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力持ち、仮契約をする






 異次元バッグを背負って歩く事小一時間。景色が代わり映えしないダンジョンを先行するロベルトさんの背を追いながら歩く。

 道中に何度か件の魔獣に遭遇したが俺が警戒する間もなくロベルトさんの大剣が一刀両断するかフィアナさんの弓が串刺しにするかマーリットさんの魔法で焼き尽くされるかだ。


 そう、魔法である。マーリットさんは見た目通り魔法使いだ。よく分からんが光属性の魔法を使えるらしい。光の球体を作り出し、それをぶつけたり光のレーザーのようなものを杖から発射し焼き尽くしたりとすごいの一言である。


 そしてロベルトさんやフィアナさんも自身の武器で難なく魔獣を倒している。見事な技と連携に俺も正直テンションが上がっている。すげぇ、ファンタジーすげぇ。


 そんな俺はやられた魔獣が魔石に変わったところでホイホイと異次元バッグに収納していく。


「おい、本当に大丈夫か?」


 そんな心配そうな声をあげたのはロベルトさん。


「ええ、問題ないですよ……ほら」


 ロベルトさんを安心させるために肩から外して片手でそれを持ち上げて見せる。流石にそれを維持すると腕がプルプルと震えてくるが持ち上げるだけなら問題ない。

 つまりまだ詰め込んでも全然平気だ。運搬に関しては心配いらない。感覚だがこれでようやく180キロくらいかな?それなら本当にまだ余裕がある。


「そうか……お前その体、本当にどうなってるんだ?」


 地球でよく言われた事をロベルトさんにも問われる。うーん、と言っても俺も明確な答えは分からない。


「まぁ、5歳の頃からトレーニングに明け暮れてましたから。そのおかげかもですね」


 笑ってそう答えるとロベルトさんの隣を歩いていたフィアナさんが驚きの声を上げる。


「5歳って……あなた幾つなの?」

「21歳です」

「おお、意外と若いんだな」


 それは俺が老けてるように見えると言いたいのかなロベルトさん?


「まぁ、何にせよマサトがいてくれてよかった。おかげで色々無駄にならずに済んだからな」

「いえ、こちらも出口まで案内してもらってますからお互い様ですよ」


 そう言うとロベルトさんが何だか微妙な顔をする。


「何か、あれだな。マサトみたいな厳つい体付きのやつに物腰良く会話されると………」


 そこでロベルトさんは言葉止めて言い淀む。何ですか、ハッキリ言いなさいよ。


「気持ち悪い?」

「そう!それだフィアナ」

「ひでぇ」


 何だよ2人して、まぁ恐らく冒険者なんかは粗暴な態度を取る人が多いのかもななんて勝手に思う。イメージもそんな感じだし。粗暴じゃなくても素っ気なかったり。


「まぁ、私も何かむず痒いし無理してそんな話し方しなくていいのよ?」

「別に無理してこの口調ってわけじゃないんで残念ですがむず痒いのは我慢してください」


 日本人なんでね、年上には敬語使うし知り合ったばかりに人にもやはり敬語よ。


「…………」

「どうかしました?マーリットさん」


 ジッーとこちらを見てくる魔法使いさんに声をかける。あんまり口数の多い方ではないのか俺がいるから話しづらいのかあんまり口を開く事はない。


「あ、いえ……その…」

「落ち着いてください、そんな慌てなくてもゆっくり喋っていただいて大丈夫ですよ?」


 何か言おうとしてどもるマーリットさんをどうどうと落ち着かせる。人見知りって言ってたし仕方ない。


「えと、すみません……」

「いえいえ、それで?何か気になる事でも?」

「いや、その……私にも敬語なんですね。マサトさんは」


 ああ、年上の俺に敬語使われるが不思議だったのかね?でもまぁ、別に変な事じゃないでしょうに。


「深い意味はないですよ?あ、それともロベルトさん達ど同じ感想で気持ち悪いですかね?」


 ジトッーと2人を見つめながらそう言う。2人は困ったように笑っていた。俺のその言葉にマーリットそんは少々慌てながら否定する。


「い、いえ!そうではなくて……その……寧ろ可愛らしいと言うか……」

「可愛らしい?」


 何ですかね?ギャップ萌えでもしたのかい?誰得のギャップ萌えですか?


「ああ、ごめんなさい!いきなり殿方に可愛らしいなんて失礼な事を」


 慌てふためきながらペコペコ頭を下げるマーリットさん。そんな俺とマーリットさんののやり取りを見て腹を抱えるロベルトさんとフィアナさん。可愛らしいにツボったらしい。

 笑ってんじゃないよ。コホンと咳払いしつつ


「まぁいいです。それより……聞きたい事があるんですがいいですか?」


 何だ?と風向きを変えたくてそう言った俺にロベルトさんは向き直る。ある程度ダンジョンを進んでそろそろ気になる事を聞いておきたかったのだ。


「どうして、見ず知らずの明らかに怪しい俺を助けてくれたんですか?」


 正直これが気になって仕方なかった。最初、俺を少なからず警戒しなおかつ自分達も困っていて俺に釜かけてる場合じゃ無かったはずだ。


 そんな状況で俺を助ける事を決めてくれた。嬉しいし、助かるが申し訳なくてついその事について問いていた。


「…………お前は、多分トライビトだ。お前は理解できないだろうが」

「トライビト………」


 最初に会った時もそう言っていた。トライビト……。


「そのトライビトというのは一体何なのですか?」


 その俺の疑問にダンジョンで歩を進めながらロベルトさんは色々説明をしてくれた。トライビトとはロベルトさん達が生きるこの世界において別の世界の住人の事を指すらしい。

 即ち、ロベルトさん達から見た異世界人のことなのだ。


 そのトライビトとはロベルトさん達には御伽話のような眉唾物の類の話らしいのだが曰く


「この世界にダンジョンを作った神の気まぐれでこの世界とは別の世界の住人を呼び出す……とか何とか」


 そう大雑把に言うロベルトさんに俺は微妙な顔をしたと思う。色々言いたい事があるが神の気まぐれとやらで俺は異世界転移をしたと言うなら迷惑極まりない話だ。


 そもそも、このダンジョンとやらも神が生み出したという言い伝えなのも異世界ならではの考え方なのかなと思った。


「でも、だからってどうして俺がトライビトだと?」


 それが御伽噺のような類のものならそうあっさり信じられるのも違和感だ。


「まぁ、その疑問は尤もだが理由は色々あるぞ?一番強い理由はその服装だ」


 服装?ふむ、このTシャツと短パンがか?ロベルトさんが言うには先ほど身体検査をした時に生地やら何やらよく調べたらしいがこの世界で作ったとは考えられない精巧な作りをしていると言う。


 なるほど、文化レベルの差か。地球ではありふれた物でもこの異世界ではかなりの貴重品なんだろうな。


「後は俺の主観も入るがあまりにもこっちの常識が通じなかった事だ」


 冒険者を知らない、ダンジョンを知らない、魔法を知らない、トライビトも知らない。どれもこの世界の住人では知らない方がおかしい事柄。


 それに加えて服装の件。ロベルトさんには俺が演技でそう言ってるようには見なくてすぐに俺がトライビトだという結論を出したのだ。


「なるほど……でも俺がトライビトだと確信しても俺を助けてくれた理由にはならないですよね?」


 そこで新たな疑問。俺がトライビトだとしても俺を助けてくれる理由はない、寧ろ厄介事が増える想像しかない。先ほども述べたとおりロベルトさん達は異次元バッグで自分達もとても困っていた状況だったのだ。

 こんな風に考えたくはないが何か思惑があるのでは?と疑いたくなる。


「私だって最初は反対してたのよ」


 そう答えるのはフィアナさん。心なしか少しむすっとしていた。


「マサトの言う通り助ける理由はなかったし、正直厄介事に巻き込まれたくもなかったしね」


 そういえば俺と離れて3人が俺の処遇について密談している時フィアナさんはなんだか不満げな顔ばかりしていた事を思い出した。ロベルトさんはそれをなだようとしていた雰囲気でマーリットさんはおろおろと困ったような顔をしていた気がする。


「フィアナ、マサトの前でそんな事を言うな」


 そうロベルトさんに言われてフィアナさんはハッとした顔をしてから


「ご、ごめん……」


 と萎れたように謝罪を口にする。


「い、いえいえそんな!フィアナさんの言う事は尤もですから」


 と俺までオロオロとする形に。となるとますます俺を助けてくれた理由が分からなくなった。どうしてですか?と再びロベルトさんに問いかける。すると、彼は頭をポリポリと掻きながら


「あそこでお前を見捨てて、その後死んだとかそんな話を聞いたら………寝覚が悪くなるだろ」


 沈黙。そしてハッと驚く俺。なんて事はない、この人は……ただ親切に善行をしただけだった。思惑などない、最悪見返りなど求めていない。ただ、自分の心に従って俺を助ける選択をしてくれたのだ。


 日本じゃないここはきっとそんな親切な人は少ないだろう。俺のそんな勝手なイメージで思惑があるのでは?と疑ってしまった。


 つい自分を殴りたくなる。浅はかな自分を貶す。馬鹿め、馬鹿め、他人の善を信じられなくなったら人として駄目だろう。

 パーティーリーダーのロベルトさんの言で、こうして俺は3人にダンジョンの出口に案内してもらっている。それに感謝はしても疑うなど酷く醜い。


 少し気恥ずかしそうにする見た目だけでなく心もイケメンだったロベルトさんに俺は頭を下げて改めて礼を伝える。


「ありがとうございますロベルトさん」

「よしてくれ、結果的に俺達はお前のおかげで助かっているんだ、お互い様だろう」


 それでと言葉を続けるロベルトさん


「結局の所どうなんだ?トライビトについて説明はしたがやっぱりお前はこの世界とは別の場所から来たトライビトなのか?」


 その問いに俺はうーんと少し考えてから


「……恐らくそうだと思います」


 少なくとも地球にはダンジョンもそれを攻略する冒険者という存在もましてや魔法もなかった。ここが異世界と言われる方がしっくりくるし。

 この服装をすごく精巧な作りと感想を抱く人間も見たが事ない。


「最初に説明した通り俺はいつものように自室で睡眠をとっていて起きたらこのダンジョンで目が覚めました。後は迷いながら進んでいた所、ロベルトさんを見つけたんです」


 途中魔獣に襲われたりはしたがそれはわざわざ話すことでもないから省略しよう。


「トライビトがどうかはともかく、少なくとも俺は今の俺の服装が別段珍しくない場所で暮らしていました」


 そうかと納得するように頷くロベルトさん、フィアナさんやマーリットさんも何か色々考えている様子だ。

 とりあえず、俺がトライビトかどうかはともかくこの世界の常識については全く知らない人間である事に変わりは無いわけで、道中は皆さんにお願いして色々話を聞きながら出口に向かって行った。












 


 

 3人からこの世界について色々話を聞いて、現れた魔獣を3人が蹂躙して、残った魔石を全て俺が異次元バッグに仕舞い込む。

 これらの作業を数時間ほど繰り返した。そこでロベルトさんは「そろそろだ……」と俺に向くて呟く。出口が近いのか。


「マサト、これ被っとけ」


 そう言ってロベルトさんは俺に全身を覆えるほどの大きさのローブを手渡してくる。


「お前の格好はギルドじゃ悪目立ちする。とりあえずこれを着けて服装は隠しておいた方がいいだろう」

「分かりました」


 ロベルトさんがそう言うならその方がいいだろう。一度異次元バッグを置いてからローブを纏って再びバッグを背負う。ふむ、これはこれでなんだかあれだがTシャツとか丸出しよりはこの世界の住人に見えなくは無いだろう。

 ありがとうございますと一言告げてから再び全員で歩き出す。数分もすれば今までになかった階段らしき物が見えてくる。3人は迷う事なくその階段を登り始めた。俺もそれに続く、少し登った所で3人の歩みが止まる。


 目の前には空間が歪んだととしか表現できないオーロラのような物が蠢いている。大きい扉ぐらいの大きさで4人並んでも通れるくらいだ。


「ここを通ればギルドだ。マサト、目立つような言動は避けるんだぞ」

「は、はい」


 え、ここ通るの?なんか嫌なんだけど不気味で。そんな俺の心情など知るはずもなく行くぞとロベルトさんが告げると3人は迷う事なくそのオーロラを通る。吸い込まれるようにしてその体は俺の目の前から姿を消した。


 え?本当に平気か?迷ってる暇などなく俺も意を決してそのオーロラに体を通す。

 体に異変などは感じずオーロラからさらに一歩踏み出すと


「っ!」


 薄暗い洞窟のような景色からどこかの建物の屋内に表層を変えていた。あれ?ここがギルドか?後ろを振り返ると通ったばかりのオーロラは変わらず蠢いていた。

 このオーロラがダンジョンと外を繋ぐ扉のような物なのだろうか。


 少し先に3人の姿を確認してすぐに合流する。


「お待たせしました」

「ああ、とりあえず後ろから黙ってついてきてくれ」

「分かりました」


 とりあえず下を向いて目立たないようにゆっくりとした足取りで3人についていく。向かった先はすぐにある受付所のような場所だ。

 カウンター越しに受付嬢の若い女性がロベルトさんの姿を認めると無難な営業スマイルを浮かべる。


「アークスの皆さん、数日の間お疲れ様です。ご無事で何よりです」


 マニュアルの定型文のような言い回しに少々俺は苦笑した。


「ああ、とりあえず全員無事だ。帰還報告をしたいんだが」

「分かりました……って、あれ?」


 受付嬢さんは俺の方をチラリと見て疑問の声をあげる。ジッーと見つめられ、居心地が悪いような気分になった。


「ロベルトさん、出征の時に報告されてるバッグパッカーのサモンさんがいないようですが?それと、其方のお方は?」


 そう受付嬢さんに言われロベルトさんは


「サモンは下層狩りだった、俺達を嵌めたらそそくさと逃げちまったよ。恐らく隠れてこっちに戻ってきてる筈だ」


 下層狩りと言う聞き慣れない単語が気にはなったがとりあえず口は閉ざしておいた。

 下層狩りという言葉に受付嬢さんは表情を歪めて「そうですか……」と静かに呟く。それには少々怒りが込められている気がした。


「分かりました、ギルドでも対応しておきます。それで……」


 俺の方に視線を向ける受付嬢さんにロベルトさんは一瞬考える素振りを見せながらも


「ダンジョン内でたまたま会ったんだ。新人の冒険者みたいで迷子になって困ってたみたいだったから一緒に連れてきたんだ」

「冒険者……ですか」


 俺がトライビトというのは隠す方向なのか、まぁ悪目立ちはしたくないしロベルトさんの話に合わせておこう。


「失礼ですが、お名前は?」


 受付嬢さんにそう問われ俺はチラリとロベルトさんを見る。ロベルトさんは軽く頷いた。正直に言っていいという事だろう。


「マサトと言います」


 苗字は名乗らない。ロベルトさん達も名前だけ名乗っていたのは恐らくだが普通身分の者には苗字という物が無いのだろう。典型的だが貴族とか王族とかそこら辺の人だけが名乗る者だと思った。


「マサトさん……ですか」


 うーんとする受付嬢さん、何をそんなに考えているのだろうか。


「どうかしましたか?」


 耐えきれずそう問うと


「いえ、新人とはいえ見覚えがなかったもので」

「冒険者なんていっぱいいるんだ、一人一人の顔を覚えるのは難しいだろう?」


 ロベルトさんの最もな言に頷いて同意を示すが受付嬢さんは


「確かにそうなんですが……マサトさんは一度見かけたら忘れないと思うんですよね……」


 そこで俺は苦笑いを浮かべた。自覚はある、確かにかなりの筋肉質な肉体だしな。周りを見渡して他の冒険者達が思い思いに談笑しているのを観察したがそれでも俺の肉体はかなり目立つ。

 道中ロベルトさんに聞いたが、冒険者は登録制で必ず受付嬢相手に冒険者カードを発行してもらい始めて冒険者を名乗れるらしい。


 だから見覚えのない俺を見て怪しいと思っているのかも。


「マサトさん、失礼ですが冒険者カードを確認させて貰っても?」


 げっ、ないぞそんなの。俺冒険者じゃないし。助けを求めるようにロベルトさんに視線を流すがロベルトさんもどう言い訳するか考えてるような顔だった。まずいな……。


「えっと……」


 余計な事を言ってボロは出したくないし正直に言うわけにもいかない。さて、どうしよう。失くしたっていうのは不味いのかな?平気ならすぐにロベルトさんがそう言ってくれてそうだし。でも、失くしたっていうのは逆に怪しまれそうだしな。


「実は……」


 口を開いたの俺でもロベルトさんでもなくマーリットさんだ。


「か、下層狩りにあった時にマサトさんも既に合流していたのですが……サモンさんを逃さまい立ち塞がったマサトさんに怒りを覚えて………」

「返り討ちに遭い報復にカードを奪われてしまったと?」


 そう続ける受付嬢さんにマーリットさんは頷く。確かに辻褄通るかも、冒険者カードはその冒険者の身分を証明する役割もあるしダンジョン攻略は冒険者以外禁じられているためダンジョンに赴く前にカードを見せて身分を証明しなければならないらしい。

 再発行やらは安くないお金がかかるらしく自分がどこまでダンジョンを攻略出来たかの記録も表記されるらしい。報復としては少々しょぼいが悪くない。

 

「ふむ………教会神官のマーリットさんがそう言うなら私もこれ以上は詮索いたしません。マサトさん、失礼な態度をお許しください……」

「いえ、大丈夫です……」


 教会神官……ね、マーリットさん結構凄い人なのかな?


「それではマサトさん、冒険者カードは再発行しますか?事情が事情とは言え無料には出来ませんが……」


 俺が何か言う前にロベルトさんが遮るように間に立ち


「いや、また今度にしてくれ。マサトも俺達も今日は色々あって疲れているんだ。今日は魔石の換金だけ済ませてすぐに帰りたい」

「分かりました、どうぞこちらへ」


 そう言って数メール横にあるよくわからない大きい魔法陣が描かれた地面に案内される。


「そういえば下層狩りにあったと仰っていましたが異次元バッグは無事だったのですか?」


 俺の背負う異次元バッグを見てそう言う。無事……というのは恐らく持って帰って来れる重さで済んだのか?という意味で言っているのだろう。


 この異次元バッグを持ち帰らせずにロベルトさん達みたいにパーティーの努力を無駄にさせる行為を下層狩りというのなら受付嬢さんが異次元バッグを持っている事に疑問を抱くのも仕方ない。


「いや、俺達じゃ全く持てなかったがマサトが凄い力持ちでな。おかげで助かったんだ」


 そう笑顔で語るロベルトさんにそれは良かったですと受付嬢さんも笑顔を浮かべる。


「マサト、異次元バッグをあそこの魔法陣に」

「あ、分かりました」


 2人の会話に聞き入ってるところにフィアナさんに指示され言われた通りにバッグを置く。すると魔法陣から急に淡い光が漂いはじめたかと思うと魔法陣の真ん中に置いた異次元バッグがひとりでにぷかぷかと浮き始める。


 それから数秒もしないで一瞬強い光を放つとバッグは宙に浮いたままで変わらないままだったがそのすぐ下の魔法陣に山のように魔石が積まれていた。なるほど、これが異次元バッグから魔石を取り出せる特別な魔法なのか。一見乱雑に積まれているように見える魔石だったがちゃんと価値事に上手く分けられてるように見える。


 素人目だが俺が道中考えずに詰め込んでいた粗悪に見える魔法石やロベルトさん達が数日ダンジョンにいる間に選定したのであろうキラキラと輝いているように見える高価そうな魔石も少ないながらある。これなら魔石が沢山あっても換金に取られる時間が少なくなるだろうから優れものの魔法だな。

 何て感心しているとバッグから出てきた魔石の山を見て


「何ですかこれは!?」


 と驚きの声を上げているのは受付嬢さんだ。驚いてる理由はまぁきっとこの量の魔石を俺が1人で持っていた事だろう。

 ふとロベルトさん達を見れば3人まで表情に驚愕を浮かべていた。


「改めて見るとあれね……マサト、あれをよく1人で持てたわよね」

「は、はい。中身を見てようやくどれだけの量だったか理解しましたけど………」


 と、一様に反応している。周りをチラリと観察してみると受付嬢さんの声に反応して周りでたむろしていた他の冒険者達もなんだなんだ?とこっちに注目していた。

 まずいな……。さりげなく視線をロベルトさんに流す。それに気づいたロベルトさんは意図をすぐに察してくれたようで


「言ったろ?マサトは凄い力持ちだって。とにかく換金も早く済ましてくれないか?」

「え?あ、はい!すぐに」


 ロベルトさんにそう諭され受付嬢さんはゆっくり深呼吸して落ち着いてから魔石の照査を始めた。奥からまた別の何人かのスタッフらしき人が一緒に魔石を数えている。量が量だから少し時間がかかるかなと思ったが数分ほどで


「お待たせしました」


 と受付嬢さんからお声がけが。


「全て換金して金貨4枚と銀貨が26枚そして……」


 どさっと麻袋事カウンターに置かれる。


「銅貨62枚です。こちらが魔石を全部換金した合計金額になります」


 そう受付嬢さんが伝えると俺以外の3人は先ほどではないが驚きの表情を浮かべた。驚いてばっかりだな、俺はいまいちこの金貨や銀貨の価値も魔石の価値も分からないから反応しづらいが。


「数のご確認をお願いします」

「あ、ああ」


 ロベルトさんは頷くと金貨と銀貨の袋の中を数え終えて銅貨の方も少し嫌そうな顔をしたがちゃんと一枚一枚数え始める。


「これでいい、問題ない」

「かしこまりました、ありがとうございます」

 

 お金受け取り足早とギルドを後にするロベルトさん。フィアナさんもそれに続きマーリットさんは受付嬢さんに頭を一度下げてからロベルトさんを追う。俺も頭を下げて見送ってくれている受付嬢さんに会釈をしてから3人を追った。


 扉を開けて外に出るとそこは当たり前だが見慣れない光景。少なくとも日本とは全く違う別次元の街並みだった。少し遠くにはファンタジーらしいお城なんかも見える。ああ、やっぱりここは異世界なんだなと再確認する事になった。

 3人のすぐ後ろを歩きつつキョロキョロと辺りを見渡すと出店がちらほら立ち並んでるのが目につく。道ゆく人は中には冒険者みたいに厳重な装備を身に纏っている人や小綺麗な服を着た商人らしき人が商いに精を出していたりと様々だ。


 中でも驚いたのは見るからに人間とは違う種族の姿を見た事だ。ギルド内ではたまたま目にしなかっただけのようだが、地球での言葉で表現するならばリザードマンやら獣人といったような印象を受ける人も少なくはなかった。


「ロベルトさん、これからどこに?」


 無言で前を歩くロベルトさんにそう問いかけると


「とりあえず腰を落ち着ける場所だ。そこで話そう」


 と言うので初めて見る街並みに興奮しながらついていく。


「………そんなに珍しい?」


 そんな俺の様子を見てフィアナさんがやれやれと言った様子でそう告げてくる。だが、地球出身の俺にはこの街の景色は興奮をもたらす材料でしかない。


「ええ、凄い珍しいです。街並みもそうですが人間以外のああいった種族は俺がいた世界では存在しなかったので」


 と、いわゆる亜人の方々に目を向けて言う。フィアナさんは少々驚きの表情を浮かべつつもそうなんだ……と曖昧に返事をする。

 その他にも色々目につくものは多々ある。何も無い所から水やら火やらを出して洗い物や料理をするのに使っている所なんかは特にだ。恐らく魔法なのだろうけど普通の生活にもこうやって使われているのか。


「着いたぞ」


 少し歩いた所でロベルトさんがそう告げながら何やら建物の中に入っていく。マーリットさんもフィアナさんも迷う事なくそこに入っていく。ここは………外観からじゃ判別できないな。とりあえず俺も入るか。


「らっしゃい」

「いらっしゃいませー!」


 俺達を出迎えたのは武骨な雰囲気の店主らしき人と可愛らしい女性の店員の声と既に席について騒いでるお客さん達の喧騒だった。

 なるほど、酒場か。


「あ、ロベルトさん達じゃないですかー!」


 見知った顔のようで親しげに絡んでくる女性店員。ロベルトさん達は常連ってやつなのだろうか。


「ダンジョンから戻ってきてたんですね、収穫はどうでしたか?あ、それに見慣れないお客さんもいますねー」


 俺の事かね。


「その話はまた後でな」


 そう言って軽くいなすとロベルトさんは料理をしてる武骨な店主らしき人に近づいて


「すまないオヤジさん、ちょっとこいつらとゆっくり話がしたいんだ。奥の個室使わしちゃくれねぇか?」

「構わねえ、好きにしろ」

「恩に着る」


 そんな短いやり取りを終えて「こっちだ」と店員ではなくロベルトさんに案内される。お店の雰囲気や客層から察するに冒険者御用達のお店のようだな、ロベルトさん達もその1人か。

 マーリットさんは苦手な雰囲気なのか少々落ち着かなそうではあるが。


 案内された先は10人くらいは座れそうな広々とした個室だった。わー、思ったより広ーい。俺とマーリットさん、テーブルを挟んでフィアナさんとロベルトさんと言った形で座ると早速ロベルトさんが口を開いた。


「まずは礼を言わせてくれ、お前のおかげでパーティーリーダーとして不甲斐ない俺のせいで被った被害をゼロどころかプラスにできた」


 座ったまま頭を下げてくるロベルトさん、改めてそうやってしっかりお礼をしてくれる姿を見て律儀な人なんだなと嬉しく思った。


「私の方からも、ありがとうマサト。おかげで助かったわ」

「わ、私も……お礼を言わせてください」


 フィアナさんとマーリットさんも続いて頭を下げてくるものだから俺は少々困りつつも


「いえ、俺も3人に助けられたんですし……お互い様ですよ」


 と返す。実際俺としては命を助けられたのと同義だ、ロベルトさん達に出会わなければ俺は今頃まだあのダンジョンを彷徨っていた事だろう。


「俺からの礼の気持ちと仮とはいえバッグパッカーの役割を果たしたお前に報酬を渡したい。受け取ってくれ」


 そう言って小さい麻袋を取り出してじゃらじゃらとした音を立てながら俺の前に置く。嫌な予感がしたので一応中身を確認する。


「そんなこんなに!受け取れません!」


 中身を見た俺はその麻袋を突き返す。中には銅貨と銀貨が少々と金貨が一枚入っていた。貨幣の正確な価値は地球から来た俺には分からないがこの金貨一枚で大金となる役目が果たせるのは大いに想像できたからだ。


「………貨幣の価値はトライビトのお前には分からないだろ?」

「そうですけど、金貨一枚がどれだけのものかくらいはある程度想像できますよ!」


 彼らが数日分活動して得た収入が金貨4枚と銀貨やら銅貨やらだ。冒険者の収入がどれほどのものかは知らないが3人の報酬を貰った時の反応を見るにかなり破格な報酬だったのは容易に想像できる。

 

 あの高価そうな魔石も混ざっていたし、ロベルトさん達の今回のダンジョン遠征はかなり運の良い結果だったと予想できる。だからこそ数日かけて破格の報酬でようやく手に入れられた金貨4枚のうちの一枚を渡されては反射的に受け取るのを拒否したくなる。


「言ったろ?礼の気持ちとバッグパッカーの役目を果たしてくれた正当な報酬だ。遠慮する事はない」

「それにしたって多いですよ!」

「もともとサモン……俺達を騙した下層狩りに渡す予定だった報酬でもある、それにお前がいなければ金貨どころか銅貨一枚も手に入らなかったんだ」


 それに……とロベルトさんは続ける。そもそも件のサモンに下層狩りに遭う前には既に帰還をする方向でこれ以上報酬が上がる事はなかったと語る。


 しかし、サモンによる罠でそれほど価値が無いものとはいえ大量の魔石を異次元バッグに積められバッグの中身も増えた。更には俺が異次元バッグを軽々持ってくれたおかげで道中更に魔石を持って帰れたから気にするなと言う。


「それと、今のお前にとってこれは必要な筈だ。冷静に考えてみろ」


 た、確かにそうだが。今まで直視したくない現実だから言葉にはしなかったけど俺は今右も左も分からない異世界に帰る方法も分からないまま取り残されたようなものなんだ。

 帰れることが可能かどうかも分からない。となると、この世界で生きていく覚悟も必要なんだ。そして、生きていくにはどうあがいても金がいる。


 地球とは何もかもが違うこの世界じゃ俺にとって職を見つけるのも一苦労だろう。そんな俺に、金を渋る余裕はない。ロベルトさんはその事を言っている。


「……………受け取ってよ、マサト」


 俺とロベルトさんのやり取りを見て我慢出来ないと言わんばかりに口を挟むフィアナさん。


「私も納得してるし感謝もしてる。遠慮はいらないわ」

「はい、私もフィアナさんと同じ意見です」


 2人に後押しされ俺はしっかりと頭を下げて感謝の言葉を口にする。ちゃんと、ちゃんと……気持ちを込めて。


「ありがとうございますっ」

「あぁ」


 微笑んで頷くロベルトさんに俺も笑顔になる。今後これからこの世界でどう生きていくかずっと内心不安で仕方なかったがアークスの3人のおかげで心が軽くなった。


「さて、ここから本題だ」


 仕切り直しと言うように居住まいを正してロベルトさんは一度息を吐いてから


「マサト、お前はこれからどうするつもりだ?」


 そう俺に告げてくる。


「………………」


 これからというのは勿論今後の俺の生活の事だろう。まずはこの世界についての知識を身につけながら何とか職を見つけて……それで金銭に余裕を持ってから元に地球に戻る方法を探す……そんな所か。


 大雑把に今後の計画は立てれるが具体的にどうすればいいかは分からなかった。とりあえず、その大雑把な計画を伝える。


「そうか……それなら」


 とロベルトさんは真剣な目付きで俺を見据えて言い放った。


「お前がよければ、俺達アークスのバッグパッカーにならないか?」

「俺が?バッグパッカーに?」


 まさかの提案に驚く。いや、確かに力持ちだけどだからって……。フィアナさんもそのロベルトさんの提案に思う所があったのか何か言おうとするがロベルトさんと目が合うと口を噤んだ。


「無論、バッグパッカーとして働いてくれるなら今後も正当な報酬は払う。それに、可能な範囲だが元の世界に戻る手立ても一緒に探してやる………悪い話じゃないだろう?」


 確かにそうだが………。


「その提案は………俺に同情してるからですか?」

「まさか、俺達にそんな余裕はない。お前にバッグパッカーとして魅力を感じているから俺はスカウトしているんだ」


 少し考える。提案自体は渡りに船だ、冒険者のバッグパッカーという職業がどいうものかは分からないが例え命がけの仕事でも1人頼れる人もなしで放り出されるよりは幾分もマシだ。


 しかし、ここまで俺に良くしてもらうと何だか申し訳なく思ってくる。


「元の世界に戻るまででいい。それに、マサトも冒険者がどういうものかまだちゃんと分かってないだろうからな。とりあえず仮契約って形でこの話に乗らないか?バッグパッカーが俺達とのパーティーがダンジョン攻略が嫌になったらいつでも辞めてもらって構わない」


 手を差し伸べるロベルトさん。今は頼れる人はほとんどいない、唯一頼れるのはこの人達だけだ。それに、命の恩人であるこの人達の役に立てるのなら……例え何か裏があって利用されても構わないか。


 ロベルトさんを信じよう、信じたい。その手をとる。


「俺なんかでよければ……とりあえず仮ですがアークスのバッグパッカーになります。やらせてください」

「ああ、よろしく頼む」


 この決断が、この世界で俺が踏み出した本当の第一歩だ。



 


 




 






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