EX/Sub:”事件記録20■■■■■AH7729”
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〇概要
本事件は20■■年■■月■■日に発覚したものである。当事件は、ユニオン■■■の部隊員の個人情報の一部が部外に流出していることが発覚したことにより発生した。なお、部隊員に関しての調査は完了しており、また所属部署における情報セキュリティクリアランスに違反は発見されなかった。
事件の発覚は、同年に発生した■■■社の記者Aによる記事捏造事件をもとにする。記者A、並びに所属していた■■■社は後述の団体と金銭的・情報的な相互関係を築いており、情報源としていたことが判明している。記者Aが当該職員並びにその家族を脅迫する際にユニオン内部情報の存在を示唆したことにより、漏洩が発覚した。
ユニオン日本支部■■■班は当該職員からの連絡を受け、捜査並びに情報セキュリティクリアランスの検証を行った。結果、クリアランス違反が見られなかったことにより、本件は情報部局の案件とされた。
情報部局の捜査の結果、■■■社の反政府団体『■■■』との金銭的・情報的・人員的取引が判明した。反政府団体『■■■』はクラスC要警戒団体として登録されていたが、本件の後にクラスAへと引き上げられた。また、捜査線上で、団体が本次元又は平行次元の魔術的なテクノロジーを用いていた可能性が浮上したことも引き上げの理由となった。
当該事象が判明した時点で、本件においてデフコン3が発令され、またカルネアデス・プロトコルのレベル3が発令された。
反政府団体『■■■』の一掃を目的とした、オペレーション・■■■が行われ、特殊作戦班■■■、■■■により、■■■社に対する日本政府との共同処置が行われた。結果、【削除済】社はユニオンの情報セキュリティプロトコルに協力することを確約し、すぐさまに記事捏造事件の公表が行われた。
※追記:■■■社は、日本政府により外患誘致罪、テロ等準備罪、スパイ防止法の適応が行われ、20■■年■■月■■日に業務停止処分となった。社員に関しての追跡記録は、レポート番号【セキュリティクリアランスが必要です】を参照。
記者Aに関してはユニオンのオペレーション開始と同時に逃亡が確認されており、情報部局による追跡が継続されていた。その結果、旧東京エリア■■■地区に潜伏していることが判明し、同時に反政府団体『■■■』の拠点が当該箇所であると判明した。ユニオンは反政府団体『■■■』の殲滅作戦を決定し、特殊作戦班■■■が20■■年■■日■■時■■分に投入された。
特殊作戦班のとの交戦時に、反政府団体『■■■』から魔術的な要素を含む攻撃が確認されたことにより、前述の情報が確定し、■■■の使用が許可され、エリアの一部が消失した。また、■■■の使用により団体の魔術的攻撃を妨害することに成功し、航空戦力の投入と共に制圧は速やかに進行した。
記者Aの確保には失敗。隊員の視界カメラからは、記者Aが武装し、団体と共に攻撃に参加している映像が記録されており、これより団体の戦闘員と記者Aを誤認したものと思われる。記者Aは確保時にはまだ生存しており、救急搬送されたものの、団体の魔術的な処置により回復術式が妨害されていたことを含め、出血性ショックにより73時間後に死亡が確認された。遺体は情報部局に送付され、解析に回された。
作戦開始から■■時間■■分をもって、団体の殲滅が確認された。団体と他企業との接触に関する調査の結果はレポート番号【セキュリティクリアランスが必要です】を参照。
同団体の殲滅をもって、オペレーション・■■■の終了が宣言された。
>以降の詳細なレポートはアーカイブに保存されています。
>レポートの全文を閲覧する場合は、アーカイブ保管担当に閲覧の申請をしてください。
>申請に進みますか?
>[y/n]
「父さん」
久々の、実家での夕食。それが終わり、退屈な皿の片づけ。それも終わると、皆ぞろぞろと各々の部屋に戻っていった。竜人姿のユーリは、父と母の姿を探して屋敷の中をうろついた。そうしてたどり着いたのは、縁側。満月が煌々と縁側を照らしていた。
「ユーリ、どうかしたか?」
作務衣姿の理人は、片手に琥珀色の液体の入ったグラスを傾けていた。
「飲んでるの?」
「ああ、麦茶だ」
ユーリは、苦笑いを浮かべながら隣に座る。遠くで鈴虫の音が響いていて、夏の風情を感じさせている。
小さく、空気が動く気配。ユーリがふと反対を見ると、浴衣姿で、竜人姿のリリアがユーリを挟んで隣に腰掛けていた。
「母さん」
「何か、楽しそうな気配を感じましたので」
そう言ってほほ笑む母親。父親は、楽しそうにグラスを傾けた。
「そういえば、さ」ユーリは、父に向けて言った。「エリサさんの事、ありがとう」
「……気づいてたか」
父親が少し恥ずかしそうに頬を掻く。
「わかるさ。西穂なんて苗字。それにこういうのはもっと……時間が、かかるはずだろう」
「大人の事情があるものですよ。それが、受け入れられないものだとしても」
母親が言う。ユーリは、静かに苦笑いを浮かべた。
再び、場を静寂が満たす。ただただ、夜に浸る。
長い静けさを、静かに破いたのは、ユーリだった。
「……アンジーと、仲直りできたよ」
ユーリがぽつりと呟く。母親はほぅ、と小さく息をつくと、ユーリに返した。
「それは、良かったです。本当に」
母親は優しく言う。だけど、とユーリは続けた。
「あの時、僕の中に芽生えた感情……あれに、ケリを、つけられたと思う」
ユーリの母も、父も、何も言わなかった。
「昔、あの記者が家にまで来たとき――父さんと、母さんのあの感情と、僕が抱いたもの、同じものだって、ようやく気付けた」
ユーリは、恥ずかしそうに頬をポリポリと掻く。
「いろいろ悩んだけど、ようやく言える、と思う。だから」
――ユーリは、小さく息を吸いこんで、呟いた。
「あの時、僕を守ってくれて、ありがとう」
ユーリはどこか恥ずかし気に立ち上がると、どこかそそくさとその場を立ち去る。その場に残されたのは、理人とリリア。
「……大きく、なりましたね」
リリアが、小さく呟く。
「ああ。本当に」理人は、グラスの中を煽った。「子供は、すぐに大きくなる」
「私にも、いただけませんか? 理人さん」
リリアはそう呟くと、理人に寄る。理人は、黙ってグラスを一つ、どこからともなく取り出すと、どこからともなく取り出した瓶から琥珀色の液体を注ぐ。それをリリアに渡すと、彼女はそれを小さく口にした。芳醇に香る、酒精を含んだ、スモーキーな香り。
「……良い、酒ですね」
「……そうだな」
理人のグラスに入った氷が、からん、と小さく音を鳴らす。
「なぁ、リリア」
「なんですか?」
「俺、この仕事していて、本当に良かった」
「……ええ、本当に」
たった一人の感謝。それの重み。
寄り添う二人を、月光が静かに照らしていた。




