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婚約破棄してきた王子で新進気鋭の年収10億円天才研究者を釣った話

作者: よぎぼお


わたしの名前はリリアーネ。

父はヴェイル侯爵で、わたしは長女だ。

上に兄が二人いて、下に妹が一人。


ヴェイル家は学者やら研究者やらを多く輩出していて、知識を好む気質の者が多く、父のジャクソン・ヴェイル侯爵は王国の最新技術を研究している研究所の所長を務めている。そんな父の影響もあってか、わたしたちも貴族学院に入学させて貰い、王国でも最先端のことを学ばせて貰った。

兄二人はそのままお医者さんの道に進み、妹も学院での成績はトップ。

そして私の仕事といえば――


古代書の翻訳である。


古代書の翻訳は非常に価値のある仕事なのだが、多くの知識を必要とするため、なかなかこの仕事に就く人がいない。その為、私は毎日大急ぎであり、忙しい人生を送っていた。

古代書の翻訳は新しい古代書が見つかるたび、毎度のように意見が割れ、学術会議では様々な意見が飛び交い、互いの間違いを指摘し合ったりしてかなり骨の折れる仕事なのだが、わたしは本好きのため、大変でありつつもこの仕事が嫌いではなかった。


そんなある日。

私に婚約の話が出た。

仕事に精を出す余り、余りにも男っ気がなさすぎるという親からの心配であった。私はそんな興味はなかったが、親からの強い勧めということもあり、仕方なくその話を受ける事になった。


自分で言うのもなんだが、わたしリリアーネは外見こそ母に似た銀髪に父と同じ翡翠の瞳の美女なのだが、古代書好きというなんとも変わった趣味持ちなので、今日の婚約相手との初対面は緊張で極まりなかった。


嫌われたらどうしよう。


こんな乙女チックな悩みが私にもあったのである。

謎の両親の計らいもあり婚約相手は知らされていない。

だからこそ、楽しみでもあり不安でもあった。



日が暮れ始めると、私は親に連れられるがまま、ある場所に連れていかれた。

目的地までの移動は馬車での移動となり、外の景色が見えなかった為、どこに向かっているのか全然分からなかったが、馬車が止まり、馬車の外に降りた瞬間、私は分かってしまった。目的地の会場には大々的に『王太子様の誕生祭』と書かれていたのだ。

つまり私の婚約相手は――


今世間で話題沸騰中の王太子!?


なぜ話題沸騰中のかといえば理由は簡単。ただイケメンだからである。だが、あまり良い噂は聞かないし、そもそも私はそんな面食いではない。

私の望む結婚相手は、私の仕事を受け入れてくれて、優しく私を包み込んでくれるような人がいいのだが……


「リリアーネ。どうだ、お前の婚約相手は王太子様だ」


と父親に嬉し気に言われてしまったら、私も「そうですね。楽しみです」と頷く外ない。


そうして若干の不安を抱えつつも臨んだ婚約相手との初対面だったが、



「ああ、お前さんが勝手に親との間で決められた婚約相手か。悪いけど、俺って馬鹿は受け付けないんだよねえ。お前の仕事……なんだっけ? 古代書の翻訳? なんかまさに頭の悪い人がやっていそうな仕事だし、一応ほら、俺って優しいから。お前の書いた論文読んであげたんだけど。うん、よく分からなかったんだよ。もう少し分かりやすく書いてみたらどう? まあ、君の頭じゃ、無理だと思うけど。というわけで、馬鹿は嫌いなので今回の婚約の話はなしってことで」


そう堂々と宣言されてしまった。

それにより思わず私の口から出た言葉は、


「は?」


「なに? 俺の顔、ジロジロ見て。あ、もしかして俺の顔に見惚れちゃった? それは分かるけどだからって、君とは結婚できないよ」


そうぺらぺらと話をしていた王太子だが、何を思ったのかふとその言葉を止めてわたしの顔をジーッと見てきた。


「へー、結構美人なのね。まあ、結婚はしてあげられないけど、一夜くらいだったら……」


そう言って王太子は私の顔に手を伸ばしてきた。

反射的に私はその手を振り払う。


「触らないで!」


「……なに? いま、俺の好意を邪険(じゃけん)にした? は? どういうこと?」


「だからさっきから言っているでしょう。私の身体に触らないでください、と。(けが)らわしい」


「き、貴様……。女の癖に調子に乗りやがって……」


そう言いながら、王太子は私に向かって突進してきた。

昔から護衛術は習っているも、こんな若い男相手に力任せでぶつかってこられちゃ、流石にヤバい……そう思った瞬間。


「大丈夫ですか?」


という声が私の後ろから聞こえた。

気付けば、私の前にある王太子の拳は、後ろから聞こえる声の主の手によってしっかりガードされている。


「は、はい。助けて頂きありがとうございました」


そんなやり取りを交わしていると、


「……誰だ……ッ、お前! 俺の邪魔をしやがって!」


王太子が絶叫していた。


「ああ、これは失礼、王太子様。家畜が王太子様の誕生祭に迷い込んでいると勘違いしてしまいました。そしたら、その家畜が王太子様だったというわけです。すいません、とんだ失礼を」


「き、貴様……」


私を守ってくれたこの男性は、言葉では一応礼儀を守っているが、文面はといえばもう煽りに煽りまくっている。


「誰だ! お前は誰なんだ!」


「失礼。遅れました。私の名はヘンリー・エヴァと申します。以後お見知りおきを」


「ヘンリー・エヴァ!?」


私はその名を知っていた。

彼はいま、王国で話題を席巻している、父の研究所で働く新進気鋭(しんしんきえい)の超天才研究家であった。


「ん? 貴方、まさか……」


ヘンリーが私の顔をみて唸った。


「もしかして……ヴェイル侯爵の娘さん?」


「は、はい」


ヘンリーはそう聞くと、彼は急に饒舌(じょうぜつ)になって話し始めた。


「ああ、貴方が。私、読ませて頂きましたよ、貴方の古代書に(まつ)わる新説の論文。もう予想の一歩先をいっていて驚きました。そういう考え方もあるんだなって視野が広がりました」


「あ、ありがとうございます」


「こんな綺麗で頭の切れる女性はなかなかいませんからね。本当に凄いですよ、貴方は」


「ありがとうございます。私も貴方の研究の話は父から聞いてて……」


「ああ、そうなんですか! その節はどうも」


そうして二人、仕事の話で盛り上がっていると――


「お前ら、調子に乗りやがって……」


という王太子の声が聞こえた。

だが、王太子の言葉に耳を傾ける者は誰一人いなかった。

わたしの研究のことをよく知らないで、私を”馬鹿”だと非難し、挙句の果てには手まで出そうとした人として終わっている獣に言葉を上げる意味など全く持ってないのだから。



そうして、それから一ヶ月後。

王太子は捕まった。理由は女性へのセクハラ行為だという。今までもその手のことはよくあったが、遂に彼の父親の堪忍袋の緒が切れたとのこと。王太子という身分に甘えすぎた男の悲しい末路だった。


それとは対照的に私とヘンリーは付き合うことになった。

結婚するかは分からない。

でも、お互い仕事との両立はできているしこの関係が好きだ。


そういえばこないだ見つけた東の果てにある古文書に『海老で鯛を釣る』という諺があったが、まさに今回がそんな話なんだと思う。


婚約破棄した王子で新進気鋭の年収10億天才研究者を釣る。



それが私たちの出会いとなった。


読了ありがとうございました!


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― 新着の感想 ―
[気になる点] そもそも主人公を心配して主人公の親が持ってきた縁談なわけで 父親は初めから自分のところの所員である天才君を婚約者にすれば(物語は始まらないが)よかったのになんで主人公すら知ってる「良い…
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