8-9 招待
意外な事に、オークキングと穏便に話が出来た。
絶対に殺し合いに成ると思っていた。
‥‥この世界に来て、性格が殺伐としたかな?
元々穏やかな心算だったのだが‥‥
やはり過ぎた力を持つと引っ張られてしまうのか?
オークキングのマンガリッツァは、穏やかに周囲を警戒している。
俺もこういう風に出来たら良いのに。
ちょっとの羨望と、ちょっとの嫉妬。
仲良くなれる物なのか?
元々、人との付き合いは得意じゃない。
人じゃ無いが‥‥‥
「マンガリッツァ。交易しないか?」
「‥‥‥交易?」
「互いに欲しい物を交換するんだ。マンガリッツァの仲間たちは欲しい物は無いのか?」
「‥‥欲しい物‥‥‥平和な場所。仲間と暮らせる平和な場所が欲しい。」
「平和な場所か。‥‥‥それなら在るぞ。」
「!!‥‥‥在るのか!?」
今までになくマンガリッツァが激しく反応した。
この近くに牙狼村という俺が村長をやっている村がある。
そこは、俺(人間)とエルフと牙猿と魔狼で助け合って生きている。
オーク達は偶に交易に訪れる。
エルフも交易に訪れる。
人間達の所には交易に向かう。
人魚さん達の所へも交易に向かっている。
「‥‥人魚さん?」
「海に住んで居るんだ。海は見たことあるか?」
「‥‥無い。海ってなんだ?」
ガクッ‥‥そっからか。
海を説明した。
大きくて、深くて、広くて、しょっぱくて、静かで、激しくて、キレイで、魚が沢山居て、貝も沢山居て、日が昇り、日が沈む、月が上り、月が降りる所だ‥‥
「‥‥分からん。」
「うん。そうだろうな。見て見ると良い。心が洗われる。それが海だ。」
「‥‥近くには無いな?」
「ああ。そのうち連れて行ってやる。」
「‥‥行けるのか?」
「行けるぞ。美味いもんも食わせてやる。」
「‥‥対価は?対価はなんだ?」
「対価か?」
真悟人はニヤリと笑って。
「平和な世界だ。」
細められていた目がまん丸に見開かれた。
「それは‥‥」
「難しい事じゃ無い。話を聞くか?‥‥話をする気があるなら、何処かで座って話そう。」
マンガリッツァは黙って頷いた。
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デュロックは激しく後悔していた。
何故、真悟人に聞かれたときに在りのままを言わなかったのか。
何故、村を助けて欲しいと言えなかったのか‥‥
小さなプライドと大きな恐れ。
村を纏められないのを、真悟人に幻滅されるのが嫌だった。
それが小さなプライド。
村を乱す者が、討伐されるのが怖かった。
それが大きな恐れ。
言ったらどうなってしまうのか?
怖くて言えなかった。
それに、近くにオークキングが来ている噂もある。
また、戦争になるのか?
また、王子の時代のようになるのか?
‥‥‥本当は、どうすべきかは分かっている。
自分の判断で、皆が動く。
もし、間違っていたら?失敗したら?と考えると躊躇してしまう。
自分で決める事に自信が無いのだ。
自分だけじゃなく、皆の運命を決める自信が無い。
それがデュロックの弱点だった。
「大丈夫ですか?」
「あ、ああ、すいません。好条件のお話で舞い上がってしまいました。」
ジョゼットさんとクアガールさんとの二人と話しているのだが、話しているのは、デュロック一人。
セネーゼはワフワンに着いて歩いている。バークシャーとバスクは姿が見えない。
結局、自分一人で決めなきゃいけない。失敗しても責められないなら良いのだが‥
そんな訳は無い。上手く行って当たり前。だから余計プレッシャーが重い。
「今、決める事は在りません。話を持ち帰って検討してみて下さい。」
「はい。ありがとうございます。お心遣い感謝します。」
・・・・・・・・・・
「ん??何か外が騒がしいようですが?」
「あなた。私が見て来ますよ。」
クアガールさんが見に行った。
確かに、表で騒いでいるようだ。
「あなた!デュロックさん!外に‥‥‥」
デュロックが外に出て見ると、そこには・・・・・
オークキングが居た!!
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オークキングとオークジェネラル。
♀女の子のマジシャンが二人。
その周りで、牙猿と魔狼が整列して迎える準備をしている。
真悟人さんも居る。
トゥミさんに頭を叩かれて、怒られている‥‥
いったい、どうなってるんだ?
真悟人さんが僕に気付いた。
満面の笑みに、鳥肌が立った!逃げろ!!と気持ちは叫んでいる。
‥‥逃げられる訳は無かった。
・・・・・・・・・・・
キングとジェネラル、マジシャンを二人連れて村に戻った。
最初、オークキングの集落に行くと言ったら、シャルにマジか!?と呆れられたが、意外とシャルはコミニケーション能力が高く、マジシャンと直ぐに打ち解けていた。やはり女性同士は相通じるものがあるのか?
俺とボスとアルファが、キングに付いて行ったら、、ジェネラルが出迎えてくれた。
キングに負けず劣らず、こりゃヤベェ奴だってのが痛いほど分かった。
ジェネラルがボスとアルファに仁義を切り出した時はどうなる事かと思った。
腰を中腰に落とし、右手の手のひらを見せるように前へ突き出して、
「早速ながら、お控えなすって、稼業、仁義を発します。」
なんと!これに対してボスとアルファが、お控えなすってとやっている。
おいおいおいおい!お前達、何処で覚えて来たんだ?
「早速、お控え下すって有難う御座います。手前、粗忽者ゆえ、前後間違いましたる節は、まっぴらご容赦願います。向かいましたるお兄いさんには、初のお目見えと心得ます。手前、生国は・・・・・
名はウメヤマ。稼業、昨今の駆出し者で御座います。以後、万事万端、お願いなんして、ざっくばらんにお頼申します。」
「有難う御座います。ご丁寧なるお言葉。申し遅れて失礼さんにござんす。手前、当神田真悟人に従います若い者。名はボス。稼業、未熟の駆出し者。以後、万事万端、宜しくお頼申します。」
「有難う御座います。どうぞ、お手をお上げなすって・・・」
「あんさんから、お上げなすって・・・」
「それでは困ります。」
「では、ご一緒にお手をお上げなすって・・・」
「有難う御座います。」
「有難う御座いました。」
任侠映画を見ているようだ。
ボスが、健さんに見えて来た。‥‥アルファが、文太兄ぃに見えて来た。
なに?なんなの?俺?出来ないよ。そんなの。皆、え~~?って顔しないでくれ。
その横で、シャルがマジシャンたちに、
「こんにちは~!」って普通の挨拶をしていた。
俺もそっちが良いわ!!
挨拶も済んで、オークの今の生活を聞いて見る。
デュロック達は、多少の農耕をやっていたが、ここのオーク達も農耕をしたいそうだ。しかし中々自由にできる土地も無い。
どうして今になってここに来たのかを聞いたら、やはり中々落ち着いた場所が無くて放浪生活をしていたと。噂で、ここのオークが壊滅して散り散りになったと聞いたので場所が開いてると思った。
しかし、一定数のオーク達が畑を作って暮らしているので、邪魔をする訳には行かない。だからまた移動するのに、どっち方面に向かうか相談していたらしい。
村を取り込もうとは思わなかったのか?との問いには、最初は考えたそうだ。
一緒に暮らせるならそれに越した事は無い。
しかし、濁った奴らが居るようで、どうやらリーダーが出かけている間に色々画策しているのを見て、無理だと思ったそうだ。
真っ向から来るなら相手もするが、裏でコソコソするのは許せないと。
ジェネラルのウメヤマは任侠渡世人気質なので、キングのマンガリッツァ以上に、そういう行動を嫌うとの事だ。
そんな行動をする奴は、いつか村を破綻させる。自分の大事な仲間たちは絶対に守りたいから自分自身が強く無ければ!と思っているそうだ。
ボスとアルファが共感して、大いに盛り上がっていた!
そして、自分達の自慢の村と仲間たちを見せたい!と言って、彼らを村に呼ぶ事にした。それに素直に乗ってくれて、キングとジェネラルとマジシャン二人が来る事になった訳で‥‥今に至る。