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スガノ内科医院での捕獲作戦【前編】

【高校2年生サッカー部男子のケース(前編)】


 放課後、サッカー部の練習中にボールの競り合いで倒れ、全身を地面で強打してしまった。頭部も少し打ってしまったかもしれない。自分では何ともないと思ったが、仲間から診察を勧められ練習を早退し、高校からほど近い場所にある【スガノ内科医院】という病院を訪れた。

 

 商店街の中ほどにある【スガノ内科医院】は、通学時に何度もその前を通り過ぎてはいたが、診察を受けるのは、今日が初めてだ。外観は、良く言うとレトロだが、はっきり言って古くて汚い。こんな所でまともな診察が出来るのか不安だったが、駅前の大きな病院は患者も多く、待ち時間が長いので、今回はレトロな病院を選択した。


 重い硝子扉の入り口を開けて入ると、想像通り消毒の匂いが漂っていた。中は薄暗く正面に小さな受け付けがあり、右手にこじんまりとした待合室がある。待合室のソファも昔のドラマの中でしか見たことがないようなビニール張りの年代物が、現役で使われている。受付と待合室の間に奥へと繋がる通路があり、ドアがいくつか見えるので、診察室が何部屋かありそうだ。間口が小さいので、もっと狭い病院を想像していたが、思ったよりも、奥へと広い空間が伸びていた。

 受付にも待合室にも人の姿は無かった。待合室の壁際の棚に水槽が置いて有り、中に20センチくらいのトカゲが居た。近寄ってみると、ゴツゴツした肌の、濃いグリーン色をしたトカゲが、艶めかしいピンク色の長い舌をぺろぺろ出したり入れたりしていた。

 その時、微かにバラのような香りを感じた。振り返るといつの間にか、白衣の女性が、後ろに立っていた。歳は20代後半くらいだろうか。気の強そうな目力を供えた美しい顔立ち。腰まで伸びる艶のある黒髪。胸に「菅野」という名札。大きめの白いドクターコートを羽織り、ワイシャツの胸元は大きく開き、胸の谷間が見える。ナース用のミニスカートからは、黒いストッキングの長い脚が伸びており、大人の色香をこれでもかと放出している。


「トカゲに興味が?」菅野先生が聞いてきた。

「いえ、舌をペロペロしていたので、お腹が空いているのかと思って」

「・・・そう。貴方は、お腹が空くと、舌をペロペロするの?」

「・・しないです」僕がそう答えるころには、菅野先生は受付と待合室の間の通路を進んでいた。

「診てあげるわ。患者さんでしょ?」女性は振り返り、僕に言った。「第一診察室に入って」そう言い残すとドア開けて通路の手前側の診察室に入っていった。


 診察室の室内も、想像通りのレトロ感を醸し出していた。先生用の机と奥に簡易ベッドを備えた小さな部屋だ。机の上のノートパソコンだけが真新しくて、違和感を感じさせた。

「トカゲは、毎日食事をあげる必要がないから飼育が楽なの。さっきの子は、一度えさを与えたら、暫らくは欲しがらない」長い足を組み替えながら菅野先生は言った。

「・・・そうなんですか」

「あ、そうか。トカゲに興味ないんだったわね。・・・それで?どこがわるいの?」僕は、ここに来た理由を菅野先生に説明した。

「吐き気がしたりとか、頭がフラフラしたりとかは?」

「大丈夫です」菅野先生は、ライトを目に当てて見たり、聴診器を胸に当てて一通りの診察してくれた。


「特に問題なさそうに見えるけど、後で吐き気がしたり、強い頭痛を感じたら、救急車呼んで」

「分かりました。あの、今日保険証持ってきてないんですが・・・」

「・・・この病院へ来るのは初めて?」「はい」

「そう。・・・じゃあ、次に来た時で良いわ。診察料も今日は要らない」

「え?いいんですか?」

「次回来たときは、保険証を必ず持ってくること。診察券もその時作るから」

「・・・わかりました。有難うございました」先生にお礼を言い、第一診察室から出た。出口に向かう途中、何気なく待合室を覗くと、トカゲが入っていた水槽の蓋が、少し開いている気がして立ち止まった。僕の行動に気付いた菅野先生が、声を掛けてきた。

「どうしたの?」「あの、気のせいかもしれないですけど、トカゲの水槽の蓋が少し開いている気がします」

「あっ、また水槽から脱走したな!直ぐ逃げ出すんだからゴロウマルは・・・。キミ、申し訳ないが、帰るのは少し待ってくれないか。今、出入り口のドアを開けたら、外にゴロウマルが逃げちゃうから」

「わかりました」あのトカゲ、ゴロウマルっていう名前なんだ…。


 水槽の中を確認すると、確かにさっきいたトカゲのゴロウマルの姿が消えていた。その時カサカサッと足元で音がしたかと思うと、僕と菅野先生の間を、トカゲのゴロウマルが、通路の奥の方へと走っていった。

「キミ、今日の診察代の替わりに、トカゲを捕まえてくれないか?サッカー部だからトカゲを捕まえるの得意だろう?!」サッカーやっている人間がトカゲを捕まえるのが得意という話は今まで聞いたことはないが、無料で診察してもらった手前、今日はトカゲ捕獲作戦に参加しなければならないだろう。

「わかりました。頑張ります」


 トカゲのゴロウマルは、うす暗い通路の奥へと走っていく。僕は後を追った。通路の先は行き止まりになっているので、ゴロウマルは、袋のネズミだ。いや、トカゲだ。とにかく僕は楽勝だと思った。狭い通路の奥まで追い詰めて、捕まえればゲームオーバーだと思ったからだ。ところが、危機に直面した野生動物の能力は凄まじい。僕が追い詰めようとしたその刹那、奥の壁を蹴って素早く体を反転させ、僕の方へ向かって飛んできた。思わずそれを避けると、トカゲのゴロウマルは、意気揚々と走り去る。向かった先には、菅野先生が待ち構えていた。今度は菅野先生がゴロウマルを捕まえようと手を伸ばすと、それをかいくぐって進行方向を90度変えた。そして、さっき僕が診察を受けていた、第一診察室に勢い良く飛び込んだ。それに続き菅野先生と僕が診察室に飛び込み、急いでドアを閉めた。

「これで、この部屋からは出られないわ。しっかり捕まえるのよ」

「分かりました。頑張ります」そうは言ったものの、ゴロウマルの動きは、かなり俊敏だ。やはり部屋の隅に追い込んで捕まえるのが妥当だろう。


 さっきまで大暴れしたからだろうか、簡易ベットの下のスペースで、ゴロウマルは、じっとしていた。トカゲは、変温動物だ。簡易ベッドの下は室温が低く、思うように体が動かなくなっているのかもしれない。僕はゴロウマルをなるべく刺激しないように、ベッド下のスペースにゆっくりと手を伸ばしていった。しかし、もう少しで体に触れるところまで手を伸ばしたとき、ゴロウマルは素早く動き出した。僕の腕の上を綱渡りのように駆け抜け、肩をジャンプ台のように使って後ろへ飛んで逃げてしまったのだ。


「きゃぁっ!!」後ろから菅野先生の悲鳴が、狭い診察室に響き渡った。振り返ると、ゴロウマルの姿はどこにも無かったが、菅野先生の胸のあたりに蠢く物が確認できた。

「ゴ、ゴロウマルが・・・あっ」何とゴロウマルは、菅野先生の襟元の隙間から、シャツの中へ飛び込んでしまったらしい。ゴロウルマルは、菅野先生の胸と胸の間で行き場を失い、パニックになって大暴れしているようだ。それを証拠に先生の大きな胸が激しく左右に揺れている。

「イ、イヤッ!気持ち悪いっ!!!」菅野先生は、床にペタリと座り込んでしまった。胸の動きは激しさを増すばかりだ。菅野先生の顔も紅潮してきている。

「は、早く、ここから・・・取って。・・・お願いっ」僕は、上目遣いで懇願してくる先生の襟元を左手で大きく開きのぞき込んだ。先生の大きな胸とそれと戯れるように動き回る羨ましいゴロウマルの姿が確認できた。思い切ってそこへ右手を突っ込んだ。びっくりするほど柔らかい胸は、暖かくて汗でしっとりと濡れていた。


 

 











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