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あわやの3P(パーティー)

 販路の確保は一旦棚に上げて、需要のある素材を“狩り”集めた。


 俺とシルフィだけではいけないような場所へも、前衛にガーネットがいてくれるおかげでなんとかなる。


 俺自身は高い敏捷性のおかげで、並みの魔物の攻撃なら避けることができた。


 まあ、ほとんどの場合、接近される前にシルフィとの共鳴魔法で片付くので、ひやりとするような場面には、ほとんど遭遇していない。


 三人で組むようになったことを岩窟亭経由でクインドナに報告すると、彼女から少し難易度を上げた依頼もくるようになった。


 そちらも難易度の割には報酬は高く、火山向け装備の軍資金にぴったりだ。


 ガーネットは口で不満をもらしつつも、俺の話を信じてくれているみたいだ。


 彼女の夢は神鉱石――神代鋼オリハルコン装備である。


 一億の返済でおつりがくる価値があることは、前世オークで知っていた。


 軍資金で難燃性のアラミダ布製ローブを用意し、火炎鉱山に必要な装備を集める。


 採掘の手伝いは出来ないが、ガーネット独りでは難儀する鉱山の魔物を倒して彼女が炎鉱石を掘り出すのをサポートした。


 ちなみに、前世の頃でも充分に戦うことはできた火炎鉱山の蜘蛛やら蟻やらだが、氷撃魔法が効きまくるため楽勝だ。俺自身は超回復力効果もあって、炎熱地獄の鉱山でも耐えることができたが、シルフィはそうも行かず疲労が蓄積してしまうという弱点も露呈した。


 炎鉱石をたんまり集めたところで、鉱山の出口でシルフィがドッと溜息をつく。


「ほんと二人ともタフすぎるッスよ。ドワーフの姐御は暑さに強いのもわかるんスけど、ゼロさんエルフじゃないみたいッス」


 腕組みをして自慢の胸を下から前腕で押し上げるようにしながら、ガーネットは愉快そうに笑った。


「あっはっは! さすが神代鋼オリハルコンの事を知ってるだけあるねぇ。普通のエルフなら絶対にこんなとここないのに……アンタ、まるで中の構造や出てくる魔物を知ってたみたいじゃないさ?」


 金色の瞳がじっと射貫くように俺を見据えた。


「え、ええと……まあ、経験に基づく推測ってやつだ」


 ガーネットは「ふーん」と、相づちを打つ。シルフィの疲労も考えて、少しでも効率を上げようとしたのが、かえって疑いをもたれてしまったか。


 気をつけているつもりでも、つい、知っているとやっちまいがちだ。


 ナビは足下で全身をブルブルッとふるって、火山内部の熱気を放出するようにしていた。


「どうしたんだいゼロ? ボクの事は気にしなくても大丈夫だよ」


 異常なし――と、ホッとしたところでシルフィが両腕を万歳させた。


「そうッス! 実は良いところを知ってるんスよ! 麓の先の川沿いに、温泉があるんス」


 シルフィが言うとガーネットは目を細める。


「おや、あの温泉を見つけるなんて……けっこう人目にゃつかない場所なのに」


 不思議そうに首を傾げたガーネットにシルフィは「ゼロさんに教えてもらったんスよ」と自慢げに告げた。


「へぇぇ……よく見つけたねぇ」


「川辺で涼もうと歩いていたら、偶然見つけたんだ」


 ガーネットは口元をニヤリと緩ませる。


「実はあそこは、アタイが作ったのさ。そうだ、今からひとっ風呂といこうじゃないさ」


 炎のような赤い髪を揺らして、先導するようにガーネットは山道を下りだした。


「淡水マーマンは怖いッスけど、今度もゼロさんが守ってくれるッスよね?」


 シルフィもすっかり露天風呂気分だな。疲れを癒やすにはぴったりだ。


「ああ。護衛してやるよ」


「もちろんゼロさんも一緒に入るッスよ」


「いやそれは……」


「姐御なら大丈夫ッス! きっと!」


 憶測でモノをいいなさんなシルフィさんや。


 とはいえ、彼女の言っていることは的を射ている。ガーネットはいろいろな意味でオープンな性格だ。


「二人とも早く来なって~~!」


 十メートルほど先で立ち止まってガーネットは俺たちを手招きした。




 白と薄い褐色の肌が眩しい。


 乳白色の湯に並んで浸かる二人から、離れたところで俺も温泉に肩まで入った。


「うわあぁ……姐御のおっぱいお湯の中で浮いてるッスよ」


「すごいだろぉ。触ってもいいぞ。あ! ゼロはダメだかんね」


 シルフィがツンツンとするたびに、大きな胸がふよんぽいんと湯の中で波打った。


 うらやましい……って、何を考えてるんだ俺は。


「ううう、ゼロさんもやっぱり胸はおっきい方がいいッスか?」


 悔しそうな顔で質問しないでくれ。慎ましやかな胸元を寄せてあげてなんとか谷間を作ろうとするシルフィに、俺は「シルフィだって可愛いぞ」と返す。


「えへへぇ……褒められたッス」


 褒め言葉として伝わったなら幸いだ。ガーネットは赤くなったシルフィを肘で小突いて言う。


「見せつけてくれるねぇ。バカップルってやつだな!」


「そ、そんなつもりないッスよ!」


「ちょっとうらやましいよ。シルフィもゼロも仲間だと思ってるけど、恋人っていたことないからさ」


 一瞬だけ寂しげな表情を浮かべると、ガーネットはすぐに「あっはっは! けどアタイってばモテモテなんだよねぇ。選り好みしすぎってわけさ」と明るく笑ってみせた。


「というわけで、嫉妬に狂ったドワーフの指先がエルフの少女に牙を剥く!」


 突然、ガーネットがシルフィの後ろに回り込んで、腰だの腋の下だのをくすぐりだした。


「あひゃ! あひゃひゃひゃあばばばば! やめ! やめてッ! 苦しいッス!」


「アタイの前でいちゃつこうもんなら、こうしてくれる!」


 美しい金細工を紡ぎ出す指先の魔術師が、織りなす十指の連弾はシルフィを絶頂にまでおいやった。


「――ッ!?」


「おや、白目を剥いちまったね。はい初級回復魔法」


「はうッ! 今、意識が飛びかけたッスひゃっひゃっひゃああああああやめでぇぇ!」


 くすぐり殺してから、回復させてまたくすぐるなんて……恐ろしいコンボだ。


「あ、あのガーネット……それくらいで勘弁してくれないか?」


 ジトッとした視線を俺に向けると、ガーネットは言う。


「なら、アンタが身代わりになるっていうんだね。よしシルフィ! 手伝いな!」


 シルフィを解放した途端、ガーネットは立ち上がり湯煙を割くように俺の元へ。


 そして――


「ひゃっひゃっひゃっひゃあああああああああああああああああああああああああああ!」


 触れるかどうか寸前の指裁きで、エルフの敏感な耳元や首筋に、胸や腋の下やヘソのあたりまで、ガーネットの指が俺を翻弄した。


 ううっ……オークの時よりも全身の感度が上がったのか、オークが鈍感だったから耐えられたのか、本気のガーネットのくすぐりは半端な威力ではない。


「ゼロさんが楽しそうッス! これは……やらなきゃいけないッスね!」


 シルフィまで俺をくすぐり始めた。


 左右から美少女と美女に挟まれて生殺しだ。


「ん? なんか腰の下に硬いのがあるね。ここはシルフィが可愛がってやんなよ」


「は、はは、はいッス!」


「はいじゃねええええええええ!」


 先ほど笑い死にさせられたからか、シルフィも軽く狂乱状態だ。


 このままだと色々まずい。なし崩し的な展開になりそうである。


 ナビはといえば、ぷかーっと独りお気楽に湯船に浮いていた。


 だめだ。人気の無い辺鄙へんぴな川沿いで、第三者の目も無く二人とも妙な空気になっちまってやがる。


 ガーネットが俺の背中側に回って、その豊満な果実を押しつけてきた。その感触にいやがうえにも身体が反応してしまう。


「あー! ゼロさんってば……姐御の誘惑に負けるなんて軟弱ッスよ!」


 シルフィの指先が俺の下半身に触れようとした瞬間――




 ザパアアアアアアアアアア!




 川の中から淡水マーマンが飛び出してきた。


「二人とも危険だから下がってろ」


 湯船から飛び出し、全裸で俺は左手に魔法力を編む。


中級炎撃魔法ファイアストーム


 指先に集めた熱線でマーマンを打ち抜き、事なきを得た。


 ありがとうマーマン。


 湯船でガーネットは「ちぇー」と口を尖らせ、冷静さを取り戻したのかシルフィは耳の先まで真っ赤になって、湯船に顔半分を埋めてしまった。

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