身も心もすっかり男で、それなりに成長した高校2年の男以外の何者でもない男が、こんなものをプレゼントされるとは思わなかったね。




ひらっひらのスカートはいて、ウサギちゃんのぬいぐるみ持って、ほらそこの屋根つきのピンク色のベッドに座ってはい、チーズ。

よかったね勇人くん、17歳の誕生日おめでとう。








「ってそんな訳あるかあああッ!!」








なんだなんだなんなんだこれは。

おいおいおいおいどうしたこれは幻覚か?

ああそうか、きっとゲームのやりすぎで目が疲れてるんだ。




一旦閉めよう。




そうすれば、きっと次開けた時には極普通の平凡すぎるほど平凡な、俺だけの、俺の部屋だ。



バタン、と、ドアを閉める音がし、俺はドアの閉まった部屋の前に立ち尽くした。



もしかしたら、俺はもうこの扉を開けないほうがいいのかもしれない。


このままそっとしておこうか。


うん、そうだよ。

別にこの中がどうとかじゃなくて、うん違くて、なんとなく・・別に何もこの部屋で寝なくてもいいんじゃ・・・・・。

ホント、別にさっきの幻覚があまりにもリアルだったからとかじゃなくて、なんでもなくてただなんとなくなんとなく。

なんとな・・・く・・・・・・・。




でも、




「・・・ははは、どうせ開けてもなんもないだろうしー、だいたいさっきのただの幻覚だしー、まーいっかー」




俺は、そう言いながらドアノブを掴む。





緊張の一瞬。





ガチャ、と・・再び、自室のドアが開かれる。






「え、ちょ、な・・っ!?」





とりあえず、ドアを閉めるより先に足が動いた。

というか、正確には、閉められなかった。


水の及ぼす圧力のせいで、ドアは、どんなに精一杯の力で押しても閉まる事はなかった。

仕方ないから閉める事は諦めて、・・・・・早く逃げなければ。






「うわあああああああああ!!」






二階建ての一軒家に、俺の絶叫が響く。

俺は、力の限り手と足を動かして、ただ前へ前へと懸命に走った。




死ぬ、死ぬ死ぬ死ぬッ!!

これは死ぬだろう!!

絶対に死ぬ!!

なんだよ、俺はこんなプレゼントをサンタさんに頼んだ覚えはねーぞ!!



サンタは誕生日ではなくクリスマスだと、自分で自分にツッコミを入れる余裕などはなかった。



俺の部屋から、いや、俺の部屋があった場所からは、一体何がどうなったのやら、水が勢いよく押し寄せてくる。

タイタニック号の乗客たちって、こんな気分だったのかな。



確認しておくが、別に俺の家の近くには海とか水族館があるわけじゃないし、俺ん()にはこんな水が出てくるようなアトラクションもない。

いくら親がそこそこ有名でそこそこ稼いでたって、まさか自分の家にそんな機能をつける馬鹿者はいないだろう。



でも、だったらなんでこんな水が大量に出てくるんだ。

とうとう宇宙人の地球侵略が始まったのか?

それとも誰かが近くで温泉でも発掘したか?

でも、今の俺にはそんなこと関係ない。






後ろから、どぷりと冷たい液体が襲ってきて、俺はとうとう水に捕まってしまったんだと抵抗を諦めた。






あー・・俺、死ぬのか。

こんな何もない誕生日に、まさか自分の家で溺死するとは。

こんなことなら、一日中ゲームばっかやってるんじゃなかった。

昔好きだったあの子に思いを伝えて、ムカつくあいつの顔面にケーキ投げつけて、進学進学うるさかった担任には大学進学なんかしねーよと跳び蹴りくらわして、そんで、あとは・・、あと・・・は・・・・・・・。




幸せじゃなかったけど、俺を産んでこれまで育ててくれた母さんに一応ありがとうって言って、俺が3歳の頃逝っちまった父さんの墓参り行って・・・・・、ああ、でも意味ないか。




だって俺、もうすぐそっちにいくんだもん。




最後に、あまりにも平凡すぎた世界にあっかんべして、サヨナラ。



待っててね、父さん。

顔なんかもう忘れちまったけど、そろそろ会えるみたいだ。



さらば地球よ、さらば日本よ、さらば、俺のつまんない人生・・・・・・・。














「・・ってあれ?」














苦しくない。

ナンテコッタ。



水の中にいるのに、息ができる!!



こりゃたまげたぞ。

俺って実は超スーパーミラクル少年?

それともこの水が・・・・って、は?






















「だんでびっばらででんのッ!?」






















なんだなんだどうした!!

まったく何がどうしたってんだよ!!

勘弁してくれよ・・・。

なんで水に引っ張られる?

なんで部屋に吸い込まれる?

水がまるで生き物のように俺の体を掴んで・・・俺は一体どうなるんだ。


この行き先は、本当にあの世?


どれだけ足掻いても、やっぱり水流はとまらない。

助けてと叫んでも、どうせ母さんは仕事でいないし、水中じゃまともに喋れない。






俺って無力。






嗚呼、神よ。

どうして俺にもっと能力(ちから)を与えてくださらなかったのでしょうか。

せめて、今に自分を吸い込まんと待ち受けている扉の向こうから逃れるくらいの能力(ちから)を。





薄れていく意識の中で、そんなのムリポ、と言う神様の声が聞こえた気がした。

そのまま、俺の意識はフェードアウト。

























さよなら、俺の平凡な日常よ。

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