プチ修行(筋トレ)
弓術に秀でるエルフだが、それは狩りをするためではなく外敵から身を守るための術だったらしい。
黒魔法とともに、遠距離攻撃のスペシャリストだが……裏を返せば近接戦闘を苦手としているからだ。耐久力が低い。
希に敏捷性と力を極めた剣士のエルフもいるというのだが、攻撃を受け止めるのではなく避けたり受け流したりというのが主流だった。
他の種族に比べて、筋力を鍛えてもなかなか上がりにくいという。
恐らくだが、オークの時の力99とエルフの99とでは、やはりオークの方が上なのだろう。
エルフにとって力とは、己が扱える武器に必要な分だけ鍛えるものだった。
強力な弓に張られた弦を引くにはそれなりに力は必要だが、巨大メイスを軽々振り回す膂力は無駄だ。
交渉用の魅力に振るより、力を上げておくべきだったか。
いや、今回の思いつきはあの黒翼の天使族の戦い方を見なければ、思いつかなかった。
高い魔法耐性を持つ相手への対処法――その装甲の内部に魔法を通す手段が必要だ。
とはいえ、今さらエルフの身体能力で槍を振り回すつもりはない。
ガーネットの自宅兼工房を半ば追い出されるような格好で、俺は街をあてどなくぼんやりと歩いた。
久しぶりに隣に並んでナビが歩く。
「これからどうするんだいゼロ?」
「ま、なるようになるさ」
独り言のように呟いてナビに返すと、俺はこなせそうな仕事が無いか探しに岩窟亭に向かった。
クインドナからの依頼は無かったが、死霊沼地あたりを中心に受けられそうな仕事をいくつか斡旋してもらった。
シルフィに――というか、普通のエルフには毒や麻痺への耐性が無い。治療するにも白魔法が使えないので、薬の調合代金が高くつく。
そんな毒と瘴気に溢れた不死者たちの楽園で、俺は“狩り”を続ける。
「シルフィは足手まといだね」
「そういう言い方はするなって!」
吠えながら魔法を放つ。
六つの腕を持ち、様々な武器を巧みに操る骸骨剣士――アシュラボーンと久しぶりの再戦は、上級炎撃魔法の一撃で楽々勝利を収めた。
巨大な竜の背骨を橋のように伝って歩き、道を塞ぐ魔物を炎の魔法で焼き払う。
不死の魔物たちは炎に弱い。
歩く腐乱死体が毒液を吐きかけてきたり、本体が瘴気のガスそのもので、包んでくるようなやつもいたのだが、こいつらも良く燃えた。
ガスの魔物は引火すると誘爆を起こすので、近づかれさえしなければ魔物の群を一緒に巻き込んでくれて、手間が省ける。
やや格上と見られる相手でも、魔法による遠距離からの先制攻撃は有効だ。
空を飛んでいようがお構いなし。
打ち落とす! 撃ち落とす! 討ち落とす!
普通のエルフじゃ状態異常の餌食だったに違いないが、俺にはオークの超回復力がある。毒も麻痺もなんぼのもんじゃ。
こうして小銭を稼ぎつつ、俺はレベルの壁のギリギリまで迫ることができた。
ステータストーンの出目も後押しして、筋トレ完了である。
しかし、レベルが99ってのは窮屈だな。
全ての数値を99以上に出来れば良いのに……。
名前:ゼロ
種族:エルダーエルフ
レベル:80
力:E(37)
知性:A(99)
信仰心:G(0)
敏捷性:A(99)
魅力:D(52)
運:G(0)
黒魔法:初級炎撃魔法 初級氷撃魔法 初級雷撃魔法
中級炎撃魔法 中級氷撃魔法 中級雷撃魔法
上級炎撃魔法 上級氷撃魔法 上級雷撃魔法
脱力魔法 対象の力を下げ攻撃と物理防御を弱める
鈍重魔法 対象の敏捷性を下げ速度や命中率を落とす
魔法障壁 敵意ある魔法による攻撃を防ぐ盾
呪封魔法 魔法を打ち消し封じる魔法殺しの術
種族固有能力:エルフの目 魔法によって隠されたものを見つけ出す探求の眼差し
学習成果:黒魔法の最適化 学習進度によって魔法力の効率的な運用が可能となる
恋人:シルフィ
仲間:ガーネット
――隠しステータス――
特殊能力:魂の記憶 力を引き継ぎ積み重ねる選ばれし者の能力
種族特典:雄々しきオークの超回復力 休憩中の回復力がアップし、通常の毒と麻痺を無効化。猛毒など治療が必要な状態異常も自然回復するようになる。ただし、そのたくましさが災いして、一部の種族の異性から激しく嫌悪される。
????: 左右両手で別の魔法を繰り出す能力




