超級存在
その時――
黒い羽がゆらり、ゆらりと空から風に舞う木の葉のように落ちた。
見上げると、先ほどのゴーレムの攻撃で角を削り取られた巨大建築物の上に、影がある。
背中に翼を広げた天使族の少女だ。
長い銀髪をしていた。
全身を喪服のような黒いドレスに包んでいる。その手には、純白の槍。
「黒い……翼?」
シルフィもぼんやりと、その光景を見ながら呟く。
超巨大ゴーレムが四肢を地面に食い込ませ、体勢を整え終えた所で――
ビュンッ!
と、黒い翼の少女の姿が、矢のように超巨大ゴーレムへと宙を駆けた。
「……殲滅行動開始」
凜とした声は銀髪の少女のものだ。
天使族らしく抑揚が無い。
俺とシルフィに注がれていた赤い光が、混乱したように錯綜した。
あちこちに分散したかと思うと、黒翼の少女に標的を変え集まる。
青白い火線が彼女めがけて走った。だが、宙を舞う。まるで鳥のように翼を羽ばたかせ、次々と撃ち出される殺意の波動をかわし続ける。
充分に超巨大ゴーレムとの距離を詰めると、少女は白い槍を投げ放った。
反応してゴーレムは投射された槍を阻もうと魔法障壁を展開するが、物理的な攻撃は障壁をすり抜けゴーレムに突き刺さる。
「あんな攻撃じゃ通じないッスよ」
表面の装甲に刺さっただけだ。だが、黒翼の少女はそれで良いと言わんばかりに、激しい攻撃を避けきると別の高い建物の上に着地した。
そして――呟く。
「……起動、超級雷撃魔法」
雷の嵐が彼女の突き刺した白い槍めがけ、数百数千と落ちる。
その衝撃は空気を切り裂き、衝撃の余波が俺とシルフィの身体を吹き飛ばした。
そうか……あの槍は魔法をゴーレムの内部に直接撃ち込むための……。
シルフィの身体を抱いたまま、意識はそこでフッと途切れた。
目覚めると、そこは廃虚の建物内だった。
「あっ! 気づいたんスね」
頬を土埃で汚したまま、シルフィが上から顔をのぞき込むようにして、泣きながら笑う。
どうやら今回は死ななかったらしい。
倒れた身体を起こそうとすると、違和感に気づいた。
右腕が治っている。超回復力のおかげか? いや、治っているどころか痛みも残っていない。
左腕も同様だ。この感触は……ガーネットにかけてもらった回復魔法と同じだ。
「なあシルフィ。お前、回復魔法を使ったのか?」
「つ、使えるわけ無いッスよ! ぼくも……回復魔法で治療してもらったみたいッス。手足のぼろっぼろな感じが、まるで新品に取り替えたみたいに快調だし」
助けてもらったようだ。名前も知らない天使族の少女に。
黒い翼の彼女はいったい……。
「あの天使族はシルフィの知り合いか?」
ショートボブの金髪を左右に揺らしてエルフの少女は声を荒げた。
「知らないッス! というか信じられないッス! 天使族が黒魔法を使ったんスよ!」
「みたいだな」
「なんでそんなに平然としてられるんスか。これじゃあエルフの立場が無いッス。しかも見たことも無い強力な雷撃魔法だったし、相手の魔法障壁を無視して炸裂したんスよ」
言われてハッと気づいた。
「あのデカブツはどうなった?」
「ぼくも気を失っちゃって……けど、きっとあの黒い翼の天使族が倒したんスよね。ハァ……自信喪失ッスよ。エルフが白魔法使うくらいあり得ないことッス」
俺は周囲を探すと、部屋の隅で丸くなっていたナビがこちらにやってきた。
「超巨大ゴーレムはヘカトンケイル。天使族が倒していったから、しばらくは安全だよ。二人を介抱してここに運んだのも彼女だね」
俺はシルフィに気取られない程度に、小さく頷いた。
「ひとまず戻ろう。依頼主には悪いが、今回は命があっただけ良しって感じだな」
死にかけたシルフィからも流石に反対意見は出なかった。
「ところであの……ゼロさん」
じっと俺を見つめて彼女は頬を赤くする。
「ぼくのこと……き、嫌いになっちゃったッスか?」
「どうしてそんなこと聞くんだ」
「だ、だって……死ぬかもしれない時に……一方的にぼくの気持ちだけ押しつけて……実は今、チョー恥ずかしいんスよ。死にたいくらいに。だけど……嬉しかったッス。ギュッと抱きしめてくれて……」
吐息が熱っぽくなり、潤んだ瞳がさらに湿り気を帯びた。
背伸びをして顔を近づけると、彼女は言う。
「あの……だから……抱きしめたあとの続きを……してほしいッス。もしゼロさんさえ良ければ……ぼ、ぼくの……大事な初めてを……奪ってほしいッス」
最初に出会った時には殺されて、二度目の出会いではナンパだと茶化された。
「本当にいいのか?」
「一度死んだようなものッス。冒険者はいつ死ぬかもわからないって、身をもってわかったら……好きな人に好きと言って、自分に素直になって……やり残すことがないようにしたいって……エルフのくせにせっかちって思うかもしれないけど、ゼロさんといつかお別れするかもしれないと思ったら……我慢できなくなったッス」
俺の胸に顔を埋めて「は、恥ずかしいこと言ったッス! 言ってやったッス!」と、彼女は鼻息も荒く呟く。
まいったな。
そこまで言わせてしまって、彼女を拒むことはできなかった。
「ぼく、男の子みたいで女の子らしい魅力はないかもしれないッスけど……」
「シルフィは可愛いよ。お前自身が思っているよりも魅力的だ」
「うへへぇ……嘘でも嬉しいッスよ」
チュッ……と、彼女の柔らかい唇が俺の頬に触れた。
「くすぐったいな」
「なれるまで、いーっぱいしてあげるッス。ゼロさん」
そのまま彼女は俺に体重を預けた。
そんなシルフィを俺は受け止め、受け入れる。
「ぼくを……ゼロさんのものにしてほしいッス」
今度は頬ではなく、唇と唇を重ねた。
薄暗い廃虚の中で指と指を絡め合い、俺たちは一つになった。
名前:ゼロ
種族:エルダーエルフ
レベル:71
力:G(0)
知性:A(99)
信仰心:G(0)
敏捷性:A(99)
魅力:D(52)
運:G(0)
黒魔法:初級炎撃魔法 初級氷撃魔法 初級雷撃魔法
中級炎撃魔法 中級氷撃魔法 中級雷撃魔法
上級炎撃魔法 上級氷撃魔法 上級雷撃魔法
脱力魔法 対象の力を下げ攻撃と物理防御を弱める
鈍重魔法 対象の敏捷性を下げ速度や命中率を落とす
魔法障壁 敵意ある魔法による攻撃を防ぐ盾
呪封魔法 魔法を打ち消し封じる魔法殺しの術
種族固有能力:エルフの目 魔法によって隠されたものを見つけ出す探求の眼差し
学習成果:黒魔法の最適化 学習進度によって魔法力の効率的な運用が可能となる
恋人:シルフィ
仲間:ガーネット
――隠しステータス――
特殊能力:魂の記憶 力を引き継ぎ積み重ねる選ばれし者の能力
種族特典:雄々しきオークの超回復力 休憩中の回復力がアップし、通常の毒と麻痺を無効化。猛毒など治療が必要な状態異常も自然回復するようになる。ただし、そのたくましさが災いして、一部の種族の異性から激しく嫌悪される。
????: 左右両手で別の魔法を繰り出す能力
あー 雷火
これ以上ダメダメ!! エルフがエロフですから!
カットです!




