ボロアパート10
次の日、大家の婆ちゃんと一緒に102号室へ向かう。
古いドアがギーッと音を立てて開く。
部屋の作りはやっぱり同じなんだな…。
玄関から入ってすぐに小さい子供が座る椅子が奥に見えた。やっぱり子供いるんじゃねぇか。
「なぁ、大家さん。母親が死んじまってこの家の子供ってこれからどうなんの?」
アイツが戻って来るかはわからんが、一応聞いておかないとな。
「あんた何言ってんだい?この家の子は何年も前に亡くなってるよ。あれを見てごらん。」
婆ちゃんが奥の部屋の隅にあるタンスの上を指さす。
綺麗な布で包まれた小さな箱…?とアイツの写真が置いてある。
「え?…はっ!?ど、どういう事…?」
俺には何がなんだかさっぱり…理解出来ない。
「なんだい。あんた知り合いだったのかい?あの子はね…」
婆ちゃんが何か言ってるが耳に入らない。
だってアイツ昨日まで俺の部屋にいて…普通に飯とか食ってたぞ。
なのに本当は死んでるとか…。
つーか、去年の夏頃に見かけたよな?
あの時もう…
え?…じゃあ、アレってなんだったんだ?
昨日のあの黒い腕を思い出した。寒気が止まらない。
俺、もしかしてめちゃくちゃヤバいのを飼ってたんじゃ…
バッ!視線を感じて後ろを振り返る。
玄関ドアから横向きに顔が覗く。
アイツだ…
真っ黒な目をこちらへ向けて笑っている。
「お兄ちゃん。助けてくれてありがと。でももういいよ。……バイバイ。」
身体中がガタガタと震える。
恐怖で身動きが取れない。
ドサッ
「ちょ、ちょっと!あんた、大丈夫かい!?しっかりしな!」婆ちゃんが慌てて駆け寄る。
ガァーンッと頭を殴られたような衝撃を感じた。
と同時にブチンッと何かが切れる音がした。
あ、俺死ぬんだな…。マジか。
…次に目が覚めたのは病院のベッドの上だった。
「絶対死んだと思った。これで済んで良かったのか…?」
医者から説明を聞いた後、一人ベッドで呟く。
脳の血管が切れたらしい。
絶対にアイツのせいだと思っていたから、ちゃんとした病名がついて驚いている。
くも膜下出血だそうだ。
しかし、後遺症が残りこの先俺は車椅子生活になるそうだ。
けれど、これで良かったんだと思う。
原因が何であれ、俺のした事が許される訳がないんだ。
あんなに酷い事をしたのに、まさかありがとうなんて。
ごめんな。
アイツ、母ちゃんと会えたのかな…?
救急車のサイレンが遠のく。
「やっと行ったか。あの男、なんであの人の部屋に入ってたんだ!?……絶対に許さないっ!」