魔法学園の受験に大規模な破壊をもたらしちゃう系主人公(中編)
あんまり言い過ぎるとダメかとも思われるけどもね
「ドナルド家は彼の代で断絶しているから、その息子か孫かが出て来たと云われても貴族位を与え直すことは出来ないぞ……?」
「というかそんな順風満帆な生き方してたのに、なんで断絶したの。王国追われるとか、何したのその人」
バージニア先生が可愛いことはさておき、学院長という一番重要な立場であったことは、まあ後出しとなってしまったが別段可笑しなことでもない。
王国の未来を担う若者たちの中から、更なる技術の発展へと貢献する人材を迎え入れる準備こそが入学受験であったのだから、重要な立場の人物が監督をすることには何の無理もないわけだ。
これが会社とかであった場合、面接試験に社長が同席するような話になってくるのだが、此れから顔を合わせる以上は必要な対面であるとも言えるよね。
それはともかく、件のドナルドさんらの話である。
特別、追われてるわけでも無いのですけどねー。と前置きして、バージニア先生は言葉を紡ぐ。違うの?
「知っての通りー、元女王陛下を王座から降ろさせた事件は、王国内の孤児院を取り纏めていたのが吸血種であったことが発端ですー。彼らもまた人間とは別種族なだけなのでー、自分たちの同種や眷属を吸血行為で生み出すー、などという『設定』は荒唐無稽な話なんですけどもー」
「当時は異種族に対しての配慮が足りなかったからな。何某かの病症だとか騒いで孤児院を閉鎖して、件の吸血種であった貴族を追い立てて『討伐』したのが顛末だ。……元女王陛下はその彼と癒着してて、まあ恋仲であったとも聞くが……、敵討ちと称して王家の神槍【レーヴァテイン】を振るうほどの武力騒動に発展した。あとは、知っての通りだ」
酷っ。
何が酷いって、仮にも国家運営に携わっていた奴らが個人の感情で周囲を巻き込んで自爆していった事実だよ。
悲しいというよりかはドン引きの悲しさだよ。
やっちゃあダメだろ、そこはさぁ。
「ルシフェリウム=ドナルドが【賢者】と呼ばれているのは、魔法を扱うその実力が一般の規格に収まらない規模を持っていたことに由来する。名を広めた原因は件の『討伐』に関わっていた事実を、市井は『正義』や『大義』と捉えて、更にその隔絶した実力を称えての周知に相成った」
「個人での優位を【英雄】と称える話だねぇ。社会としては見事に穀潰しの代表例なんだけど」
若しくは昼行燈だ。真昼にレーザービーム出す斜光機みたいな。
非常時には役に立つけど、日常では置き場に困るモノの典型例。
だからこそ【英雄】は名を挙げた『その後』には悉く姿を消すんだよ。
強敵を討ち取れても、大多数の衣食住の面倒を見たり、不安定になった政治を安定させることが出来るとは限らないのだし。
そもそも戦うことに特出しているのならば、猶更『他人の面倒を見る義理』なんて【英雄】には無いのだしね。
「実際の話だと、彼が熱を上げていた平民の少女が、その孤児院出身だった。少女の方はルシフェリウムではなく吸血種の彼のほうへと懸想のベクトルは傾いていたらしくてな、それを種族特有の魅了能力でどうこうしていたのだ、と逆恨みして『事件』だ。……【槍】を振るった女王と【爆撃魔法】との応酬で、モリブデン北方領の被害再興は未だ片付いていないがな……!」
まあ、そういう説話は聞くけど。
いや、後半じゃないよ、前半のね。被害とかは聞かなかった。イイネ?
「実際、そう云う能力とかって持ってるの? 吸血種って」
「直接の付き合いが無い種族なので断言はできませんがー、有無を言わさずにそんな真似を出来ると云うのなら今頃はもっと酷いことになっていたかとー。荒唐無稽ですよねー」
「ああ、そっか、女王がどうのって話だったもんね」
何処かの巣立たない孤児院みたいなチートでヤレヤレな話を想起し掛けたが、実際に能力のある人物が取り仕切っていたと云うのならもっと繁栄も繁殖もしている話だ。
世の中上手いこと廻らないからこそ、そういう『何処かに凄いモノが眠ってる』みたいな話題が蔓延る物なのかも知れない。
『ジッサイスゴイモノ』が齎した被害については耳を塞ぐ。僕は聴かなかった。
「まあなんやかんやがあったのは知りたくもないのに良く知れたけど、学院を退任したルーさんは学院の方からは引き留められなかったの? 個人の自由って言っちゃえばそれまでだけど」
「そうですねー。個人の自由なのでー」
さらり、と首肯された。
若干の、間。
……ガチでそれまでの話で終わるのかよ。
え、実力者って話じゃ無かったの? 惜しまれなかったの? その実力を?
「尊厳は大事なのですよー。ジッサイー、尊厳という『個人の気分』で事を起こした方ですからー、其処は重視しないとダメですよねー」
あ、はい。
ソウデスネ。
これ、バージニア先生も何らかの不備を被った形なのかな。
笑顔なんだけど、言ってることも納得なんだけど、なんか雰囲気がね……?
「ちなみに彼の個人名が喪失しているのも彼個人の自由だ。王国は関与していない」
「ああ、元貴族なのに名前が足りないかと思ったら」
基本的に王国領中心の話になるのだが、【名前】には【個人名】【天啓名】【継承名】の三つがある。
お隣の王子『アラン=ヴァハ=バクスター』で例えると、それぞれが順繰りにそれに当たる。
生まれた時に名付けられるのが個人名で、天啓とは名ばかりの根本的には市民権を備えるのが二つ目。
基本的には『家を継ぐのは男児』なので、家名や父の名を継いで成立する。
継承名の意味合いを正しく質すなら『バクスターの息子のアラン』と、例えるならそうなる。
これも市民権を兼ねているので、立場や理由さえ無ければ天啓名も特別必要というわけでも無い。
実際、サミュエルくんは天啓名持ってないっぽいし。
名前を三つ名乗れて初めて貴族の男児。
女性の場合は『継げない』ために、独り立ちすると天啓名を授けるのが国役場のやり方である。
同名とか居たら、区別がつかないからね。仕方ない。
尚、現状僕も同じく継承名を表としているのだけれど、兄が居て貴族の長子でもないのに名乗れている理由は『【家の庇護】を受諾している立場であるため』でしかない。
仮にも『成人』として認定受けている年齢なので独立して天啓名のみで立場を得ていくスタイルが国民としては真っ当なのだが、此れまでの教育課程で得た知識と経験は飽く迄も『貴族として』のモノであって『国に差配するため』にこそ培われた思考と習練だ。
だから貴族という『特殊な立場』を享受しながらも学院に通い、仕事と並列してこんな事態に参加してるんだよ畜生。
「……というか、貴族位を返還する気なら継承名から名乗らなくなるモノなんじゃないの? なんで個人名喪失してるんだろう……」
「其処までは知らん。『個人の自由』だ」
直訳すると『光り輝く世界を統べる者』になる。
訳語の方はしっかりと世間では広めてないが、知る人は知っている。
どちらにせよ古代地方言語の意訳なので、彼個人が其処まで把握してたかと追及までは出来ないししないけども。
「さてー。そろそろ大事なお話に移りますねー。サミュエル=ドナルドくんはエスクラスに配属決定ですー、ぱんぱかぱーん」
「やっぱりかー……」
若干、自棄になったかのようにも伺えるバージニア先生の盛り上げ様に、アランは懊悩のように項垂れる。
元々そういう話のための緊急会議であったから結果としてはわかるけど、一縷の望みが捨てられない。
サミュエルくんに対しての、
「……入学拒否ってわけには逝きませんか?」
「ダメですー。初級魔法の威力を求めていたところにー、考え無しに広域破壊魔法ブッパする成人男性なんてー、危なっかしくて放棄できませんー。倫理を育てないとー」
幼児が通るべき学習点なんだよなぁ其処はァ!
まあ知ってた話だけどさ。
「扱うマナの量が先ず尋常じゃないからな、直接正論ぶつけるのも無しだ。時間をかけて、倫理と常識の擦り合わせを重ねて往かないと、変にキレられるのが一番危ないから、割れ物扱うように丁寧に」
「だから隔離施設ってことですよね」
机の上で手を重ねて肘をつき口元を隠す、所謂ゲンドゥンなポーズをしつつ言葉を句切るアランにざっくばらんに理解を示す。
オブラート? 知るか。
「その事実を明け透けにも当然できない。時機を見て明かすことも考慮しないでも無いが、今のところ彼個人へのと恐らくは把握されたであろう隣国からの信頼が圧倒的に足りないからな、付き合いも深める必要がある……」
「ちなみに練兵場の被害につきましては王家へ請求が届きますー。『後ろ盾』の方に支えて貰わないと学院としても示しがつきませんのでー」
「ああわかってるさ……!」
おお、そういえば試験会場も大破だったっけ。
真っ当なら本人に行くべき請求だけど、『入学を認める』以上は『才能に目を付けた』と内外共に周知させる必要がある。
其処で請求を本人に向けてしまっては、やはり説得力が足りなくなるわけだ。
そしてこれから其処を矯正して征くのだから、予測のつかない学院が負うダメージはズンドコ増えることだろう。被害総額ハウマッチ?
「ところで練兵場が大破したのなら騎士団も知っただろうねぇ。『正しく』認識した騎士なら先ず真っ先に潰しに懸かるだろうけど、彼が迂闊でないと良いよねぇ」
~エスクラス=隔離施設
『特殊な授業内容を教える教室』となると真っ当な学術機関なればこそ普通に考えると『そうなる』
~賠償金。保証金。修繕費。請求先
後ろ盾が居るんならそっちへ行くよね
世の中の主人公諸君、よく覚えとけ。跡片付けをする男の背中を…!
ちなみに壊したのなら直せばいいじゃない、みたいなやり方する主人公も見かけますが、
『それならそもそも壊すんじゃねーよ』としか言いようが
そして独りでそれをできるのならば「もうそいつひとりでいいんじゃないの…?」と物語の進行上の不具合感が出過ぎます
俺スゲー!は出来ることを増やし過ぎるとギャグにもならんのよなぁ…