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違う場所で同じ月を見ている  作者: 佐藤琉奈
30/37

蒼の来店

案の定、目が覚めて鏡を見たら瞼が腫れていた。

冷たいタオルで冷やす。

蒼に送ったLINEは既読になっていたが、返事はなかった。

健吾に、好きな人がいると伝えなければ…

しかし誰と聞かれたら?なぜ好きになったのか説明しなければなのか、健吾を嫌いになったわけではないのは本心だし、かと言って説明は難しい…

頭を悩ませる。


日曜日の営業は深夜になると空いてくる。今日も午前2時を過ぎて、お客はひと組だけになった。

そこへジャージにハットを被った男が入ってくる。普通に今どきの若い男性らしい。蒼だった。

「いらっしゃいませ。」私は一瞬で笑顔になった。

蒼はカウンターに座るとビールを頼んだ。

「僕あまりお酒は飲めなくて、1杯だけ。」と言って照れているように笑った。

生ビールを用意している間に、店内にいたひと組のお客が会計しているようだ。LEVANTERのお客は蒼だけになった。

「本当は今日、行くかどうかすごく迷ったんだけど、来てしまいました。」と私の顔を見て微笑んだ。

「隣に座りませんか?ここ。」とカウンターの蒼の隣の席を指した。


「うわ、ほんとに沙也香さんだ。笑」

SNSの写真だけしか見てなかったからかしら?

「そんなことを蒼くんに言われるなんておかしい。普通は逆でしょ逆。笑」

私は少し小さめのグラスに生ビールを入れて、蒼と乾杯した。

「思っていた通りの人だよ。」と優しい目で私を見ながら蒼は言った。

私はあなたと話したり隣にいれるだけでも幸せだ。ふと夢の中の出来事を思い出す。彼が去って行った後ろ姿が目の前に浮かびボーッとしてしまった。

その時、蒼が私の手を優しく握ってきた。

「……。…沙也香さん手が小さいね。」思わずドキッとして顔が赤くなりそうだった。

「そうなの、身長も高くないし。」

「だよね、小さいもん。俺もそんなに高い方じゃないけどね。笑」と蒼はその手を握ったり自分の手と合わせたりしていた。


「あれ、めっちゃラブラブじゃないですか? 僕はこのへんであがってもいいですか?笑」店員の春山だ。時計を見たら3時を回っていた。

「あ、そうだね。ひと通り片付けたらあがっていいってチーフにも伝えて。あとは私がやるから。」

店が営業時間内であることを忘れそうになるくらい、2人だけの時間が流れていた。

「俺もそろそろ帰った方がいい?」と蒼が聞いた。

「ダメ。私が終わるまでいい子で待ってて。笑」

そう言ったらすごく嬉しそうな恥ずかしそうな顔をしていた。

リモコンを渡して好きな動画を見ててと蒼に言った。


店員たちが先にあがり、最終チェックを済ませて生ビールと一緒に蒼の隣に座った。「このビールはナイショね。」

蒼は真剣に画面を見ていた。選曲にKPOPが多かった気がする。

「すごく勉強になるし、ダンスをコピーしたりするんだ。ダンスだけの動画もあってすごいんだよ。」

かなり熱く語っている。そうか、蒼のダンスの原点はKPOPなんだ。たしかに目を引くものがある。

「ごめんね、待たせちゃって。」

「大丈夫、俺もこんな大画面で見れたのは初めてだから良かったよ。」「でも、早く隣に来て欲しかった。」

そう言って蒼は私の手をまた握り、軽くブンブンと振り回した。

私はその手を恋人繋ぎにして2人の間で握ってみた。ちょっと恥ずかしい…

「今日は来てくれてありがとう。」と繋いだ手にチュッと唇をつけた。

蒼は少し驚いたようだが、繋いだ手を嬉しそうに見て、ビールをゴクリと飲んだ。


「そろそろ帰ろっか。」

飲んでいたグラスを片付けて、店内の照明を消していたその時、蒼が急に後ろから抱きしめてきた。

「また来るからね。」

「うん。待ってる。」

夢で抱きしめられた時と同じ感覚なのか、そんなことはもうどうでもよくなった。ずっとこの腕の中にいたいと思った。


外はもう薄明るくなっている。LEVANTERの鍵閉めた。

蒼とは逆方向だけど駅まで一緒に行くことにした。この時間ならちょうどいい。蒼は黒いマスクをつけた。

2人で仲良く歩いている。

その2人を建物の物陰からジーッと見ている健吾がいた。

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