中世ヨーロッパ
場面は16世紀ヨーロッパ。彼はその国で有名なブローニュ家の息子(跡取りは兄)、私は遠縁のアルトワ家にあたり家族同士で仲が良くお互いのの城も近かったので、幼い頃から一緒に学んだり遊んだりしている、幼馴染みと言うより心の友のような間柄だった。
私は彼の兄に恋心を寄せていて、それを彼は知っているような感じはしていた。
姉妹達が好むような人形遊びなどが苦手で、男兄弟達と追いかけっこや虫を捕まえたりしているのが好きだった。特に彼と一緒に語学の先生にいたずらをしたり、馬術を競い合ったりする時間がとても楽しかった。
そんなある日、城の庭園でかくれんぼをしていたら日が暮れてきてしまった。
「もう!誰も私の事を見つけられないのかしら…」と不貞腐れて城へ戻ろうとした時、突然背後から足音がした。慌ててまた隠れようとしたんどけど遅くて彼に見つかってしまった。
私の事をかなり探したように見えてちょっと嬉しかった。
辺りは夕闇に染まる中、ふいに彼の手が私の頬に伸びてきた。私はなんの疑いもなく、頬っぺに泥でも付いているのかと思って、自分でも拭おうとしたら…そのまま彼が私の唇にキスをしてきた!!
すごくビックリした私の表情を見て彼は走って行ってしまった。
だけどどうしたんだろ、私は彼の兄のことを好きなはずなのに、この激しい胸の高鳴りと、彼の姿が頭から離れなくなってしまった…
それから彼の顔を見るとニヤけたり嬉しくなったり、でも2人でいる時はなんだかぎこちないような日々を送っていたある日、突然母の書斎へと呼び出された。
親の意見は絶対だった。私は山を超えた隣のまたその隣の国のバーベンベルグ家の当主のところへ嫁ぐことになったのだ。
政略結婚や自分の倍以上の年の離れた結婚は珍しくはないし、家や家族の為なら喜ぶべきなんだろうが、もう戻れない、見知らぬ場所へ行くことの不安が心の中で渦を巻いていた。
「彼はもうこの事をきっと知っているよね…」と考えながら花嫁修業のようなことや語学などを個別で勉強させられている毎日が1ヶ月ほど続いたある日の夜だった。
やけに風が強く窓がガタガタと揺れる夜、ベッドに横になったがなかなか寝付けなかった私は、風の音でもなく窓をコンコンと叩く音に気付いた。
まさか!と思ったが彼が窓の外にいて黙ったまま思い詰めたようにこちらをずっと見つめていた。
思わず声をあげそうになるのを堪え、そっと窓を開け、音を立てずに招き入れた。
お互いになんの言葉も要らずすぐさま抱き締め合った。
改めて彼のことをこんなにも愛おしいと感じた… きっともうあなたには二度と会えない… このまま2人で逃げてしまったらどうなるんだろう… 泣きそうになるのを必死で堪えながら何度も抱き締め合い、唇を重ね、そして夜が開ける前に彼は部屋を後にした…
数日後、結婚相手からの迎えの馬車が到着し、使用人が嫁入り道具を積み込んでいる。その合間に両親や家族と笑顔でお別れの挨拶をした。
二度と戻れない思い出ともサヨナラしなきゃと馬車に乗り込んだ時、視線の先に彼を見つけてしまった…
なんでそこにいるの?笑顔で行こうと決めていたのに…
何故かハッキリと彼の顔が見える。「できればずっと一緒にいたかったよ。愛してる、愛してる… だからあなたは幸せになってね…」
あなたが顔をグシャグシャにしながら涙を流している姿に、堪えていた涙が止まらなくなって、思わず声を出して泣いてしまって夢から覚めた… しばらく嗚咽が止まらず布団から起きれずにいた。