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気付けば誰かがそばにいた  作者: うみぶど子
3/7

第二話

「皆さん、本日もお疲れさまでした。それではまた明日、お会いしましょう」


 先生の号令を皮切りに、全員が様々な動きを見せる。

 真っ先に寮へと戻る者、友人や肉親へ話しかける者、部活へと急ぐ者、何故か机に突っ伏して寝る者など。

 そんな彼らを横目で見ながら、俺も早々に教室から出た。



 「学園」内を歩き回れば、様々な人に出会える。ちょうど商店街へ向かう途中に、空から一人の男性が舞い降りてきた。


「おお、レオンくん! 元気かい? うちの息子が、また君にちょっかいを出したりとかは……」


 黒い蝙蝠のような翼をはためかせたこの人は、ここ「ソーレ学園」を警護している軍人の一人、ヤコフ・エンドリムさんだ。名前から分かるようにドラキリーの父であり、「吸血鬼(ヴァンパイヤ)」という立派な魔族でもある。


「大丈夫です。彼は今日も元気でしたよ」

「それならよかった。いや、中々ドラキリーに会うことができなくてね。……ヴァネッサにも会えていないんだ」

「それは、それは……」

「ああ、辛いよ。寂しいよヴァネッサ、ドラキリー……会って抱きしめさせてくれ……」


 ……と、このように愛妻家でも親馬鹿でもあるような方だ。

 ちなみに、ドラキリーの母、ヴァネッサ・エンドリムさんは学園にある図書館で司書として働いている。この方は人間で、つまりドラキリーは人間と吸血鬼のハーフであるのだ。そのため彼が笑うと吸血鬼が持つ特徴的な鋭い犬歯が見える。翼は出現させたい時にだけ魔力を込めて出現させることができるという、便利な体質だ。逆にヤコフさんは常にその背中に翼があり、消したい時に魔力を込めるという。


「ああ、そうだレオン君。誰かを探しているようだったけど……」


 ふと、ヤコフさんがそう訊ねてきた。俺はその問いかけに思わず舌を巻く。あんな上空から飛んできた彼は、俺が何をしていたのか分かっていたというのか。いや違う。そもそも俺を見つけた時点で、この人は凄いのだ。

 彼の目の良さが、少しだけ羨ましくなった。


「はい、『学園長』を探しています。見かけていませんか」


 間を空けることもなく、ヤコフさんはすぐに首を振った。


「見ていないよ。多分、室内にいるんじゃないかな」

「……てっきり、いつものように商店街にいるものだと」

「今日は珍しくいないみたいだね」


 上空から俺を見つけた彼がそういうのだ。本当に商店街にはいないのだろう。

 そう思い引き返すことにした俺はヤコフさんと別れ、今度は「学園長」の住む家へ向かって歩み出した。



 ――しかし、本当に他では見ることのできない光景だな、と改めて思う。魔族と人間が一緒に住み、ハーフまでもが存在している。

それはこの「学園」が特別な造りになっていて、更に特別な場所に建てられていることが関係しているわけだ。


 ここ、「ソーレ学園」は、学園という名がついているため混乱するかもしれないが、決して学校というわけではない。確かに学校も存在するが、町があり、商店街があり、軍すら存在する。それは一つの「国」であると言ってもいいが、ここの学園長はあえて「学園」という名にしたのだという。

 何故、学園なのか。――それはここの成り立ちが関係している。



 始まりは約八十年前。どういった経緯なのかは定かではないが、一人の人間と魔族が出会い、恋に落ち、そして子供が誕生した。

 人間と魔族の間に生まれた子は、大抵が魔族の血を色濃く受け継ぐ。その子供も、人間よりも魔族としての特徴がより現れていた。


 ――しかし、「色濃く受け継ぐ」だけであって、完全ではないのだ。そのため、魔族からは嫌われ、もちろん人間たちにも受け入れられなかった。


 最初のうちは、魔族である母親が庇ってくれていた。しかしその母が死ぬと、彼女の居場所は本当に無くなってしまったのだ。人間であった父親はとうの昔に亡くなっていた。

「彼女」は困り果て、世界をさまよい続けた。魔族たちの村を訪ね、受け入れてもらえるところはないかと、必死に探し続けたのだ。歩いて、歩いて、ひたすら歩いて――


 ――そんな時、一人の「魔族」に出会った。


 その魔族は彼女を優しく受け入れ、いつしか二人は切っても切れない関係になっていた。

 そうして日々を過ごしている時、彼女は同じ境遇の者たちがいる事を耳にする。彼らも人間と魔族、どちらの種族にも受け入れられずに彷徨い続けているのだと。


 そうして彼女は決意した。「自分と同じ境遇の人たちの力になる」と。

 それを友人に伝えたところ、その友人も賛成し、自分も力になりたいと申し出た。だが、彼女は断った。その友人は、魔族の村の長でもあったからだった。

 友人は粘り強く頼み続けたが、彼女は首を縦に振ろうとはしない。しかし、何もしないまま彼女を送り出すのは信条に反すると言い、友人は彼女へ「祝福」を授けた。


 そうして彼女は魔族と人間の国に囲まれた「迷いの森」に「学園」を置き、友人からの「祝福」によって、真に助けを求める者だけが学園を見る事ができるという不思議な結界を張った。

 そうして、ソーレ学園が誕生したわけである。



 ――『真に助けを求める者だけが学園を見る事ができる』。

 そこに、彼女が込めた思いが隠されていた。


 真に助けを求める、ということは即ち「何らかの事情で元いた場所にいられなくなった」ということ。それはただ単に魔族と人間のハーフであるから、という者だけでなく、例えば住んでいた国が滅ぼされた、国を追い出されてしまった、など。そういった者たちはこの世界のどこにも居場所はなく、ただあてもなく彷徨い続けるしかないのだ。

 そもそもこんな「迷いの森」と呼ばれているような、人間側からも魔族側からも遠い場所に来ている時点で「ワケあり」なのだ。もちろん俺だって、様々な事情を背負ってここまでやってきた。

 

 そんな「ワケあり」達を支え、だがこの学園に閉じ込めるのではなく、できれば広い世界を見てほしい――。

 そういった思いを込めてこの「ソーレ学園」と名付けたのだと、彼女――今から会いに行く「学園長」は言っていた。だから教育機関も設備され、他の町と何ら変わりのない景色が広がっているのかと驚いた覚えがある。



 改めて学園長は凄い人なのだと感心しながら、俺は、いつの間にか辿り着いていた彼女の家を見上げた。

 白を基準にしたその家は、学園長――ここの長が住んでいるのだと言われても信じる者は少ないだろう。俺も最初はそうだった。どうやら彼女が派手なものは好きではないらしい。


 一つ、大きく深呼吸をする。もしかしたらここにもいないかもしれないが、ヤコフさんが外では見かけていないというからにはここが一番会える確率が高いのだ。

 どうか、居てほしい。そんな思いを込めて、ドアを三回ノックすると、暫くしないうちにドアがゆっくりと開かれた――。


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