後日談:スーパーコンピューターでも求めきれない関係
後日談① 黒田さん視点
あの日のことは薄ぼんやりとしか覚えていない。泉が後日直接ごめんねと言われたついでに事のあらましを伝えてくれた。
姉が心配で、つい手が出てしまった、と。
こいつ、超シスコンだもんなあ。
大学生の頃からの付き合いもあって、しょうがないやつだなあと、咎める気が微塵も沸いてこなかった。
同日、翠さんも直接出向いてくれた。勤務後だったのか彼女はスーツ姿だった。
「あの時はごめんなさい。そして私はあなたと付き合えないです」
言われたことを要約するとこんな感じで。さらに、この結末はなんとなく予想がついていた。
男だらけの研究室で、激務で、出会いが無い環境。そこに数年ずっと居たせいもあって、ただただその存在に固執してしまい、数年燻らせた恋。
無事それを終えることが出来て、勿論悲しかったが同時にどこかほっとしていた。
「そろそろ自分も、婚活しないとダメかなあ」
白衣をハンガーにかけ、鞄を持ち、外に出る。17時なのにもう暗い。
まだ誰かが残っているのか、校舎には明かりの灯った部屋が複数あった。
帰り道には偶然、あの双子がゆっくり歩いていた。
泉が翠さんの腰を引き寄せて、翠さんは笑い声をあげていて。
「ずいぶん楽しそうだな……」
なんとなく気まずくて、しばらく距離をとり眺めていたが、肌寒さに耐えきれず追い越すことにした。
無言で通り抜けるのも変なので、お疲れー、と声をかける。一瞬ぎょっとしてたがすぐ平常通りの顔で二人はお疲れと返事してくれた。
前よりも一層親密そうに見えたのはきっと、自分がどこか寂しい人間だからだ。
「黒田さんは、少しお人よし過ぎるって思うんだ……あと、鈍い」
「うん。だから今度僕やお姉ちゃんに合コンの誘いがきたら、黒田くんを送り込むことにするよ。いいひとに会えますようにってね」
「それ男女比狂って嫌がられると思う……」