バスタイム オブ ザ ○○○
クインドナには尻尾がある。獣人族のようなふっさりモフモフではなく、鱗の無い蛇よろしくつるんとした黒い尻尾だ。先端はハート型だった。自由自在に動かせると、セクシー大使は自慢げだ。
彼女には長い髪に隠れた小さな角まであった。天使族はもちろん、エルフでもドワーフでもない。
ましてやオークなわけがない。
前々世の俺には牙こそあれど、角も尻尾も無かったからな。
「うふふ、そんなにこの尻尾が珍しいのね。勉強熱心さんみたい。お風呂から出たら本を読んであげましょうね」
少し広めの浴室で、彼女は丸いお尻を俺に突き出してみせた。その白桃のようなお尻で∞の軌道を描きながら、合わせてゆらりゆーらり尻尾を指揮棒のように振る。
器用だな。というか……恥ずかしい。直視できない。
「背中を向けてくれるかしら」
「は、はい……」
「よくできました。とってもいい子ね。その真ん中がくぼんでいるのは、ちょっと変わっているけどお椅子なの。座ってちょうだい」
金色の椅子は尻の割れ目にそうようにして、真ん中が凹んでいた。
全裸に引ん剝かれた俺は、彼女に背中を流してもらうことになったのだ。
バスタブには湯がたっぷりと張られ、色とりどりの花びらが浮かんでいる。
浴室に香気を含んだ湯気がモヤモヤと満ちた。
「さっきは驚かせてしまってごめんなさいね。みんな悪気はなくてとってもいい子たちなのだけど、あなたにすっかり興奮しちゃったみたい。大丈夫だったかしら」
「う、うん。怪我とかしてないしへっちゃらです」
錬金合成で作られた特別に泡立つ石鹸で、俺の身体を泡まみれにすると、ドナは背後から指が脇腹やアバラのあたりを優しくなであげる。
さっきもみくちゃにされた時にはくすぐったかったり苦しくて仕方なかったが、今は触られているだけで……ただただ気持ちが良い。
翼の付け根にドナの手が滑り込む。スリスリと優しく揉みし抱かれるように洗われた。
お尻にも手が伸びる。包み込むような彼女の手の感触は、こそばゆくなるギリギリのラインをまたいだり戻ったりを繰り返した。
お尻の辺りがゾクリとして、身体がビクンッ! となると、ドナの指先が優しく俺の臀部をなで回す。
とろけてしまいそうだ。温かくて良い匂いに満たされて、まどろむような心地よさに意識が溶けていく。
「はい。背中とお尻と脇の下はおしまい。このまま前も洗ってあげようかしら?」
「じ、自分でできますから!」
「偉いわ。けど、もっと甘えてもいいのよ。親子水入らずですもの」
いやいやいやいや他人だから!
と、思ったところで、俺の頭の上に巨大な水蜜桃がずっしりと乗っかった。
ぷるんと弾力のある南半球の谷間が、俺の頭部をすっぽりと覆った。
なんて幸せな重圧感なのだろう。
「あの、僕を養子にするって……本気なんですか?」
「もちろんよ」
「どうして見ず知らずの僕なんかを?」
ドナはそっと俺の身体を背後から抱き寄せた。
完全密着状態だ。石鹸の匂いとも違う、麝香のような香がした。
「どうしてかしらね。たぶん……あなたが本当に心から悲しんでいたからじゃないかしら」
セクシー大使ことキューと遭遇した時に、俺は泣いた。
その時ばかりは、キュー――ドナは黙って俺を抱きしめてくれたんだ。
彼女の抱擁には心の傷を癒やす慈愛を感じた。
「だから放っておけなくなってしまったの」
常闇街の顔役は面倒見が良い。彼女の元で働く女の子たちはみんな活き活きとしていた。誰一人やらされているという感じがしないのも、ドナを慕っていればこそだ。
そんなドナを周囲の誰もが大切に思い、守ろうとするだろう。
生半可な錬金ギルドの密偵がたどり着けないのも、なんとなく合点がいった。
前世だった俺も手紙のやりとりだけだが、ドナの気遣いや優しさを文面と依頼内容から感じていたところだ。
養子にするというのはきっと本心に違いない。
「それとも、あたしがお母さんなのは困る?」
「そ、そんなことないよ。ドナさんはとっても親切で優しいから……」
「本当に嫌だというのなら無理はしないでね。あなたのしたいようにしていいの」
俺は彼女に母親を感じた。
何者でも無かった俺にもわかる。包み込むような無償の優しさだ。
それを注いでもらえるのも、今の俺が愛らしい少年の姿をしているからだろう。
俺はドナを騙している。彼女の優しさに触れるほど、自分のダメな部分が一層黒く思えてならない。
再生――未来さえも無かったことにできるこの力があったからこそ、俺は今までの失敗を帳消しにできた。
ガーネットとの日々も、シルフィとの生活も、無かったことにした部分はどこにいってしまったんだ。
また俺は同じことを繰り返すのか。
浴室の隅で青い猫が濡れない場所を確保しながら、くるんと丸くなっていた。
いかんいかん。俺がどう考えようと、この力を使って進むしか道は無いんだ。
三年先で世界の未来は途切れちまうんだから。
世界崩壊の引き金となる震源地はおそらく、この地下迷宮世界だ。
だから“なぜそうなったのか?”知る必要がある。
教会の秘密を暴き出す。再生は、きっとそのために与えられた力なんだ。
そのためとはいえ、まいったなぁこりゃ。ニコラスティラ司祭に取り入るには、ドナの情報を売らなきゃならんわけだ。
ドナの弱点はきっと、彼女自身の優しさだろう。教会がどういった方法を採るかまではわからないが、リチマーンとつるんでいる以上は、錬金ギルドとの繋がりも強い。
薬や白魔法の供給を止めるなんて強行策もあり得るな。
常闇街で奇妙な病気が発生しているのは間違い無い。
俺は決意した。
「あ、あの……ドナさん」
彼女は俺が黙って考えを巡らせている間も、ずっと、じっと待っていてくれた。
「なあに」
優しい声色だ。これが演技だとすれば、彼女の方が役者として何枚も上だな。
とてもじゃないが、俺はドナを疑えない。
「お、お母さんって呼ぶのは……恥ずかしいけど……」
「じゃあママって呼んでね」
もっと恥ずかしい提案だが、ドナはゆっくりと俺の前に回り込んでしゃがむと、嬉しそうに微笑んだ。
い、いかん。
こんなに幸せそうな顔をされたら、つい、もっともっと彼女が喜んでもらいたいと思っちまうじゃないか。
「ま、ママ……」
「嬉しい。あなたのママになれるように、がんばるわね」
今度は正面から、俺の首の腕を巻き付けるようにしてそっと抱きしめる。
このまま意識まで子供に還ってしまいそうだ。
俺に子供時代があったのかなんて、自分でもわからないのに。
「さあ。湯船でゆっくり温まりましょう。ちゃんと100を数えるまで入っていられたら、ご褒美の花まるをあげるから、がんばってね」
俺はドナに後ろから包まれるようにして、温かい湯のに肩までつかると彼女と一緒に100まで数字を数えた。
歌うようにリズミカルにカウントする。
100を数え終えるとドナは「よくできました」と、俺の頬に軽く触れるように優しくキスをしてくれた。
名前:ゼロ
種族:中級天使
レベル:36
力:G(0)
知性:D+(64)
信仰心:D(53)
敏捷性:G(0)
魅力:G(0)
運:G(0)
装備:冒険者風の服
中級天使のローブ 儀礼用
銀の十字架 教会の修道士の証
白魔法:中級回復魔法 中程度の傷を癒やし、体力を回復する
中級治癒魔法 猛毒などの強力な状態異常を治療する
操眠魔法 対象を眠らせる&眠っている対象を目覚めさせる
精神浄化魔法 混乱状態やパニックになった精神を鎮める
火力支援 腕力を強化して武器による攻撃力を上げる
肉体硬化 肉体を硬化させ防御力を上げる
氷炎防壁 炎と氷から身を守る
お姉ちゃん:シスターヘレン
ママ:クインドナ
――隠しステータス――
特殊能力:魂の記憶 力を引き継ぎ積み重ねる選ばれし者の能力。
種族特典:雄々しきオークの超回復力 休憩中の回復力がアップし、通常の毒と麻痺を無効化。猛毒など治療が必要な状態異常も自然回復するようになる。ただし、そのたくましさが災いして、一部の種族の異性から激しく嫌悪される。
:エルフの目 魔法によって隠されたものを見つけ出す探求の眼差し。
学習成果:黒魔法の最適化 学習進度によって魔法力の効率的な運用が可能となる。
黒魔法:初級炎撃魔法 初級氷撃魔法 初級雷撃魔法
中級炎撃魔法 中級氷撃魔法 中級雷撃魔法
上級炎撃魔法 上級氷撃魔法 上級雷撃魔法
脱力魔法 対象の力を下げ攻撃と物理防御を弱める
鈍重魔法 対象の敏捷性を下げ速度や命中率を落とす
魔法障壁 敵意ある魔法による攻撃を防ぐ盾
呪封魔法 魔法を打ち消し封じる魔法殺しの術
????:左右両手で別の魔法を繰り出す能力
※警告 レベルドレイン発生 戦闘力の低下に注意




