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4-6 家出

 居場所を見失ってしまって旅立った。


 俺の居場所って何処にあるんだ?

 このままでいいのか?どうするべきなんだ?


 トゥミとグッチが手を繋いでるのを思い出す。

 森の中で、二人きりで‥‥‥身体が熱くなる。

 後はもう何も考えられなかった。

 逃げ出してしまった。

 異世界来たら思い通りに過ごすはずだったのに、結局、日本と同じだった。



 村を出て南に向かった。特に何かあった訳じゃ無い。

 でも、何とかなるだろう。

 こちらに来た最初の頃、南に向かって川があったのを思い出した。

 大量の石と水を確保したな。

 ほんの数か月なのに、もう懐かしいなんて思える事があるなんてね。

 あれ以来来てないから、川に行ってもう一度考えよう。


 西の森周りで南に向かう。

 途中途中でめぼしい食材を収穫して移動する。

 季節は夏。

 外でも十分過ごせるし、果実なども豊富に生っている。

 夕飯は、途中で採ったキノコと山菜のようなものを出汁醤油で炒める。

 鑑定があるから、お腹を壊すことは無い。


 夜は怖いので結界を貼って眠る。獣の気配を感じる事も無く熟睡‥‥

 出来る訳が無い。色々考えてしまって眠れない。

 空には赤い月が浮かんでいる。

 今頃。みんな心配してるかな?探してるかな?実は気付いて無いかな?

 サラは気付いてくれるかな?トゥミは‥‥  胸が痛い。


 明るくなったらまた南を目指す。


 良く考えたら、この世界に来て一人で冒険したことないな。

 まさに今、異世界転生の最初のようだ。

 もう一度やり直すつもりで、ひたすら南に向かって見る。


 大きな川に出た!

 ここまでは来たな。河原が荒野になっていて、改めてやり過ぎたことを感じる。

 ここから、どっちに向かうか?

 暑いのと、風呂に入ってなかったので、服をアイテムBOXに格納して川に入る。


「お!結構冷たいな!」


 ところどころ深い所もあって、プールのようにチャプチャプと泳いでみる。


「うん!気持ち良いね。魚は居るかな?」


 岩の下を覗くと何匹か隠れている。

 これは、やるしかない!と『大ハンマー』を呼び出す。

 岩の中芯を狙って『大ハンマー』を振り下ろす!


 ガィィ~~~ン!!と響く音がして、魚が何匹か浮いてきた。

 さすが『大ハンマー』!割れずにバッチリ成功だね♪


 来た方向とは逆の岸辺に上がり、岩場の隅で火を熾して魚を焼く。

『道具』には『金串』もあった。串を持つと焼き上がりの感じが分かる。

 まったく、『道具』達には助けられてばっかりだ。


「うん!美味い♪」


 醤油の焦げた香ばしい香りが広がる。

 日本人で良かったと思う瞬間である。



 =====================



 その頃、


 トゥミとサラが、ボスに真悟人は何処に行ったか?聞いていた。


「主が居ない?どういう事です?確かに今日は朝礼が無いのでおかしいとは思いましたが、また何か始められたのかと‥‥」


 トゥミは

「森で昨日、走ってるのを見たの。何か普通じゃない感じがしたんだけど‥‥」


 サラは

「うん。私も走ってるのを見たよ。珍しいな?とは思ったけど‥‥」


 ユナとカレンは

「昨日呼ばれたんだけど、そっけない態度を取っちゃって、その後、帰って来たのを見たけど、また逃げ出しちゃったんだよね‥‥‥」


 シャルは

「最近会ってないんだよ~。子作りするって言ったのに!」

 おいおい‥‥


 アルファとシャマルは

「見てないですねぇ。用事がある時しか呼んでくれないですから。」


 グッチと反乱軍たちは

「見てないですな。森でトゥミ様と魔法の練習してる時に見かけたとトゥミ様は言ってましたが‥‥」

「自分たちもお見掛けして無いです」


 果たして、何処に行ったのか?

 村の周囲は、魔狼と牙猿と戦隊達が警備しているから、そうそう危険は無い筈だが、その目を潜って居なくなるとも思えない。


 スライム先生の出番である。

「ん~~‥‥家出したんじゃない?」


「「「「「「「「「「はっ?」」」」」」」」」」


「どういう事?理由は?何のために?どうして?家出って?」


 皆の疑問は募る。


「まぁ、その内、頭冷やして帰って来ると思うよ。色々考えてたみたいだし、自分の居場所みたいな物を見失っちゃったのかな?」


「居場所を?」「見失うって?」「どういう事?」


「その辺は本人のみぞ知るだけどね。きっかけは些細な事でも、溜め込むと爆発しちゃうから、いい機会なんじゃないかな?」


「何処に行ったかは分からないの?」


「多分、南に向かったんじゃないかな?他に向かった事無いだろうし。」


「おぅ!南に探しに行くぞ!」

「「「「「「「「「おおぅ!」」」」」」」」

「「「「「「「「「うぉん!」」」」」」」」


 牙猿達は山を、魔狼達は草原を、連携しながら捜索に向かった。


「私たちはどうしよう‥‥。」

「私らのせいかな?あんな態度取ったから‥‥」

「探しに行った方が良いよね?」


「おいおい!大丈夫だよ。ほっといても帰って来るって。‥‥まったくもう、一言相談してくれれば良かったのにね。でも、楽しんでくると良いね!」


 スライム先生は呑気なことを言っている。


 トゥミとサラは、真悟人の気持ちなんて、ぜんぜん分らなかった‥‥‥‥

 と、落ち込んでいた。



 ===============



 真悟人は、焼き魚を食べて満足して昼寝をしていた。


 その頃対岸では、

「主は居たか?‥‥」

「駄目だ!ここで匂いが途切れている。川を渡ったか?下ったか?」

「渡るには我等じゃ深すぎる。しょうがない、下流を探すぞ!」


 ちょっとしたすれ違いで会えないもんである。

 ちょっと早く牙猿達が着いていれば、風下だったら、真悟人が食後に寝なかったら、焼いてる煙を見つけてたら、醤油の香りに気付いたら、言ったら限無いが、そうやってすれ違った。


 真悟人が起きた時には、当然誰も居ない。

 ここで真悟人は川を下らず、南を目指した。川を下ればすぐに魔狼達が休憩していたのに!


 川を過ぎて河原を抜けると、山と言うより丘が続いていた。

 低木と草原を合わせたような小高い丘を抜けると海が見えた。


 お約束の、

「海だぁぁ~~!!」

 と、丘を駆け降りる!青春の1ページである。


 広大な砂浜と少しの岩場と割と近くにある島と、正に冒険の為に誂えたようなシチュエーションに気持ちは昂る!


「ヨシ!あの島に渡って見るかぁ!」


 お約束である。

 島は割と近くに見えるが、決して近い訳では無い。

 渡るのに何か?・・・と、考えていたら思いついた!

 道具の土間の上、屋根裏の棚みたいなトコにボートだかカヌーだかが乗って無かったか?・・・・・『ボート』!?・・・・・違うか。

『ヨット』来い!---違うな。

『船』!---ん~?

『カヌー』!来い!!-----来たぁ!

 3人乗りで椅子も着いている。釣りでも出来そうな感じのカヌーと、左右が1本に繋がったオールが有った。

 中に取説まであった。てか、未使用品かよ!ツーリングシーカヤックと言うんだそうだ。長さも5m?あるかな?重さは・・・思ったより軽い?


 波打ち際まで引きずって、おっかなびっくりカヌーを出す。

 ひっくり返らない様に慎重に乗り込む。

 無事に乗り込んでも、波に押し返されてしまう。


 横に向いたら簡単に転覆するのは目に見えて分かるので、オールを使って上手く海に出る。ホッとした瞬間、波を受けてバランスを崩したら、あっという間に転覆した。


 ブヘッと水面に浮かんで、波が穏やかな辺りで乗れば良いのか!と気付いた。

 腰辺りの深さで、腹ばいになる様に乗り込む。

 もぞもぞと動いて、ようやく席に着いてオールを持つ。


 右、左、1,2,1,2、と漕ぐ内に慣れてきて進むようになった。

 小島までは岩礁が続いてるようで、底が見えるし魚も泳いでいる。

 なんだか、目茶目茶テンションが上がってきた。

 このまま、小島まで行ってそこで暮らせるか探検しよう!

 普通は水と食料の確保が最優先なので、そんな暴挙には出られないが、アイテムBOXには水も食料も余っている。更に水魔法も覚えたので、困る事は何もない。


 小島に近づく。意外と大きな島だ。

 グルっと一周廻ってみようか。

 時計回りに進んでみる。潮の流れがあるようで、小島から離れるように流されていく‥‥あれ?ドンドン離れてくぞ?


 1,2,1,2、!!あれあれ?戻れないぞ?1,2,1,2!!

 だんだん焦ってくる。

 おいおい、いくら冒険と言っても、漂流記は嫌だぞ!

 沖まで流されたら、多少進むようになってきた。

 これって、真面に流れに逆らっても進めないパターンだな。

 斜めに流されながら、島に近づくように漕いで行く。

 よしよし、近づいてきたぞ!


 島をグルっと回るどころか、かなり大回りをして、ようやく島の裏側に出た。

 上陸出来そうな所を目指して近づいて行くが、岩場ばかりでちょっと怖い。

 一か所、入江のような場所があり、そこに突っ込んで行く。

 ちょっとだけ砂浜で断崖絶壁に囲まれているが、奥の方は森になっている様だ。


 遠くで鳥?が鳴いている。それ以外には波の音だけ。



 ‥‥‥静かだ。



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