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寒い夜のお供に(新商品)

 ※




 大深雪山の頂点を目指す挑戦者の魂が、寒い夜を世界から消し去った。


 かすかな魔法力から発熱し、体温を一定に保つ新素材――シルフテック。


 若き天才錬金術士シルフィーネ・カライテンが開発したこの布は、極寒の大深雪山を攻略するために生まれたのだ。


 その製法は秘中とされており、他の錬金術士には真似の出来ない彼女だけのものである。


 ここで、その使用者の声を聞いてみよう。




常闇街在住――QDさん


 まるでシルクみたいな肌触りで、とっても着心地がいいわ。


 それに身体をぴったりと包んでくれて、まるで誰かにぎゅううっとハグされているみたい。それだけで幸せな気持ちになるの。色も六色あるから、気分で選べるわね。


 サイズはちょっと小さく見えるけど、伸びる素材で胸の大きな女の子も大丈夫よ。


 うちのたちもすっかり気に入って、追加注文してるわ。


 二十階層の季候は安定してるけど、誰だって独り寝の寂しさはあると思うから、もしこの肌着を着ても寒いと思ったら、常闇街に遊びに来てね。たっぷりサービスするから。




鍛冶職人街在住――GNさん


 本当に暖かいんだよ。布地はめっちゃ薄くてさ。寒いと何枚も重ね着しなきゃなんないだろ? それがこの一枚でいいんだから楽ちんさね。


 で、まあ防御力は無いんだけど、こいつを鎧下に着込めば寒い地域じゃ敵無しだろうね。もし故郷が北国なら、土産にまとめ買いがマジでオススメだよ。


 にしても伸び縮みして着る人にサイズを合わせるなんて、ある意味、裁縫職人泣かせだよねぇ。




住所不定無職――ZRさん


 これを着ていれば夜中に家を追い出されても一晩くらいへっちゃらだぞ。三日三晩続くと心が折れるが、身体の方はばっちり保温されるんで安心だ。


 


 ※




 元々は大深雪山攻略のために、身体の動きを阻害しない防寒具を開発しようというのがきっかけだった。


 エルフは重い荷物はもちろんのこと、金属鎧なども装備できて軽鎧が限度だ。


 先日大量に採掘した炎鉱石を火炎鋼アグニウムに精製したまでは良かったが、こいつで鎧を作っても、重くなりすぎて俺もシルフィも装備できない。


 そこで――一計を案じたのである。


 思いつきで火炎鋼を繊維にできないかとシルフィに相談したのだ。


「触媒があればできなくも無いッスけど……あっ……もしかしてアレなら行けるかも」


 ゼロエレメンタルから入手した魔法吸収触媒。


 これを使って火炎鋼が持つ“身体から自然と放出される微量な魔法力を吸収し熱に変える”という特性を抽出することに、シルフィは成功した。


 そして、その特性を着心地が良く伸縮性のあるヒメカイコの錦糸に付与して裁縫ギルドで織り上げた布――シルフテックが誕生した。


 シルフィの名前をつけたのにも理由がある。


 これは彼女の功績なのだ。評判が広まれば錬金ギルドも無視できなくなるだろう。


 シルフィ自身は大いに恥ずかしがり「ゼロさんのアイディアじゃないッスか! ぼくは別に……」と気乗りしないようだったが、彼女の技術あってこそ実現したのだ。


「俺はわがままな要望を出しただけで、実際に完成させたのはシルフィなんだ。自信を持てって」


「はううううっ……は、はいッス」


 そんなやりとりもあって、売り出したシルフテックを常闇街の重鎮に送ることにした。


 なにせクインドナの外見がわからないのだが、シルフテックは伸縮性があるのでなんとかなるだろうとふんだのである。


 結果――彼女は気に入ってくれたようで、口コミは常闇街の住人から利用者へと広がっていった。


 巨体のオーク向けと、小柄な獣人族向けや、背中の開いている天使族向けなどクインドナから要望が出たため、裁縫ギルドに協力を求めてラインナップを増やす。


 オーダーが増えて素材がなくなり、大深雪山に行く前に、もう一度、火炎鉱山と遺跡平原で素材集めをするほどだった。




 万年雪に閉ざされた大深雪山の麓で、ガーネットが頂上を見上げる。


「いやぁ。本当にぜんっぜん寒くないねぇ。シルフィやるじゃないさ」


 彼女も俺もシルフィもインナーにシルフテックを装備していた。


 雪山用にカスタマイズした特に保温性と発熱効果の高いものだ。


 ガーネットの装備は加えて火炎鋼製の軽鎧に戦鎚と盾である。シルフィが錬金加工を施したことで、外注の加工品よりも性能は高い。


 たぶん……オークの俺の雪山用フル装備以上の防御力だ。なぜかちょっとだけ悔しいぞ。


 さらにドワーフの女鍛冶職人は、攻略を前に教会で寄付をした。回復魔法も中級レベルに強化され、炎熱から身を守る遮炎防壁アンチファイア氷炎防壁サマルシドになった。


 腕力を上げる火力支援パワゲインはそのままに、物理的なダメージを軽減する肉体硬化ストスキンも新たに習得してくれた。


 打たれ弱いエルフにはありがたすぎる強化だ。


 シルフィはローブを毛皮のコートに着替え、長い耳を守る耳当てのついた帽子コサックをかぶっていた。


「この帽子だと耳の先まであったかくて、助かるッスねぇゼロさん」


 耳先のかじかみに悩まされることはないと、シルフィは上機嫌だ。


 俺も帽子はおそろいだが、外套に軽銀鋼アルミナの胸当てと肘や膝を守るプロテクターをつけている。すべて火炎鋼を仕込んで、動きにくくなるギリギリの重量で、防寒と防御を両立させた。


 シルフテックの売り上げもあって、装備は万全だ。


 俺も山頂を見上げて呟く。


「今の俺たちなら行けるかもな……」


「当然ッスよ! 山頂まで行くッス」


 鼻息荒いシルフィにそっと首を左右に降る。


「もちろん山頂で氷塊石を見つけて氷結晶フラクリスタルにするのもあるんだが……」


 言いかけたその時




 グルオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッッッ!!




 雪山の頂上から大気を揺るがせる獣の声が鳴り響いた。


 階層の主――氷神ヴァナルガンド。


 純白の獣の咆吼は雪崩を引き起こし、山が崩れたかと錯覚するほどの雪の波が、遠く斜面を滑り落ちていった。


 ガーネットが目を丸くする。


「アンタまさか、アイツとやり合おうっていうんじゃないだろうね?」


 俺は背中にマウントした杖を手にとった。


「こいつの最初の獲物にはぴったりだろ」


 カートリッジには炸薬が六発。予備カートリッジと合わせて十八発まで発射可能だ。


 杭打式杖パイルバンカースタッフ――未だにその最大火力を使っていないが、氷神ヴァナルガンドの強さが炎竜王と同格ならば、装備の整った今、俺たち三人が勝てない相手とは思えなかった。


名前:ゼロ

種族:エルダーエルフ

レベル:88

力:D(49)

知性:A(99)

信仰心:G(0)

敏捷性:A(99)

魅力:C(73)

運:G(0)


装備:杭打式杖パイルバンカースタッフ レア度S 魔法力95 攻撃力177 装填数6 予備カートリッジ2

   魔導式手甲ガントレット レア度A 魔法力112 防御力45

寒冷地用装備一式


黒魔法:初級炎撃魔法ファイアボルト 初級氷撃魔法アイスボルト 初級雷撃魔法サンダーボルト

   中級炎撃魔法ファイアストーム 中級氷撃魔法アイスストーム 中級雷撃魔法サンダーストーム

   上級炎撃魔法ファイアノヴァ 上級氷撃魔法アイスクリスタ 上級雷撃魔法サンダーフレア


   脱力魔法ディスパワン 対象の力を下げ攻撃と物理防御を弱める

   鈍重魔法ディスアグレ 対象の敏捷性を下げ速度や命中率を落とす

   魔法障壁マジルシド 敵意ある魔法による攻撃を防ぐ盾

   呪封魔法ディスペルド 魔法を打ち消し封じる魔法殺しの術



種族固有能力:エルフの目 魔法によって隠されたものを見つけ出す探求の眼差し


学習成果:黒魔法の最適化 学習進度によって魔法力の効率的な運用が可能となる


恋人:シルフィ

仲間:ガーネット


――隠しステータス――


特殊能力:魂の記憶 力を引き継ぎ積み重ねる選ばれし者の能力


種族特典:雄々しきオークの超回復力 休憩中の回復力がアップし、通常の毒と麻痺を無効化。猛毒など治療が必要な状態異常も自然回復するようになる。ただし、そのたくましさが災いして、一部の種族の異性から激しく嫌悪される。


????: 左右両手で別の魔法を繰り出す能力

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