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偽装の彼女はスパイなんだから、僕は彼女を好きになんてならないぞ!

作者: 佐古昭博

 僕は木下大和(やまと)、高校1年生だ。顔は普通、成績普通の凡庸でどこにでもいそうな男子だ。それなのに、僕は彼女がいる。しかもとても美人な彼女が。

 彼女は宮西春美。同じ高校の同級生で同じクラスだ。成績優秀で、容姿は背中まである艶やかな黒髪、目はきりっとした綺麗な黒、眉毛はすっと伸びている。高校に入学してすぐに男子の注目の的になったが、寡黙のせいで男子はおろか女子すら友達がいない。

 そんな彼女とどうして偽装の恋人になったのか。話は長くなるから割愛するが、簡単に言うと彼女の正体を目撃してしまったのだ。

 そう彼女はスパイなのだ。恐らく日本を守る側の、である。本名は偽名かも知れないが、一応宮西と呼んでいる。そしてその彼女とは……、


「朝ごはん出来たわよ」

「……おう」


 一緒に暮らしている。彼女が住んでいる高級マンションでだ。なぜ一緒に住んでいるかというと監視しやすいからだそうだ。


「毒物は入ってないだろうな」

「失礼ね。私は日本を守る側の人間よ。国民を易々とは死なせないわ」

「はあ、そうですか……」


 なぜ、普通の女子高生をしているのかは普通の女子高生を知る為らしいが本当のところは分からない。しかしとりあえずこいつの作る料理はまあ美味しい。手作りだし。

 そしていつものように学校へ登校するのだが、僕の実家からは少し離れているのでまだ道が慣れていない。また宮西が僕の隣を歩く。要するに最近は彼女と一緒に登校するのである。監視の一環だろう。

 傍から見たら校内有数の残念美女と歩くのだ。羨ましいと思いながらも誰も文句を言わない。ただ一人黙って居ない人間を除いて。


「大和、最近どうして宮西さんと登校するの!?」


 加藤美希(みき)、小学校からの幼馴染みだ。こいつも宮西と負けず劣らずの成績優秀者で、髪は少し茶色で首辺りの丈のショートで髪先を少しクルッとして、目はぱっちりとした可愛い系だ。

 今まではこいつと登校していたが、そうじゃなくなったからだろう。いつも朝から僕にあたりが強い。


「だから宮西と登校しているから仕方ないだろっ?」

「だから何で彼女と登校しているのよ!?」

「それは……彼女だからだ」

「彼女……」


 この言葉を言うと美希はピクッとなり、無言になり反抗的な態度になるが気持ちを抑えて、僕を懐疑的な目で見る。


「ふーん、彼女ねぇ」

「……」

「いつも思うんだけど、何であんただけ実家から出たの?」

「それは……」


 流石に宮西の家で一緒に住んでるとは言えない。これは秘密事項だ。いつもの言い訳を言う。


「だからー、実家から出た時の練習だよ」


 我ながら苦しい。美希はジト目でこっちを見て怪しむ。


「ふーん、そんなの大学入ってからで良いんじゃない?」


 正論である。練習も大事だからと言って話を流させる。そしたら、遂に美希はこんなことを言い出した。


「なら、私もその家に行きたい!!」

「え!?」


 僕は驚いた。そんなこと言うか!? 今、住んでる家は僕が住んでいる前に宮西の所有だ。宮西の許可が必要だ。しかし、さっきも言った様に一緒に暮らしているのは秘密事項だ。美希は知らない。さてどうしよう。


「部屋が汚いから良いよ……」

「私が掃除してあげるわっ!」

「……」


 困った、どうしよう。どう宮西と話を繋げるか? そうだ。


「宮西と相談したい」

「何で?」

「そりゃあ彼女の意見を聞きたいからだ。無断で恋人以外の女子を彼氏の住む家に連れて行くのは不快かろう」

「! ……それは」


 良し! 効果てきめんだ!! もう一息っ。


「だからなーっ、止めといた方が良いぞっ! 宮西は怒ると怖いし」

「……」


 よしよしと、思っていたが、


「なら宮西さんに許可貰ったら良いのねっ」


 しまった。その手があったか! どうしよう。いや待て、あいつが許可するとは思えないな。まぁ良いか。


「よし良いぞっ」


 そう言ったがその考えは甘かった。


「ええ、良いわよ」

「本当に?」

「え!?」


 僕は宮西を廊下に呼び出す。


「おい、どういうつもりだよ」

「変に断ったら不審がられると思って」

「そ、そうか……?」

「それに私達が一緒に住んでいるのをバレなきゃ良いのよ」

「まぁ、そりゃあそうだが……」

「まぁ、あの部屋を他人に見せるのは不本意だけど」

「待て。あの部屋を見せるのか!?」

「そうよ。何か問題ある?」


 最近分かったことだが、こいつは世間とずれている。


「いやいやあのマンションは豪華過ぎる。僕の親父の稼ぎより高そうなマンションだと、美希にかえって怪しまれるぞ!?」

「そうかしら?」

「そうだよ」


 まぁ、怪しまれた時は、と彼女は言い、


「その時はその時よ」


 と続けた。そして宮西が付いていくを条件に美希を部屋に連れて行くことになった。まぁ結局宮西は自分の部屋に帰るだけなのだが……。

 そしてマンションに着くと美希は口を開けて愕然とした。


「こ、これ……?」


 こっちを見、マンションを見、そして怪訝な顔になる。もう怪しんでそうなんだけど。


「おい、もう怪しんでいるぞ」

「妙ね、どこに怪しい要素があるのかしら?」


 こいつ、ポンコツかっ? そして一緒に住んでいる部屋を見せる。この部屋の広さにまたしても美希は口をポカンとあけて驚いた。


「ほ、本当に大和がここに住んでいるの?」

「え、まぁ……な」


 彼女は思案に暮れた。無理もない。疑う所が沢山あるからな。


「どうやってその金を出しているの?」


 ほら来た。どう答えようか。


「貴方のお父さんはここまで稼げるほどの資産はないはずよ?」


 ごもっともである。僕は言い淀んだ。


「だ、だから……」


 彼女はじっと僕を見る。宝くじで当てたにするか。いや、嘘っぽいな。他には親父が出世した……と言っても一地方公務員が出世しても稼ぎはたかがしれている。僕が唇を噛んでいると、宮西が言った。


「私の方がある程度資金援助しているの」

「え!?」


 美希は驚いた。当然僕も驚いた。それを言うか!?


「な、何で?」

「それは私と彼が恋人だからよ」


 恋人でもこれだけの金出す人間がいるかよ!? とはいえ僕はその彼女の発言にドキッとした。


「え? でも恋人ってだけで普通ここまでするかしら?」


 美希はかなり怪しんでいる。しかし声に覇気がないように感じた。


「普通はしないかもしれないわね。でも私は彼を愛してるからここまで出来るのよ」

「!」

「もしかして貴女は出来ないの?」


 美希は目を見開き、項垂れた。


「わ……」

「わ?」

「私は諦めないんだからーっ」


 そう言って美希は出て行った。


「やれやれ、若い女子なんて何考えているか分からないわね」

「それを分かるために普通の高校に入ったんだろ?」

「ええ、まあね」

「ところでさ」

「何?」

「君は僕を愛してる……のか?」

「え?」


 僕はどきどきしながら彼女を見た。彼女は間を開けてから言う。


「そんな訳ないじゃない。嘘に決まっているわよ。恋人だから愛してるって言わないといけないと思っただけよ」


 彼女は淡々と言う。そこには何の思い入れもないような言い方だ。

 くそっ! 嘘なのか! 少しでも僕がドキッとした気持ちを返せ!! この恋人関係は嘘なんだから、決して彼女を好きになんてならないぞ!

最後まで読んで頂きありがとうございます。

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