命令:オーダー
「おんやぁ。本当に子供じゃござんせんこと」
浄財とはほど遠い、十指に金銀の指輪をはめたエルフは、司祭に「どうぞ」と言われるまでもなく部屋に入ってきた。
「本日も寄付をありがとうございます。錬金ギルド長」
「バカで低レベルな錬金術士どもから搾り取ったお金が、ちゃーんと世のために使われるのはとても嬉しいことにございましょ」
そうだ。俺と出会っていないから、シルフィはその才能を活かせずにいる。
こんなヤツの食い物にされてるんだ。
けど……もしシルフィに接触して、彼女が前回のような活躍をしてしまえば、教会に狙われる。
ここはグッとこらえるしかない。
リチマーンはテーブルの上に腰掛けて、身体をひねるようにしながら司教に詰め寄る。
「んで、このガキんちょならイケそうってわけねぇ。あーた司祭っていうけど、中身は真っ黒なんじゃないの?」
「そうかもしれませんね。罪深いことです。だから彼に無理強いをするつもりはありません」
「知ってんだからねぇ。選択肢を残して相手に選ばせる。で、何かあれば選んだのはあーた自身でしょ? ってな寸法よ」
挑発的なリチマーンにも司祭は眉一つ動かさず冷静なものだ。逆に感心するな。
「もし彼が受けてくれなければ貴方も困るのではありませんか?」
「まあ、そうっちゃそうなのよねぇ。うちのギルドの連中を送りこんでるけど情報さっぱり集まらないどころか、帰ってこないし」
情報収集? 帰ってこない? 錬金ギルドのエルフってことは、黒魔法にも精通してるはずだ。そんな連中が戻らないところに子供を送り込むのか?
司祭はそっと首を左右に振る。
「あまりブラザーゼロを怖がらせないでください」
ブラザーとは司祭の階位――つまり上級天使ではない男の修道士全般につけられる呼び方だ。
リチマーンは机の天板からひょいっと降りると、俺をじっと見下した。
「まあここまでガキんちょなら大丈夫でしょうけど、ちゃんと仕事を理解して情報を持ち帰るだけの頭はありますのかしら?」
司祭は小さく頷いた。
「未知数な部分もありますが、ブラザーゼロは清掃も雑用も責任を持って励む真面目な少年です。それに聡明ですから、私は彼を信じています」
さっきから俺に何をさせるのか、説明が無いまま話が進んでるぞ。
「司祭様。僕はどこで何をすればいいんですか?」
「これは失礼しましたね。何をするか知らなければ、受けるかどうかも決められませんし」
もったいぶりやがるな。大丈夫だっての。俺には天使族が本来持っていない、二つの力がある。単身で階層の主級と戦うには修行不足だけど、総合力なら錬金ギルドの精鋭エルフにだって負けないぜ。
司祭は椅子から腰を上げて立ち上がった。
「ブラザーゼロには、ある人物について情報を集めてもらいたいんですよ」
意外だ。送り込まれる黒魔導士を次々葬るんだから、よっぽど危険なヤツなのか?
リチマーンは呆れたように溜息をつきながら「ガキんちょじゃ無理無理」と、諦めたような顔だ。
「誰を調べるんですか司教様?」
「この街はいくつかの区画に別れているのですが、一カ所だけ教会の力も及ばない治外法権の地区があるんです」
教会の影響力が無い? それって……まさか。
「ガキんちょにゃー早すぎるけど、教えてあげましょーね。欲望渦巻く常闇街ってとこなのよ」
司教に代わってリチマーンが明言した。
「大変危険な場所です。本来なら少年の貴方をそこに向かわせること自体、罪深いのですが……」
「大人ってバカだから可愛い女の子にチヤホヤっとされたら、メロメロになっちゃってねぇ。情報収集ところか、逆にこっちが探り入れてるのバレたっぽいわけ。その点、ガキんちょみたいなのなら、魅了されないってわけよ。精通まだでしょ~? 言葉の意味さえわかってないって顔ねぇ」
わかってるよ。ピュアボーイフェイスはわざとだっての。
この身体じゃまだだが、ナニをどうされると気持ち良くなるかくらい、知ってるんだからな!
って、ムキになってどうする。今はキョトン顔で、わからないフリだぞ俺。
司祭は俺の顔をじっと見つめて「どうやらブラザーゼロにお願いするよりほか、無さそうですね」と、頷いた。
俺は確認する。
「ええと、常闇街ってところに行って、誰か探せばいいんですか?」
「はい。常闇街を牛耳る魔女がいるそうです。彼女についてはその外見すらも、一切謎なんですが影響力は多大ですから、教会としては把握しておきたいのですよ」
「その魔女さんの名前はわかるんですか司祭様?」
「クインドナ……そう、呼ばれているそうです」
前世で俺とシルフィに仕事を与えてくれた恩義のある相手だ。
その依頼内容の的確さには愛情すら感じた。エルフの黒魔導士が狩りやい相手でなければ、無理に仕事を押しつけてもこない。
司祭は危険視しているみたいだが、果たして本当に魔女なのだろうか。
「わかりました。僕が教会から来たってことは秘密にして探せばいいんですね」
「大人が掛かってしまう罠も、貴方ならすり抜けられるかもしれません」
司祭は「心苦しい」だの「罪深い」だのとは言わなくなっていた。
本当に頼れるのが俺くらいしかいないみたいだ。
これで一つわかったことがある。
教会は錬金ギルドと繋がっていること。
街の様々なところにスパイを潜り込ませて情報を収集していること。
「がんばります! 教会のために!」
俺はこの命令を自主的に受けることにした。
司祭の信頼度を上げるのはもちろんだが、前世ではずっと岩窟亭を介した手紙でしかやりとりをしなかったクインドナに、会ってみたかったからだ。
名前:ゼロ
種族:中級天使
レベル:39
力:G(0)
知性:D(64)
信仰心:D+(65)
敏捷性:G(0)
魅力:G(0)
運:G(0)
装備:中級天使のローブ 儀礼用
銀の十字架 教会の修道士の証
白魔法:中級回復魔法 中程度の傷を癒やし、体力を回復する
中級治癒魔法 猛毒などの強力な状態異常を治療する
操眠魔法 対象を眠らせる&眠っている対象を目覚めさせる
精神浄化魔法 混乱状態やパニックになった精神を鎮める
火力支援 腕力を強化して武器による攻撃力を上げる
肉体硬化 肉体を硬化させ防御力を上げる
氷炎防壁 炎と氷から身を守る
――隠しステータス――
特殊能力:魂の記憶 力を引き継ぎ積み重ねる選ばれし者の能力。
種族特典:雄々しきオークの超回復力 休憩中の回復力がアップし、通常の毒と麻痺を無効化。猛毒など治療が必要な状態異常も自然回復するようになる。ただし、そのたくましさが災いして、一部の種族の異性から激しく嫌悪される。
:エルフの目 魔法によって隠されたものを見つけ出す探求の眼差し。
学習成果:黒魔法の最適化 学習進度によって魔法力の効率的な運用が可能となる。
黒魔法:初級炎撃魔法 初級氷撃魔法 初級雷撃魔法
中級炎撃魔法 中級氷撃魔法 中級雷撃魔法
上級炎撃魔法 上級氷撃魔法 上級雷撃魔法
脱力魔法 対象の力を下げ攻撃と物理防御を弱める
鈍重魔法 対象の敏捷性を下げ速度や命中率を落とす
魔法障壁 敵意ある魔法による攻撃を防ぐ盾
呪封魔法 魔法を打ち消し封じる魔法殺しの術
????:左右両手で別の魔法を繰り出す能力