ボウモア 1/3
「嘘つき…ずっと側に居るって約束したのに…」
目を覚ますと時計の針は10時を少し過ぎたくらい、5年も前の出来事を夢に見る自分に小さな溜め息をつく、何時迄引っ張ってるんだろうと…。
寝直そうと再びベットに身を預けるが…くるるぅーとお腹が鳴る、そういえば帰って来てベットにバタンキューしたんだっけ…腹の虫を納めないことには寝むれそうにもないし、近くの酒場に行くことに決めた。
ここはカリバー地方にある小さな王国アルトリ、特徴らしい特徴はないけど強いて上げるなら、男性より女性の方が人口が多いことくらいの至って平和な国。
5年前、学生だった私は友人を超えて恋人になった彼女と卒業後、同棲の約束をしていたのだけれど…彼女の家の都合で約束は果たされ無く彼女は私の元を去った。当時彼女が全てだった私には彼女との別れは死ぬのと一緒だった…いっそ本当に死のうかとも考えたけどそんな勇気も無くふらふらと毎日を生きていた。
歩いて10分―――殆どの家の明かりが消えてる中1軒だけ明かりがついている店のドアを押し、カランカランと乾いた鐘の音が響くマスターと視線を合わせ軽く会釈し、何時もの端の席に座り待っているとマスターが注文を聞きに来る。
「何時ものでいいかい?」
「えぇ、あとお腹空いてるから何か頂ける?」
「ふむ…ならスモークサーモンが出来上がったからそれでも良いかな?」
「お願いするわ」
本来お腹が空いてるなら、レストランに行くのが正しいのだろうけど時間が時間だけにもうどこも閉まっているし、見た夢のせいで正直お腹を満たしたぐらいじゃ寝むれそうにも無かった。
別れの際、私は彼女に随分酷い事を言ってしまった…感情に身を任せた言葉―――それを言えば彼女は苦しむのをわかってぶち撒けた呪い…けれど呪いは自分にも跳ね返り5年たった今でも当時を思い出しその度に酒で誤魔化していた。
そんなこと考えてるとお酒と料理が届く、お酒をグッと飲み料理をいただくのがここ最近の一番の娯楽だと思う。料理を食べ終わり酔いが回りボッーとしてるとふとっ、前までは無かった箱が有ることに気付く。
「ねぇ、マスターあれは何?」
「んっ?あぁ、あれは意見箱だよ、一昨日くらいに城の騎士さん達が置いていったんだ、何でも王族に対してのお願い事や不満を書いてあれに入れると王族に届くらしい」
「へぇ〜そんなこともやってるのね、あの姫様」
「おいおい、姫様って…もう女王だぞあの方は、先代が早くに亡くなり19歳で即位したのに周りに流されず、自分の意思で政をやられている立派な方だぞ」
「わかってるわよ、それくらい…誰よりも…」ボソッ
「ん?何か言ったか?」
「別に〜というかどうやって回収してるのその中身?」
「毎日開店と同時に騎士さんがやってきて持って帰ってるよ」
「毎日って…騎士さん達も大変ね」
「まぁ、平和なこの国じゃ騎士さんも他にやることがないのだろう」
「それもそうね〜騎士さんよりも街の衛兵さんのが忙しそうだもの、それより書く時って名前書くの?」
「いや、名前とかは特には書かなくてもいいらしいが…まさか書くつもりか!?」
「別に不満があったら書いて良いんでしょ? 私は有るの女王様に不満が!」
「そう言うなら止めはしないが、余り変なこと書くと侮辱罪になるかもしれんからな気を付けろ」
「はいはい、わかってますよ〜」
「大丈夫か…この酔っぱらいは…昔何があったか知らんが酒は飲んでも酒に飲まれるなだ」
「大丈夫だって〜あっマスタ〜お酒おかわり〜」
「言ってるそばからこれか…はぁ、毎回毎回潰れるまで飲みやがって…」
と記憶が有るのはここまで、気付いたら時計の針はてっぺんをとっくに過ぎ去り太陽は傾きかけていた、部屋のベットで寝ている辺りおそらくマスターに閉め出されたのだろう。
変な時間に飲んでしまったせいか、なんだかお酒が抜けてないような感じでちょっと気持ち悪い…ベットから抜け出すのも億劫でゴロゴロしていると急にゴンッ!ゴンッ!と強めのノックが部屋に響きついでに頭にも響く。
「アリス!!…アリスはここに居るか!?」
怒鳴り声に近いそれは、私の名前を叫んでいる…なぜ?借金やトラブルの原因になることはしてないし、仕事は今日は休みなはず……何をした私?二日酔いの頭で考えてる内についに怒声の主が入ってきた。
「失礼するぞ…貴様がアリスか?」
「え、えぇそうですが…」
「私の名はマリア、王族直下の親衛隊だ、とある件で話が合って来た」
マリアと名乗る女性は、鎧越しにでもわかる気品を纏い凛とした顔立ちをしているが、その顔は殺気に満ちていた。
「と、とある件?」
「この紙は今朝、酒場の意見箱に入れられていた物だが見に覚えは有るか?」
そう言って彼女が取り出した紙には「卒業したら一緒に住むって約束したのに、嘘つき!!」とヨレヨレの字で書かれてある…全身から変な汗が出るのがわかる…書いた記憶は無い…無いけど内容からして恐らくは…そういや昨日酒場で何か書いた気もする…。
「えっと…その覚えはないんですが…そのなんというか…」
「はっきりしろ!…書いたのか!書いてないのか!」
「ひっ!う…多分私が書きました…」
彼女の怒声に負けるように認めてしまった、どうなるのこれ…。
「ふんっ!酒場のマスターに聞いて貴様が書いたのはわかっていたのだ、とっとと認めれば良いものを」
う…マスター裏切り者〜いや別に裏切ってるわけじゃ無いんだろうけど匿ってよ〜。
「あのマスターを恨むなよ一応は匿おうとはしてたのだからな、だが昨晩の貴様の目撃情報と酒場の売上記録からして9割絞られていたからな、匿うのは無理な話ということだ」
それは無理な話だね…それでも匿おうとしてくれたんだね…マスターごめん、そしてありがとう…
「さて、今ここで認めたことにより王族に対する侮辱罪により貴様を罪人として連行する!」
「ぶ、侮辱罪!?なんで!!?」
「当たり前だろ!この様なストーカーまがいな物を書きおって、王族じゃなくても連行案件だ!」
何本もの剣に突き刺されたような…本当に刺されてる訳では無いのに膝を付くような痛みに襲われる。ストーカー…そっか…確かにそうだよね…あんなに忙しそうなのに学生時代のことなんて忘れちゃったよね…馬鹿だな私…ずーっと引きずってて…向こうからしたら、ただのストーカだよね。
胸の奥が潰されるような重たい感覚、情けなさと悲しさと恥ずかしさが入り混じった涙に声が出せなくなる…でも最後の意地なのかそれを相手には悟れないように…声が震えないように少し深く息を吸い。
「わかりました、せめて着替える時間を頂けないでしょうか?」
…と静かにでもはっきりと答える。彼女は少し目を細めこちらをじっと見つめ、ふぅ…と息を吐いた。
「いいだろう5分で支度しろ、ただし私はここに居るからな逃げようとは考えない事だ」
「ありがとうございます」
お礼を言い私はクローゼットの服を引っ張りだす、この後牢獄に入れられるだけなのに何を悩んでるのだろうと思いながらふと懐かしい服が出てくる。この後彼女とは会うことなど無いのに…でもストーカーとして捕まるならストーカーらしく彼女との思い出が詰まったこの服で捕まろう…そう決め服を着る。思い出がこみ上げできて、また涙か出そうになるけどハンカチを目に当て抑え込む。
「お待たせしました、準備できました」
「ではこれより王族に対する侮辱罪で連行する、両手を出せ手錠をかける」
「はい…」
ズシリと両手に金属の重みが掛かる…罪人になってしまったことを自覚させられる。そのまま私は家の前に停まってあった馬車に乗せられ牢獄に連れて行かれた。牢獄に着いた後、裁判の日時や友人や家族に連絡してほしいかと聞かれたけど両方ともいない私には関係無く…硬いベットの上に寝転び疲れからかそのまま寝てしまった。
後半は近くにだします。