赤青モザイク
構わず魔法をぶっ放しました。
拡散型の上級炎撃魔法だ。
俺の手のひらを起点に炎の散弾が浅い円錐状に広がった。
火炎の花が咲き乱れ、灰色の板を次々と燃え上がらせる。
足下でナビが頷いた。
「彼らはゼロエレメンタル。まだ何者でも無い存在さ」
何者でもない……ゼロ?
一瞬、動きがとまった俺めがけ、燃えたままゼロエレメンタルたちが横軸回転しながら突っ込んできた。
今は迷っている暇は無い。拡散で火力不足というなら、今度は魔法力を指先に集約して……放つッ!
先頭の一体めがけて火線が照射された。
燃え尽きて溶けて消えろッ!
と、なるはずが、ゼロエレメンタルはその灰色の身体を真っ赤なルビーのように変化させ、こちらに炎撃魔法を放ってくる。
すかさずシルフィが魔法障壁でその一撃を弾いてくれた。
見れば俺の火焔散弾を受けたゼロエレメンタルたちは、みな赤く輝きだしている。
まるでファイアエレメンタルだ。
「ゼロさんやばいッス! こいつら魔法が効かないッスよ!」
「慌てるなシルフィ! 効かないんじゃない。むしろこれで“効くようになった”んだ」
戦闘経験を重ねることで得た考察力は、俺の武器の一つだ。
これまで積み上げた自分の死体の数だけ強くなる。
目前まで迫った赤熱する板状の魔物に、俺は冷静かつ冷血に対処した。
右手の杖で魔法を唱える。
「中級氷撃魔法」
改編無しの標準的な吹雪の嵐は、瞬時に目の前の……さらにその後ろから続くゼロエレメンタルを氷漬けにし、粉々に粉砕した。
「ヒュー! やるじゃん二人とも」
口笛混じりでお気楽にガーネットははやし立てる。彼女はマイペースだし、俺とシルフィの力を信用した上で、自身の作品――魔導式手甲と杭打式杖に絶対的な自信を持っているようだ。
実はけっこうギリギリだったんだが……。
次の板の一群が、俺の中級氷撃魔法に反応して迫る。
何体か灰色の板を巻き込んだ氷結の風が、その鈍い色を美しい青に染め上げた。
「シルフィ! 青には炎撃! 赤には氷撃!」
彼女も察したらしい。ゼロエレメンタルは魔法に染まる魔物だった。
赤に赤を重ねても、いくら強力な一撃にしたところで貫通できない。
炎撃魔法で染めた個体には氷撃を食らわせ、その逆もまたしかりだった。
「上級炎撃魔法……超拡散!」
左手を開いて炎撃魔法を256分割し放出する。
火の粉たちは灰色の魔物に触れると、赤く染め上げた。
カス当たりした中級氷結魔法にも反応したこいつらは、かすかな炎の魔法力にも染まる。
平野に無数に湧きだしたゼロエレメンタルも、俺が鱗粉のように巻いた赤い光を吸着してただのファイアエレメンタルに成り下がった。
そこにシルフィの一撃が放たれる。
「上級氷撃魔法!」
彼女の放った絶対零度の嵐は、赤く燃えるゼロエレメンタルの群を巻き込んで、赤い光の粒子へと還元した。
回転しながらこちらに向かってくるばかりだったエレメンタルたちが、ぴたりと空中で静止する。
「おや? 今度はなんだってんだい?」
すっかり見物を決め込んだガーネットはお気楽に言った。
板たちが六枚集まり形状を変える。
正六面体のブロックになると、今度はこのブロックが寄り集まって四角い巨人に姿を変えた。
上級魔法を撃ったばかりで呼吸も荒いシルフィがニンマリ笑う。
「追い詰められて集まるなんて、これなら逆に倒しやすいッスね!」
杖を構えて彼女は上級炎撃魔法を構築しだした。
今度は俺が氷結魔法を撃つ版みたいだな。
「上級炎撃魔法!」
シルフィが生み出した炎の嵐がブロック巨人を包み込んだ。
赤い巨人の出来上がりだ。
合わせて俺も杖で魔法を放つ。
「上級氷撃魔法!」
決まった。と、確信したその時――
カシャンカシャンカシャンカシャン
と、音を立てて、赤い巨人の表面に出ていた面が内側に向き、新たに灰色の面が外側に現れた。
こちらの連携を学習したってのか。俺の氷撃魔法は灰色の巨人を青く染め上げた。
「ハァ……ハァ……ちょっとありッスかそれぇ」
連続して上級魔法を撃った反動で、シルフィには時間が必要そうだ。
だが、俺はといえばまだまだ余裕がある。
杖を使って魔法を使うことで、これまでよりも魔法力を無駄に浪費せずに済んでいた。
「青く染まったなら、俺がもう一発お見舞いすりゃいいんだろ?」
再び上級炎撃魔法を構築し、放つ……と。
青い巨人は灰色の面を前に出して吸収した。
「ゼロさん! 無駄撃ちはまずいッス! どんどんこっちの魔法を吸ってるじゃないッスか」
「いいんだ。吸わせてるんだから」
続けて上級氷撃魔法。さらに上級炎撃魔法。もう一丁上級氷撃魔法。仕上げに上級炎撃魔法。
立て続けに撃ち込む間に、あとはシルフィが回復してくれれば完璧だ。
もはやブロックの巨人に魔法を吸収する面は残されていない。
今は赤い姿をしているな。炎撃魔法が無効な状態だ。
かといって氷撃魔法を撃てば青い面が顔を出す。
「シルフィ! 雷撃魔法いけるか?」
「えっ……あ、あああ! そういうことッスね!」
俺が時間を稼ぐ間に、一発くらいはお見舞いできる程度に彼女も回復したようだ。
エレメンタルは同じ属性を無効化する。そして、炎は氷に弱く、氷は炎に弱い。
ポイントは“属性さえ違えば必ずしも弱点属性の魔法を使う必要は無い”ってことだ。
「「上級雷撃魔法ッ!!」」
俺とシルフィは互いの杖を交差させ、閃光と雷撃を滝のようにゴーレムに降らせた。
ドシュウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウッ!
共鳴した雷撃は上級レベルを超えた威力となり、ブロックの巨人に降り注ぐ。
巨人は赤と青、どの面で受けても雷撃に焼かれていった。
全身をモザイクのように赤と青の色彩で明滅させながら、全ての雷撃が終わる頃には、巨人の影だけが平原に焼き付いてゼロエレメンタルは全て、赤い光の粒子となる。
額から汗がボタボタと落ちた。
オークの超回復力があっても、上級レベルの黒魔法を連打するのはかなり消耗するな。
「うっひゃああ……軽く引くわぁ。黒魔法ってやばいねマジで」
少し離れた所でドン引きなガーネットに苦笑いで返す。
シルフィがゆっくり息を吐いて呼吸を整えた。
「それにしてもすごいッス。ゼロさんの機転というか、よくあんな短時間で魔物の正体を見破ったッスね。いや、知ってたんスか対処方?」
「いや。けどまあ……どのみち倒してたはずだ」
今がダメでも二度目がある。俺には……。
だからこそ強気で自分の勘に全賭けできる。これもある意味、俺だけの強さと言えるのかもな。
休憩を挟みつつゼロエレメンタルを“狩り”続けた。時折、こいつらが落とすのは魔法吸収触媒という鉱石だ。その特性はまんまゼロエレメンタルのそれであり、魔法を吸収しその属性に染まるという性質をもった素材だった。
どう活用するのか俺にはさっぱりだが、錬金術士にとってはかなり有意義な素材らしく、販路さえ確保できれば数百万メイズにはなると、シルフィは困り顔だ。
そう……肝心の販路は錬金術ギルドに――リチマーンに握られているのである。
追放こそされていないので、ギルドの利用はまだ可能だろうが、どのみちギルドのカウンター買い取りではどれだけ中間マージンを抜かれるか、想像しただけで憂鬱になる。
リチマーンのようなやつに和解を申し込むのは俺としても気乗りしない。
が、せめて普通に買い取ってもらえるくらいには、錬金術ギルドとの関係を修繕できないだろうか。
名前:ゼロ
種族:エルダーエルフ
レベル:85
力:E(44)
知性:A(99)
信仰心:G(0)
敏捷性:A(99)
魅力:C(65)
運:G(0)
装備:杭打式杖 レア度S 魔法力95 攻撃力177 装填数6
魔導式手甲 レア度A 魔法力112 防御力45
黒魔法:初級炎撃魔法 初級氷撃魔法 初級雷撃魔法
中級炎撃魔法 中級氷撃魔法 中級雷撃魔法
上級炎撃魔法 上級氷撃魔法 上級雷撃魔法
脱力魔法 対象の力を下げ攻撃と物理防御を弱める
鈍重魔法 対象の敏捷性を下げ速度や命中率を落とす
魔法障壁 敵意ある魔法による攻撃を防ぐ盾
呪封魔法 魔法を打ち消し封じる魔法殺しの術
種族固有能力:エルフの目 魔法によって隠されたものを見つけ出す探求の眼差し
学習成果:黒魔法の最適化 学習進度によって魔法力の効率的な運用が可能となる
恋人:シルフィ
仲間:ガーネット
――隠しステータス――
特殊能力:魂の記憶 力を引き継ぎ積み重ねる選ばれし者の能力
種族特典:雄々しきオークの超回復力 休憩中の回復力がアップし、通常の毒と麻痺を無効化。猛毒など治療が必要な状態異常も自然回復するようになる。ただし、そのたくましさが災いして、一部の種族の異性から激しく嫌悪される。
????: 左右両手で別の魔法を繰り出す能力




