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魔法学園の受験に大規模な破壊をもたらしちゃう系主人公(後編)

ひとまずこれまで


 胡乱な事を云う様ではあるが冗長もそこそこに、挙げておくべき話は挙げる。

 当然の如く、ふたりはなんだコイツみたいな視線を送ってくるのだが、被害の話が出たのだから事の序でに動向如何は探るべきだ。


「練兵場主要権利がそもそも何処のモノだったのか、くらいは覚えておこうぜ。そうでなくたって、国内で大規模な破壊を齎されたんだ。遅かれ早かれ警備関係の耳には入るさ」


「ああ……、それも当然の理屈だな……。仕事が増える……、話を通して置かないと……」


「規制は敷いてありますがー、所詮は学内人事なのでマジでお早めにー。彼の動きによってはー、先走るヒトだって居るかも知れませんよねー」


 言葉尻が窄み往くアランには悪いが、割と事は一刻を争う。

 『やりたくない仕事』を認識し直している合間にも、規制された情報を掻い潜って事態を把握し、『国の為』に滅私奉公してくれるくらいには、この国の教養水準はそこそこ高いのだ。


 勿論、迂遠に足元を固めるためにも、アランやバージニア先生が選ぶ『共存共栄』を読んで骨折りに連れ立ってくれる人材も居ることは居るだろう。

 其処は人材育成という大義名分を掲げる心理よりもっと前段階での話。

 『信頼』という前提条件を踏襲する話である。


 才能や技術を重視する以前、そもそもの重視すべきモノとはヒトの命であるという事実。

 命の内訳には『財産』『尊厳』『倫理』などと含まれるべき話であって、それらを踏まえて漸く『生活』という『個』を准えて支柱と出来る話になってくるのだ。

 其処を才能や技術などを根拠として、根本的な生活水準並びに死生の有無を検算してしまえば、それこそ『社会の中』に生きる者を選別する話になってしまう。

 其処にあるのはただの『合理』であって、決して人間としてそれらを見ているわけでは無くなってしまうわけだ。

 無論、そうなれば『信頼』など、夢のまた夢だ。


 しかし『容易な効率化(抹殺)』と『艱難な再錬造(教育)』のどちらを選ぶかは、それぞれの判断という天秤にこそ掛かっている。

 成功できるか否かはどちらも確固として是とは言えず、今在る情報で判断を下すしか伝手は無い。

 故に、どうなるかどうできるかの終着点は、サミュエルくん自身にこそ任せられる。


「――若様」


 銀髪に褐色肌の、胸部装甲のド分厚い淑女が音も無く現れた。

 不穏な話題を発しちゃった僕に怪訝な顔を向けていたアランとバージニア先生であったが、言葉と共に空間から染み出るようにして現れたメイドに明らかに驚いた様子だ。

 ドビクゥ! と優雅に紅茶を嗜む僕の傍らで同じようなリアクションを見せてくれたシンクロっぷりに笑いつつも、古き良きロングスカート且つ袖脚胸元一切隙を晒さない瀟洒な彼女へ目線を送る。


「様子はどう?」


「サミュエル=ドナルドは教会に宿している様です。ジェーン=クルーエルとの接触を確認しました」


「あっはっは!」


 哂える。

 寄りにも寄って彼女かよ!

 嗅ぎ取ったのかな賢者の息子!


 って息子とは決まってなかったっけか? しかし孫とは何故か言い難い。


「待て。誰だ……?」


「ジェーン=クルーエルは元聖都出身の修道女見習いだよ。人間至上主義で異種族排他主義、だからこの国でも居場所が無い。それでも生きていられるのにねぇ、警戒を煽るのがお上手だ」


「いや、そっちもだが、彼女だ」


 話の腰を折るなよぅ。


「シャーリー=ノアと申します。若様のメイドです」


「なんか、さっき凄い現れ方した気がしたんだが……」


淑女(メイド)としての嗜みです」


 ちなみに魔法とかスキルとかの何某かの特殊技能では無しに純粋な技術だとか。

 魔力放出を介さないので余程の把握性能持ってないと察知も出来ないのだぜ。


「まあこれくらいの側近が居ないとウチとしてもアレなのでねぇ、見逃しといてよ」


「いや、諫められる立場でもないしな。それに予め調査に出して置いて貰えたのだし、本格的に文句も言えない」


「助かるぜ」


 軽口で応酬。

 それでも王子で殿下という立場の『上』であるアランには遜っている、というのだと云う事を内外共に顕わにしなくては理解を狭める。

 僕が下! アランが上! 其処は覆してはいけないのだッ!


「……何ならエドに代わりに王位に就いて貰っても、」


「ざっけんなコラ」


 働く立場も嫌だけどもね、何が楽しくて乗りたくもない神輿に掲げられようとするものかよ。

 コンマで真顔を向ければ『冗談だ』と、アランは降伏のポーズか両手を上げた。

 ……目がマジだったぞぅ。


「あのー、聖都とはー、【聖母神殿】のことですかー? 2年前に崩壊したー?」


「ええまあ。ジェーン=クルーエルは生き残りで、疎開した難民ですね」


 軽やかに、話は戻そう。

 神殿と銘打っていたが、数多くの信徒とそれ以外が暮らしていた其処は、規模も相俟って完全にひとつの都市として機能していた。

 元を質せば100年前、ハイランドとも呼ばれる彼らが【聖地】と崇める、広大な北方高地。

 先立って話に出て来た【モリブデン北方領】よりも、更に北に位置する『世界の果て』だ。

 その土地を丸ごと国家としていた、正しい名も失われた【聖王国】が滅亡し、其処から逃げ落ちたとされる集団が根付いたのが始まりの、人類圏最北端に位置する神殿が其処である。

 ぶっちゃければ安土桃山時代の石山本願寺みたいな、武力と財力をしっかりと確保していた生臭坊主なお山の麓で、信者とか国政とかに色々と口出しもされていた厄介の見本市でもあった。


 それが崩壊したのがバージニア先生の語る2年前の事。

 唐突に降臨した【雷竜デュルック】に踏み潰されて、彼らが崇めていた万能神【ヨッド=ヘー=ヴァヴ=ヘー】とやらはその実在と祝福を懐疑的なモノとして周囲へ知らしめてしまっていた。

 尚、降臨した神の一種である【デュルック(雷竜)】がそのまま王国へと足を進めて来たのを防いだのは、他でもない【竜王】だ。

 現場で共に立ち塞がってくれた冒険者の一角も居るには居るが、彼が主力だったお蔭で国は頭が上がらない。


「彼女本人とは面識はありませんが、他の難民なんかへの炊き出しも率先して執り行っているので行動自体には悪いところは無いですね。しかし聖都では元々異種族の居住が許されていませんでしたし、彼女自身も王国内の多種族とは交流を取ろうという意図が見受けられません。避けてる節も見られますので、異種族排他、彼女なりの認識だと亜人排他主義なのは疑いようが無いかと。23歳のDカップ」


「最後の情報要るか?」


 要るでしょう(鋼の意思)。

 人物像を正しく認識するには一先ず外見を明らかとすることが重要だってジッチャが言ってた。


 ちなみにシャーリーは其処からレベル(位階)が最低でも5・6段階は上がり、同じくらい(戦闘力)の婚約者だって居るので僕がその情報に左右される謂れはそこそこ無い。

 位階最下位のバージニア先生こそが敗北者っぽいとの俗説もあるが、美少女の重要点は其処()じゃないでしょう? と勝利者の余裕を慈愛に満ちたアルカイックスマイルで呑み込むのである。


「で。そこまで明け透けな修道女見習いでも受諾するのが【王国】なのだと、僕らはこうして内外アピール振る舞っているわけですが、」


「……サミュエルが其処に加担するか否かで、寄り先が混迷化して来たということだな。迂闊を危ぶむ……いや、首の皮で繋がってる状態か。狙ってやったのなら、もっとマシな拠り所を探る筈だしな」


「どれだけの情報力があるかで判断は迷うけど、そもそもそんなの(諜報)を確保できてれば最初に莫迦(ブッパ)を晒して無い筈だしねぇ」


 どちらも警戒の理由は違えども、先に危ぶんでいたモノに更に危ぶまれるモノが近づいたらそりゃあ判断に迷う。

 まあ『生存権』という先例でもあったのだから、其処へ視点が集約すれば取るべき判断を躊躇うくらいの隙間は作れるだろう。

 受け入れ難いモノ(人物)を受諾できずに排除し続けてれば誰も住むのが辛くなるだけだし、『危うい』という判断だけで決定付けられる程経験も足りていない。

 この国は未だ発展途上でもあるのだから。

 多くが『教育』に傾倒する手段を選択している最中なのだから。


「えーとー、概ね話が外れてましたがー、どちらにせよ選択肢は一択ということですよねー」


「猶予が出来たと予測が付いただけで、実のところ何にも解決してませんけどね」


 最悪、ニッチな趣向の琴線がサミュエルくんのサム(息子)に程よく触れただけ、とか予測しておいた方がダメージは少なそうだ。

 ……自分でも云うのもなんだが、在り得る気がしてきたなー……。

 国外からの移住者なのに、一般宿ではなく教会に留まる理由。

 流石にジェーン修道女見習いと二人きりだとは思わないけども。


「えー、ではー、アラン=ヴァハ=バクスターくん」


「はい」


「エドワード=ベリス=シュヴァインヴァイプくん」


「はいはい」


「これまでのお話で察しは着いてると思いますがー、お二人もエスクラス配属ですー。おめでとうございますー」


 これほど空虚な『おめでとう』を、僕は初めて聴いた。

 というか実質、【実刑宣告】じゃないか。


「やっぱり僕もですかー……。アランだけじゃダメですかね?」


「逃さん。俺だって何も考えずに趣味に勤しんでいたいんだ、俺以上の『真っ当な貴族』が役割から外れられると思うなよ?」


「冗談だよぅパン屋の息子(バクスター)


 粉挽きの利権を取り沙汰して宙ぶらりんとなったパン焼き職人を、僕ら(貴族)(こぞ)って神輿に担いで今なのだ。

 今ほど担ぎ易くてしっかり働いてくれる王はそうは居ない、との評判上々な王族の末裔なのだ。

 下手を打って廃位させようなどと、誰がさせて堪る物かよ。


 軽口を応酬しつつ、ふと気になったことを思い出す。

 どうでもいいことなのだが、訊くだけ訊いておくこととした。


「そういえば、エスクラスのエスって何の略ですか?」


「……()ゴーイクラスのエスですよー」


 何故、顔を逸らす。

 そしてネーミングはなんだそれ、どこぞの動物園(パーク)か。


「そうですかー。てっきり僕はSacrifice(生け贄)のエスかと」


「………………そんなことないのですよー……?」


 じゃあ先ずはこっちを見ろ。

 随分間の空いた返答だったなぁオイ。


攻撃力・破壊力極振りの魔法使いズンドコ起用されますけども、それだけのブッコミ性能発揮しなくちゃならないような周辺ってどうなのでしょうね…? みたいなことも言いたかった

それだけ外敵が危険度アゲアゲならば呑気にアナグマ極められるわけが無いだろうし、学園モノみたいにのんびりと新規参入を育成する暇だって生まれるとも思えない

『強大な天敵』から逃げられ生き延びられるだけの『何か』があると確りと説得力備えていれば構いませんが、そう伺えないのならば『平時』ほどの生活環境と社会環境を維持できる理屈が通らないので――とズンドコツッコミが溢れ出すのです

あまり言い過ぎると隙間無しで余裕のない理屈人間と捉えられかねませんので此処まで


感想とか評価とか続編希望の声なんかが来たら続きを書きます

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― 新着の感想 ―
[良い点] なろう小説におけるテンプレート的な展開を強烈に皮肉っているところ。ここまでこき下ろしてると一周回って続きが気になってくる。 ただ『魔法科学院の入学試験』ってだけじゃなくてそこから一歩踏み込…
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