サクサクサクセス
「魔法障壁!」
少女の甲高い悲鳴のような声がこだまして、魔法の盾が俺の目前に生まれると迦楼羅の放った火線とぶつかり合い、火花とともに散華した。
火の粉と一緒に光が爆ぜる。その輝きに目がくらみそうだ。
ただの炎撃魔法ではないな。光と炎の化身……か。
その閃光と炎を浴びて身代わりとなり魔法障壁は砕けたが、おかげでこちらは命拾いだ。
迦楼羅の動きが一瞬止まる。防がれたことに驚いたか? 俺も驚いているが、シルフィならそれくらいやってくれてもおかしくない。
「ゼロさんのことくらいお見通しッス! さあ! 撃つッスよ!」
千載一遇の好機を作ってもらった。ここで外すなんてかっこ悪いことができるかよ。
両手を合わせて生み出した魔法を、迦楼羅めがけて解き放つ。
「食らええええええええええええええええええ!」
名も無き氷雷の合成魔法は、迦楼羅の背負った炎の輪ごと凍てつかせ、雷撃が美しい羽もクチバシも完膚なきまでに砕き尽くした。
雷撃の槍に全身を射貫かれて……それでもなお迦楼羅は健在だ。
その血走った瞳が俺ではなく、シルフィに向き直る。
折れたクチバシを開いた瞬間――
「させるかよッ! 呪封魔法」
俺の手の指先から古代文字が光となって放射される。無造作に飛んだ文字は沈黙を意味する単語に組み変わり、迦楼羅の頭部に炸裂した。
物理的な衝撃は無いが、口をパクパクとさせるばかりで迦楼羅の口から炎撃魔法の火線は放たれない。
魔法封じの魔法。黒魔法を使う魔物にとって、これほどの脅威はないだろう。
もちろんそれは、俺やシルフィにとっても脅威なのだが……。
クエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエッ!
森の木々を揺るがせるほどの絶叫が響いた。
迦楼羅は翼を広げて滑空しながらシルフィに向けて飛ぶ。
だが、シルフィは逃げない。魔法の杖には魔法力が満ちていた。
彼女の呼吸に合わせて、俺も同じ魔法を右手の人差し指に集め、天にかざしてから空を切り裂くように打ち下ろす。
「「上級雷撃魔法!!」」
二つの声がユニゾンした瞬間――
天から巨大な雷撃の柱が迦楼羅めがけてハンマーのように落とされた。
ドッグオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!
天地を揺るがす衝撃に、シルフィが軽く後ろに吹き飛ばされて、尻餅をつく。
激しい閃光と轟音が収まると、迦楼羅の巨体が菩提樹の前に伏していた。
ぺたんとお尻を地面につけたまま、シルフィが呟く。
「や、や、やったッス。い、今の見てたッスかゼロさん!」
「ああ、すごいじゃないかシルフィ」
一気に魔法を連打して頭に痺れを感じるが、それも呼吸を整えれば元通りだ。使っているのは高度な知性と知識を必要とする上級魔法だが、オークの回復力あればこその、まさに力業だな。
シルフィの元に歩み寄り、彼女にそっと手を差し伸べる。
が、エルフの少女はぷくっとほっぺたを膨らませた。
「どうしたんだシルフィ? 怖い顔して」
「すごいのはぼくじゃなくて、ゼロさんッスから」
「俺が? なにを言ってるんだよ。お前の雷撃魔法で倒したんじゃないか?」
フルフルとショートボブの金髪を左右に振って、サファイアの瞳がじっと俺の顔を見据えた。
「ぼくの魔法とゼロさんの魔法が共鳴したッス。魔法の共鳴現象を狙って起こせるなんて……威力は二倍どころじゃないッスよ」
なるほど。あの威力はただ俺とシルフィの魔法の合算ってわけじゃないのか。
「いや、狙ったわけじゃないって。タイミングを合わせようとしたら、たまたまああなったんだ」
シルフィはよいしょっとお尻を上げて立ち上がると、軽く後ろ手で叩きながら言う。
「だとしてもゼロさんが天才なのは証明されちゃったッスね。記憶を失う前はどれだけの使い手だったのか、想像もつかないし」
「褒めてもなにもでないぞ?」
「褒めてないッス。事実を言ってるだけッスから。なんスかあの合成魔法は……一人でやるもんじゃないッスよ。魔法の合成も共鳴も国立魔導学院で研究されてるけど、理論上のものであって実戦でそれを使う魔導士なんて、広い外の世界にだっていないッス」
「そうか。まあそういうことならしょうが無いな。俺は魔法の天才だったらしい。いやあ照れるな」
「だから別に褒めてないッス。というか化け物じみてるッスよ」
シルフィは伏し目がちになった。
「化け物とは失礼な」
「あの……ゼロさんにこんなこと言うのは変かなって思ったりもしちゃったりするんスけど……できるからって、独りであんまり無茶な戦いはしないで、安全第一を心がけるッスよ」
そう言うと、彼女は俺の右手をそっと両手で包むように握った。
「ぼくのことも頼って欲しいしッス。ゼロさんほどじゃないけど、これでもそれなりに腕の立つ黒魔導士なんスから」
「え? もしかしてシルフィ……俺の事を心配してくれてるのか?」
「と、ととと当然ッス! 仲間なんスから! 前々から思ってたんスけど、ゼロさんの戦い方って『死んでもいい』みたいな匂いがするんスよ。そういうのは見てるこっちの心臓にも悪いんで、これからは一か八かみたいな紙一重の戦いをせずに、コツコツお金を貯めるッスよ! 何年かかってもいいじゃないッスか?」
彼女は手を離すと小さく華奢な背を向ける。
冗談めかしたせいで、怒らせてしまったようだ。
そうか……俺を仲間と思ってくれるんだなシルフィ。
とはいえ、あまり時間も掛けていられない。エルフが長命といっても、三年以内にこの世界は滅ぶかもしれないのだかr。あ
「わかった。気をつけるよ」
本心とは真逆の言葉がさらりと口からこぼれ落ちた。
迦楼羅が赤い光の粒子と消え、ナビが光を集めながらぴょんと跳ねた。
「どうやら依頼されていた神水の雫のようだね」
片手に包めるくらいの涙滴型の小瓶に、青い氷河を溶かし入れたような、うっすら青い液体が封入されていた。
それを手にとりシルフィが息を吐く。
「ゼロさんが危うく死にかけて手に入れたお宝ッスから、依頼主に危険手当を割増しでもらうくらいの交渉はしてもいいッスよね」
これにて依頼完了だ。岩窟亭経由で納品して三百万メイズ。
今までで一番大きな稼ぎだな。危険手当だの割増しだのについての交渉はシルフィに任せよう。
減らなければいいんだが……。
最果ての街に戻って仕事の報告と品物の納品を終え、シルフィがクインドナ宛てに今回の仕事の詳細な報告書を上げた。
彼女がまとめた内容について大雑把に言えば、迦楼羅は腕利きの黒魔導士が四人以上で戦う相手だということだ。俺が三人分仕事をしたから倒せたようなもので、報酬を倍にしろ! という、無茶な内容だった。
数日後――
神水の雫で問題が解決したらしく、クインドナからお礼の手紙が岩窟亭に届けられた。さらに報酬も一緒にだ。支払われたのは四百万メイズだった。倍ではないがシルフィの強気の交渉が功を奏した(?)らしい。
加えて常闇街の高級店でサービスを受けられるチケットが三枚。市場価格は最低でも一枚三十万メイズで、一夜の心地よい夢のような体験ができるらしい。
鍛冶職人ギルドの掲示板で購入者を募り、三枚とも二十五万万メイズで売却した。
プラチナチケットは格安すぎたのか、あっという間に三枚ソールドアウトだ。
さらにクインドナから仕事の依頼まで継続決定である。
迦楼羅ほど強力ではないが、地下迷宮世界の各階層にいる特別な魔物の討伐と、それらが持つ特殊な素材集めだ。
一件最低でも百万メイズ。俺とシルフィのコンビにとっては、手間と時間こそかかるものの、黒魔法という先制攻撃能力を存分に活かせる仕事ばかりである。
当然、迷宮世界には黒魔導士が苦手とするような魔法耐性の高い魔物もいるのだが、そういった魔物はクインドナも俺たちには割り振らず、別のコネに仕事を割り振っているらしい。
だからか、あてがわれた相手はそこそこ苦戦はするものの、倒せないほどではなかった。
砂海イッカクの肝。三つ首黒牛のニカワ。白虎の牙。化石竜の骨。神秘鹿の角。
どれも錬金術素材になるらしい。しめて六百万メイズ。
シルフィが言うには、いくつかの素材から何を作るのか想像ができるのだが、これらの組み合わせはエルフの錬金学のレシピには無いとのことだった。
諸経費を差し引いて、一千万メイズの大台まであと少しというところまでやってきた。
潮干狩から始まったと思うと、予想外の大物が釣れたものである。
名前:ゼロ
種族:エルダーエルフ
レベル:67
力:G(0)
知性:A(99)
信仰心:G(0)
敏捷性:A(99)
魅力:E(36)
運:G(0)
黒魔法:初級炎撃魔法 初級氷撃魔法 初級雷撃魔法
中級炎撃魔法 中級氷撃魔法 中級雷撃魔法
上級炎撃魔法 上級氷撃魔法 上級雷撃魔法
脱力魔法 対象の力を下げ攻撃と物理防御を弱める
鈍重魔法 対象の敏捷性を下げ速度や命中率を落とす
魔法障壁 敵意ある魔法による攻撃を防ぐ盾
呪封魔法 魔法を打ち消し封じる魔法殺しの術
種族固有能力:エルフの目 魔法によって隠されたものを見つけ出す探求の眼差し
学習成果:黒魔法の最適化 学習進度によって魔法力の効率的な運用が可能となる
種族特典:研ぎ澄まされしエルフの叡智 すべての黒魔法が強化される。ただしその知性が禁忌に触れることを許さない相手に敵対視される。
仲間:シルフィ ガーネット
――隠しステータス――
特殊能力:魂の記憶 力を引き継ぎ積み重ねる選ばれし者の能力
種族特典:雄々しきオークの超回復力 休憩中の回復力がアップし、通常の毒と麻痺を無効化。猛毒など治療が必要な状態異常も自然回復するようになる。ただし、そのたくましさが災いして、一部の種族の異性から激しく嫌悪される。
????: 左右両手で別の魔法を繰り出す能力




