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青春と幻想のストラトポーズ  作者: 失木 各人
03/Chapter:"義妹を継ぐもの"
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35/Sub:"アリアンナ"

「ふあぁ」


 深緑色の作務衣の寝間着を着て横になっていたユーリの隣で、ベッドで上体だけ起こしたアンジェリカが小さく欠伸をする。彼女は紅く薄手の生地のネグリジェを着ていて、身体の線が浮いていた。ユーリは小さく目をそらして別のことを考える。

 食事後に眠くなるという現象に昔の人は様々な理由を見出していたらしい。ユーリは前読んだ本の内容をふと思い出した。曰く、胃袋で蒸気を発生させているだの、胃袋と瞼に紐がついている、だの。実際のところは満腹神経と睡眠をつかさどる神経が近い位置にあり、それにより満腹の信号が睡眠に作用する、という何とも情けない話らしい。

 ユーリは、それを読んだときにアンジェリカがユーリを吸血した後、眠くなるのかどうか少し注意して見てみたことがあるが、昂ってそれどころじゃない、というのが観察結果だった。吸血鬼にとって、血とは『別腹』なのだろうか。

 窓の外は、すっかり雲が夜空にかかってきている。明日は雨らしいが、気圧配置図も見ると梅雨明けも遠くはなさそうだ。雨のフライトは気が滅入るし、湿度が上がって暮らしづらい。

 ユーリは再び振り返ると、本を読んでいるアンジェリカの横顔を見る。こうしてみると、アンジェリカとアリアンナ、そしてもちろんアリシアも、似たような顔立ちをしているのがよくわかる。だが、その雰囲気には明確な違いがあって、アリアンナにはユーリが見て彼女が妹、というのに納得するに足る雰囲気があった。年下のそれ、というか、なんというか。同様に、アリシアには年上のそれがあった。


「あら、なんですの?」


 アンジェリカが顔を見ていたユーリの視線に気づいて、本から目を離して彼に話しかける。


「いや、ごく当たり前のことを思ってただけ」

「あら? 大方、わたくしとアンナが似ているとでも思っているのかと」

「正解」


 そう言うと、アンジェリカは得意げに小さく微笑む。


「あら、ユーリの考えている事なんて、何でもお見通しですわ」アンジェリカは、小さく一呼吸置く。「貴方だって、わたくしの考えていることを察してくれるではありませんか」


 ユーリは、小さく苦笑いを浮かべる。

 ユーリはベッドの天蓋を眺める。そこにあるのは、相変わらずガス惑星を思わせる、流れるような木目模様。思えば、寝ながら考え事をするときいっつもこの光景だな、とユーリはぼんやりと考える。


「アンナのこと、ですわね?」

「うん」

「ユーリ、わたくしの好きな言葉を一つ、教えて差し上げましょうか?」


 アンジェリカは読んでいた本をぱたん、と閉じて、ユーリの方に向き直った。


「幸運の女神は、ショートヘアですのよ?」


 ユーリは、アンジェリカの髪型を見る。首の中ほどで切りそろえた髪。ユーリは小さく笑うと、身体を起こした。ベッドから降りると、スリッパを履いて作務衣の襟を整える。


「ちょっと、アンナの所に行ってくる」

「行ってらっしゃい、幸運を」


 ユーリが部屋から出ようとしたとき、アンジェリカがユーリの背中に声をかけた。ユーリは振り向くと、ニッと笑った。


「君が、僕にとって幸運の女神だよ」


 アンジェリカのほぅ、と小さく息を吐きだす声を背に、ユーリは部屋を出た。

 部屋を出て、屋根裏部屋に向かう急な階段を昇る。一段一段、しっかりと踏みしめながら階段を昇っていく。登り切り、右側。アリアンナの部屋の扉。


「アリアンナ、入るよ」


 ノックをする。返事はない。ユーリは静かにドアを開けると、アリアンナの部屋に入る。

 部屋の中は灯りがついたままだったが、アリアンナの姿はない。ただ、ドーマーの窓が開けられて、カーテンが静かに風でなびいていた。その先から、アリアンナの声。こっちだよ、と小さく響いてきた。ユーリは部屋に入ってスリッパを脱ぐと、ドーマーから身を乗り出した。


「やっほ、ユーリにぃ、こっちだよ」


 屋根の棟の、尾根になっているような部分に腰掛けたアリアンナがいた。三つ編みにしている髪は解いて、いつもの寝巻用のシャツに、デニム地ホットパンツだけを身に着けている。


「アンナ、何してるの?」

「いや、少し、夜風に当たりたくなって、ね」


 ユーリはそっちに行くよ、と言うと返事を待たずに屋根をするすると上る。放熱か雨水の為か、小さな凹凸がある緩い角度の屋根は昇るのにはさほど苦労せず、アリアンナの右横に腰掛ける。曇った夜空。湿った風がユーリの頬を撫でる。

 そこまで高くもない屋敷の屋根。住宅街をほんの少し上から見下ろす。まるで着陸寸前の景色のそれの様で、家の灯りが暗い夜空の下で淡い光の海になっている。

 二人で、静かに夜風に身をさらす。静かにアリアンナがユーリの左手に手を重ねてきた。わずかなぬくもり。


「静かな夜だね」


 アリアンナが小さくつぶやく。


「そうだね」

「さっきまではちょっと月が見えてたんだけど、もうすっかり隠れちゃった」


 そう残念そうに言うアリアンナ。ユーリは小さく仕方ないさ、と返す。


「明日から天気が悪いみたいだ。まだ、梅雨は明けてないから」

「うへぇ、また雨かあ」

「でも、梅雨だって明けるさ。そうすれば、夏だ」

「夏かぁ……水着、新しいの買おうかな」


 アリアンナがそう言うのに、ユーリはえっ、と小さく声を上げる。


「去年も、新しいの買ってなかったっけ?」

「それなんだけど、胸元とか、ちょっときつくなってきちゃって」


 あー、とユーリはどこか納得したような声を上げた。思えば、去年からアリアンナも成長したものだ。


「……アリシア姉さんには、聞かせられないな」

「はは、そうだね」


 ユーリが神妙な顔をして言うのに、アリアンナは静かに笑った。

 再び、静けさが二人の間を満たす。住宅街はすっかり静けさに包まれていて、遠くを走る車の音が、蚊の鳴き声の様に小さく、小さく響いた。時折雲の薄い所から月の光が差し込むが、すぐに雲に隠れて見えなくなる。二人を照らすのは、家々のわずかな明かりのみだ。

 どれだけそうしていただろうか、唐突にぽつり、と漏らす様にアリアンナが呟く。


「ユーリにぃが、どうしてきたのか、何となくわかるよ」


 そう、とだけユーリは返した。


「正直に言うと、さ」アリアンナはユーリの方を見ずに言った。「ユーリにぃに、何言われるのか、まだちょっと怖い自分がいるんだ」


 そう言ってユーリの手を握るアリアンナの手は、少し震えていた。


「……ボクは、結局、皆が思っているような人間じゃないんだ」


 アリアンナがぽつぽつと語り出すのを、ユーリはただ彼女の手を握りしめて聞き続ける。


「背伸びして、ボクは大人なんだ、ボクはなんでもできるんだ、って。おかしいよね。告白の返事を聞くのに、これだけ緊張しているのに――」

「アンナ」


 アリアンナの声を遮るように、ユーリは言う。彼女の方を向いて、彼女を見据えて。そこにあるのは、アンジェリカに似てはいても違う、まぎれもない『アリアンナ』の顔。


「僕も、アリアンナに対する気持ちについては、ずっと悩んでいた」はっとするアリアンナの顔を見て、続ける。「でも、僕とアンジェリカ、そして皆が向かう未来に、アリアンナがいて欲しいと思ってる自分がいた」

「でも、それはユーリにぃが」


 アリアンナが小さく震える声で言うが、それをユーリは遮る。


「始めはただの、子供みたいな欲求だと思っていた。だけど、アンジェリカに諭されて、咲江さんに教わって、それでアリアンナに向き合って、ようやくわかった」


 アリアンナがユーリの方を向く。そこには暗い闇夜の中でも、はっきりと存在を示す白銀の竜。彼の金色の瞳が、アリアンナを真っすぐ見つめていた。


「僕は、アリアンナのことを、大事に思っている」

「それって――」


 何か言おうとしたその時、ユーリの口がアリアンナの口を塞いだ。

 雲が途切れ、月が顔をのぞかせる。薄く青い月の光が、屋根に座る二人を照らし出した。月光に照らされるアリアンナは、真っ白な肌に、流れるような金髪、そしてルビーの様に紅く輝く瞳で、息を呑むような美しさがそこにはあった。

 ゆっくり、お互いの形を、感触を、熱を確かめ合うようなキス。名残惜し気に唇が離れると、ユーリは優しく微笑む。


「官能的に言うならば」ユーリは、アリアンナの頬に触れる。「愛してる、アリアンナ」


 アリアンナの呆けた様な表情に、小さく朱が差す。そうして一粒、目の端から煌めく雫が頬を流れて、雨の代わりに屋根を小さく濡らす。


「は、はは」


 アリアンナが震えた声で、笑う。喉からあふれる感情を制御できないように、ぐちゃぐちゃではあるが、『歓喜』に混ぜ込まれた表情を破れさせる。


「言って、くれた。ユーリ兄さんが、ボクを」

「ああ、これからも、何度でも、言ってあげるさ」


 ユーリは似合わない、不慣れなきざな表情を浮かべる。それは、どこかいつもアリアンナがそうしてるのに、似ていた。


「アリアンナが好きだ。アンジェリカも、咲江さんも好きで、だけどそれと同じくらいアリアンナが好きだ」


 恐る恐る、触れる様にしてアリアンナがユーリに手を回す。ユーリは、それを感じて先にアリアンナを抱きしめた。


「大きくなったね、アリアンナ」

「――う、うぁあっ……! ユーリにぃ、お兄ちゃん、お兄ちゃんっ! 好き! 好きっ! 大好きっ!」


 そうしてアリアンナはユーリの唇を奪う。そしてそのまま、ユーリの唇を割って舌をねじ込ませた。ユーリは、静かに自分の口の中と、それと舌を差し出す。アリアンナは小さく目を開くと、そのまま勢いよくユーリの舌に牙を突き立てた。痛みはなく、ただ心臓が燃え上がるような熱が身体に満ちる。口の中に広がる鉄の味。アリアンナは、口を重ねたままユーリの口内の血と唾液を、まるで砂漠を迷っていた旅人が冷たい水を手に入れたかのように、ごく、ごく、と喉を鳴らして飲み込んでいく。ユーリはそんな彼女の頭に手を回した。指の間をさらさらとした髪の感触が指の間を流れていった。

 つぷ、と唇が名残惜し気に離れる。赤い、粘り気を帯びた唾液と血液の混合物が、二人の唇の間にアーチを作って、途切れた。ユーリの舌には、先程までの熱はもうない。


「アンジェリカ姉さん、いいなぁ」


 アリアンナは、うっとりした表情で、自分の唇をなぞる。まるで口紅の様に、ユーリの血が彼女の唇に紅をさした。


「いつも、こんな素敵なことをしていたなんて」

「アリアンナがしたいなら、いつもだって」


 ただまあ、とユーリが少し困ったような表情を浮かべる。


「アンジーとアンナ、それにアリシア姉さんに毎日吸われたら、干物になっちゃうよ」

「はは、ユーリ兄さんは、ほんと欲張りだなぁ」


 ユーリの背中に回していた手を名残惜しく離す。彼女の瞳は煌々と、紅く輝いている。


「でも、そんなユーリ兄さんを、ボクは好きになったんだ」

「そう言ってくれると、僕もうれしいな」


 ユーリがそう言うと、再び月が陰った。そうして、ぽつ、ぽつと雨が降ってきた。どうやら潮時のようだ。


「ちぇっ。ムードが台無しだい」


 アリアンナが口をとがらせる。ユーリは小さく肩をすくめると、アリアンナの手を取った。


「戻ろう、アンナ。寝る時間だよ」

「……それも、そうか」


 名残惜し気に二人で室内に戻る。アリアンナが窓を閉めて、ユーリがまだ手を握ったままなのに気付く。

 アリアンナは、そのままユーリの手を握って部屋を出た。

 二人で狭い階段を降りていく。そのまま、アンジェリカとユーリの部屋に、二人で。


「あら、お帰りなさい」


 ベッドの上では、まるでこうなることがわかっていたかのような表情を浮かべたアンジェリカが、ベッドに横になっていた。


「うん、ただいま、アンジー」

「もう寝る時間ですわ。二人とも、早く脚を洗ってくださいまし」


 言われるがままに洗面所に入る。足の裏はなるほど、屋根の汚れで真っ黒になっていた。二人で苦笑いを浮かべながら熱いシャワーでそれを洗って、ユーリは作務衣を着替える。アリアンナはホットパンツを脱いで、洗濯籠に放り込んだ。アリアンナはふと鏡を見ると、唇に血がついて猟奇的になっているのを見て、ぺろりとそれをなめとった。


「おまたせ、アンジー」

「……おまたせ、姉さん」

「ええ、二人とも、早くベッドに入りましょう」


 そう言って、ユーリがベッドの真ん中に入る。後には、丁度アリアンナが寝そべれそうなスペース。


「……じゃあ、お邪魔しよっかな」


 そういって、ユーリを挟んで、アンジェリカの反対側に横になるアリアンナ。アンジェリカ、ユーリ、アリアンナの順に、川の字になってベッドに横になる。


「で、アリアンナ。想いは遂げられたのです?」


 アンジェリカがさも当然、と言った雰囲気で言う。回答もわかっている、と言いたげだった。


「うん」

「で、どうでした?」


 ユーリを挟んで、アンジェリカがアリアンナに尋ねる。ユーリはどこか居心地が悪そうに、苦笑いを浮かべていた。


「いろいろ言いたいことはあるけど、さ」


 アリアンナは、ユーリの方に寝返りを打つ。ユーリの横顔と、その向こうで、こちらをユーリ越しに見つめるアンジェリカの姿。


「ユーリ兄さんを好きになって、本当に良かった」


 それだけだ。そう言い切るアリアンナは、どこか満ち足りた表情をしていた。


「そうですの」

「ふぅん? そうやって余裕そうにしてたら、ユーリにぃ取っちゃうよ?」

「ふふふ、こう見えて、ユーリはわたくしのことが大好きですのよ? ユーリにいくら別の女がくっ付こうが、ユーリがわたくしの隣にいるのは確定事項ですわ?」

「ふうん、言うねえ。いいもん、アンジー姉さんがそうやってインモラルな趣味持ってるなら、遠慮なくユーリにぃとイチャイチャさせてもらうから」

「甘いですわね、貴女がそうしているよりも、わたくしはユーリと愛を確かめ合わせてもらいますわ」

「――ねぇ、二人とも」


 二人に挟まれたユーリが苦し紛れにつぶやく。彼の表情は真っ赤で、恥ずかし気だった。


「さすがに、ちょっと恥ずかしい」


 ユーリを挟んで、アンジェリカとアリアンナは思わず顔を見合わせた。そうして、ぷっと同時に噴きだした。


「ふふ、それもそうですわね、寝ましょうか」

「ふふ、そうだね」


 そっくりな反応を返して、二人ともユーリの腕を取り、ユーリの胸に手を回して、アンジェリカとアリアンナ、二人でユーリの心臓の上あたりで手を重ねあう。


「愛してますわ、ユーリ、アリアンナ」

「愛してるうよ、ユーリ兄さん、アンジェリカ姉さん」

「……愛してるよ、アンジェリカ、アリアンナ」


 そう言って三人、身を寄せ合って、お互いのぬくもりを確かめ合う。

 雲が降らす雨が静かに夜の闇を濡らす仲、三人は静かに眠りに落ちて行った。




「少し、いいかしら?」


 放課後、ユーリ達が下校しようとしている所に、声をかけてきたのは絵理沙だった。

 冬服から夏服に切り替わり、半袖の涼し気な、赤いスカーフのセーラー服の女子制服に身を包んだ三人に、男性用の青いスカーフのセーラー服制服に身を包んだユーリ。絵理沙はそんな彼らを、眉間に皺を寄せて――特にアンジェリカを、睨んでいた。アンジェリカはユーリと顔を見合わせ、どうやら自分に用があると踏んで、ぐい、と絵理沙の方に出た。


「あら? 何か御用かしら?」


 そう、アンジェリカがどこまでも優雅に言うと、絵理沙は値踏みするような視線をアンジェリカに向け、そしてそれからアリアンナとアリシアに向け、それで最後に、視線を少しだけユーリに向けた。


「貴女が何をたくらんでいたのかは知りませんけれど」


 絵理沙はあくまで敵意の籠った視線をアンジェリカに向けたまま、言う。


「正直言って差し上げますわ。迷惑、児戯、ただ無駄な労力と理解されておいで?」


 アンジェリカは絵理沙の視線をただ、真正面から黙って受け止め続ける。


「はっきり言いますわ。わたくし、貴女がクラス委員に就いているのもふさわしいとは思っていませんの。ここまで言えば、もうお分かり?」


 するとアンジェリカは、ただ小さくため息をついて、言った。


「ええ。わたくしにとって、自分のクラスで委員にも選ばれなかった人が、ただ醜い嫉妬をぶつけに来た、それ以上の情報価値はありませんわ」

「――っ!」


 絵理沙の顔が憤怒で赤く染まる。そこで、ユーリが何か言おうと一歩踏み出して、そこで絵理沙と眼があった。


「っ、失礼しますわ!」


 そう言って絵理沙が踵を返し、その場から去る。アンジェリカがため息をつくと、ユーリは災難だったね、とアンジェリカの肩に手を置いた。


「ええ、全くですわ。以前から目の敵にはされてはいましたけれど、最近酷くて」


 そう言う彼女の表情は、少し疲れているようにも感じられた。


「まあ羨ましい相手には、ああなっちゃうのかな」

「彼女が、わたくしを、羨ましい?」


 そう言うアンジェリカの表情は、少し怪訝な表情を浮かべていた。


「不思議?」

「ええ、正直、あまりポストだとか地位だとか、そういうものに固執するようなタイプではないと認識していましたので」

「それを知っててああ言ったの? さすがねぇ」


 どこか皮肉気にアリシアが言う。それを聞いていたアリアンナが、悪戯気に笑顔を浮かべてからかう様に言った。


「案外、ユーリにぃのことが好きだったり」


 三人の視線が一斉にユーリの方に向かう。えっ、とユーリが素っ頓狂な声を上げると、アンジェリカは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべて、ため息をついた。


「……その可能性も、踏まえる可能性もありそうですわね」

「噓でしょ……」


 ユーリが信じられない、と言った顔を浮かべると、そんなユーリに後ろからアリアンナが抱き着いた。


「まあユーリにぃ、意外と女たらしだからねぇ。どっかで別の女の子も、メロメロにしちゃってるんじゃない?」

「やめて」


 ユーリが真顔で言うのに、アリアンナは嬉しそうに後ろから抱き着き続ける。アリシアは小さく苦笑いを浮かべた。


「ほら、咲江が待って居ますわ。早く帰りましょう?」


 アンジェリカがそう言って昇降口から外に出ていく。彼女に続いて、ユーリと、アリアンナと、それからアリシアも外に出ていった。

 外には、青空が真ん中に熱を抱えた太陽を輝かせ、どこまでも広がっていた。


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