6/10
6話 3.1415
泉ちゃん……。
再び、意識がまどろんでいく。
悲しい、苦しい、楽しい、嬉しい。今の私はどんな気持ち?
ああ、でも、忘れかけていたけど、あの日の出来事はやっぱり悲しい、苦しい、何より怖い。
でも、なんだかよくわからないけど、その記憶が段々霞んでいく。波紋が広がる水面の様にぐにゃぐにゃと歪む記憶。それと同時にオーロラみたいに広がる光景。
それは、絵本の世界の美少年が、そっくりそのままな美少年を池から引き揚げ、嬉しそうに互いの手を絡め頬擦りをする光景。そして二人を祝福するように池の周りを囲む白い毒花の、青臭く甘やかな香りが充満していく。まるで記憶を、それに付随する悲しみを、優しく包み隠していくかのように。