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常闇街からの手紙

 ※


 こんにちはゼロ、シルフィ。あたしはクインドナ。常闇街でお店をいくつかやってるの。


 岩窟亭さんから連絡があって驚いたわ。あんなに立派なショウロ茸は初めてね。


 とても美味しかった。その感動と感謝の気持ちを伝えたくて、こうしてお手紙を書かせてもらったの。


 茸狩りがとてもお上手なのね。エルフなのに二人はドワーフの街で顔が売れているみたい。とても珍しいことよ。


 錬金術士街で活動できないから、訳ありみたいね。


 他の誰かと違うことですれ違いや嫌な思いをするかもしれないけれど、個性も見方を変えれば魅力になるから、がんばって。応援しているわ。


 岩窟亭さんから訊いたのだけど、お金に困っているみたいね。


 常闇街のお仕事なら、もちろん紹介できるわ。気持ち良くなってお金がもらえるのよ。


 エルフはとても人気があるから、すぐにお客さんがたくさんつくと思うわ。けど、そういうことが苦手な子に無理にさせるようなことはしないから、安心してね。


 お客さんにはお金を気持ち良く使ってもらって、ご奉仕する子も楽しむのが一番だもの。


 ちょっとお話がそれたわね。ええと、このお手紙はお礼なのだけど、それと合わせてお願いのお手紙なの。


 錬金術ギルド長の噂は前から耳にしているわ。


 二人は立場上、常闇街からの依頼は受けづらいでしょうね。その弱味に付け込む格好だけど、最後まで読んでもらえると嬉しいわ。


 そうそう、常闇街に身を置いてくれるなら、あたしが守ってあげる。そうなると、もう錬金術ギルドには戻れないけど。


 だからこれは、あたしの個人的なお願い。


 岩窟亭さんを仲介役に挟んでの依頼よ。錬金ギルド長に口出しはさせないわ。


 倒して欲しい魔物がいるの。世界樹の祭壇からさらに上に進んだ先に、極楽昇天トルネード迦楼羅かるらという鳥の魔物がいるの。


 倒すと神水の雫を落とすわ。もし、手に入れてくれたら三百万メイズで買い取らせてちょうだい。


 大丈夫。誰かを傷つけたり、悪い事に使ったりしないから。


 最近、あたしの目の届かないところでイケナイ薬が流行っているみたいで、うちのお店の子にも中毒者が出ているの。


 神水の雫には浄化の力があるから、きっと治ると思うのよ。


 本当はあたしが行きたいのだけど、極楽昇天トルネード迦楼羅は魔物なのに光の力を使うから、苦手なのよね。


 会ったこともない二人にお願いするのは心苦しいわ。


 それに強い魔物だから、もしお仕事を受けてくれるなら充分に注意してね。


 無理だと思ったら帰ってきてもいいのよ。


 お手紙なんてあまり書かないから、とりとめのない文章でごめんなさいね。


 かしこ。


 ※




 ある晩のこと――


 またしても岩窟亭で夕飯をごちそうになってしまった俺とシルフィの元に、給仕係の狐少女がやってきて、封筒をそっとテーブルに置いていった。


 ガーネットは他のテーブルで一気飲み対決の真っ最中だ。


「こちら主人マスターからです!」


 すぐに別の客に呼ばれて、給仕係の少女はふわふわ尻尾を揺らして行ってしまった。


 立派な封蝋までされた手紙だ。文字は達筆で美しい。文章はまあ、冗長な感じもするのだが、つまりは「ショウロ茸への感謝」「常闇街で働くなら面倒みる」「冒険者としての仕事依頼」の三つだ。


 手紙を読み終えると、俺は小さく息を吐いた。


 同じく、一緒に文面を目で追っていたシルフィが困ったように眉尻と、ツンと尖った耳の先を垂れる。


「ああ、ショウロ茸は食べられちゃったんッスね」


「そこかよ!」


 つい、ツッコミを入れてしまった。しかし、食材集めがこんなカタチで仕事の依頼に繋がるとは思わなかったな。


 シルフィはますます困り顔になった。


「エルフは人気者って……これってあの……え、え、エッチなことッスよね!」


「だろうな、きっと」


「絶対にお断りッス! オークのお客さんとかマジ勘弁ッス!」


「オークじゃなきゃいいのか?」


「そ、それは……そういうことは好きになった相手がいいと思うッスよ」


 シルフィは垂れた耳の先まで赤くなった。おいおい、自分から振った話題で恥ずかしがるなよ。こっちまで恥ずかしいだろ。


 不意にサファイアの瞳がじっと俺を見つめた。


「ぜ、ゼロさんはどうッスか?」


「え、ええと……そうだな。好きになった相手とならいいんじゃないか?」


「そ、そそそそうじゃないッスよ! 仕事の依頼についてッス。ゼロさんって、もしかして頭の中は常にエロいことでいっぱいなんスか!? エルフじゃなくてエロフッスね」


「お前なあ! 今の話の流れだと……ったく」


 これ以上の反論も不毛なだけだ。麦酒のジョッキを傾けて、キンキンに冷えた薄い琥珀色の液体を喉に流し込む。


 シルフィはうんとうなずいた。


「けど、ゼロさんは好きな相手なら受け入れるんスね。とっても参考になったッス」


 なんの参考にするつもりだ? まったく……。


 少しだけサファイア色の瞳が熱っぽく潤んだように見えた。


「で、この仕事を受けるかどうかだが、俺は魔物の強さ次第だと思う」


「ぼくはアリだと思うッスよ」


 意外や乗り気で驚いたな。


「シルフィは常闇街案件は避けると思ったんだが……」


「手紙に有るとおりグレーゾーンだから実質セーフみたいなもんス。あのバカも常闇街の有力者と対立はしないッスよ」


 バカとはつまりリチマーン錬金術ギルド長のことだな。


 ということはクインドナってのは、有力者なのか。


「クインドナって有名なのか?」


「さすがゼロさん。何にも知らないっぷりがいっそすがすがしいッス」


 つい足下に視線を落とすと、酒場のテーブルの下で丸くなっていたナビが顔を上げて、小さく俺に頷いた。


 詳しいことはシルフィに訊いてみよう。


「この街に来てからずっと勉強漬けに狩りにと忙しくて、街の事情なんて知らないんだ」


「そうッスよね。ま、ぼくも詳しくはないッスけど」


 常闇街を避けて通るシルフィにすら、クインドナの名声は届いている。


 柑橘のジュースで口を湿らせてから、シルフィは続けた。


「常闇街の“母”と呼ばれてるらしいッス。娼館をいくつも経営しているサキュバスの女王って噂ッスよ」


「サキュバスって……」


「淫魔族ッス。エロエロのスペシャリストッスね」


 手紙の文面からだと、妖艶さよりも妙にこちらを気に掛けてくる母性的なものを感じたが……ああ、だから“母”なんて呼ばれているのかもしれないな。


「その淫魔族のお偉いさんの依頼か。三百万メイズは美味い話だが、裏は無いか?」


「常闇街の他の連中ならいざ知らず、顔役が冒険者を騙して自分に泥を塗るとは思えないッスね」


 エルフの少女の口振りからして、リチマーンよりも信用できそうという感じだ。


 手紙には神水の雫の用途まで書かれていた。


 中毒の治療に使うというのが本当なら、人助けでもあるわけだし。


 となると一番の問題は、やたらと名前の長い迦楼羅という魔物の討伐難易度だな。


「狩りの標的としてはどうなんだ? その、えーとなんだっけか」


「極楽昇天トルネード迦楼羅ッスよ。ぼく独りだとうっかりミスで死ぬかもしれないッスけど、そこはゼロさんを盾にして、うまく立ち回るッス」


「こらこら。いくら俺が丈夫って言っても、しょせんはエルフの中じゃ頑丈なだけって話だからな」


 オークの姿だったら、いくらでもシルフィを守ってやれるんだが。


「じょ、冗談ッスよ。何度も守ってもらってるのは事実だし、ぼく独りじゃ何回死んだか両手の指じゃ足りないくらいッスから。何度でも言うッス。ゼロさんには感謝してもしたりないって」


 シルフィは素直にぺこりとお辞儀をした。


「俺だってシルフィのおかげで魔法が使えるようになったんだ。それくらい当然だろ」


 顔を上げると少女は笑う。


「謙虚ッスねゼロさんは」


「それほどでもあるさ」


 下ろした長髪を耳元から指で掻き上げ、自慢げに鼻を高くして胸を張ってみせると、シルフィは吹き出した。


「ぷふっ! それじゃあ謙虚さ台無しッスよ。じゃあ(前略)迦楼羅について、知ってることを話ッス。わりとエルフの黒魔導士にはカモなんスけど、独りじゃ相手をするのがちょっとやっかいなのと、よっぽど変わった病気でもないと白魔法で治せるから、神水の雫は需要がないんで不人気魔物なんスよ」


 なるほどな。納得して頷くと、シルフィはさらに迦楼羅について教えてくれた。


 その内容からして、倒せない相手じゃなさそうだ。


 二人で作戦会議を続けていると、空になったピッチャーを手にガーネットがテーブルに戻ってきた。


「六連勝してやったし! ってか、二人ともキスでもしそうな距離で顔を突き合わせて、いったい何を話し込んでるんだい? あ! やっぱ付き合ってるのかぁ。うんうん、健全だねぇ。応援するよ!」


 シルフィが顔を赤くして抗議した。


「こ、これはただの作戦会議ッス! 姐御に負けないくらい強くなるための、サクセスストーリー会議ッスから!」


「おー! そいつはそいつで楽しみだねぇ。いいかいゼロ。あんたシルフィを泣かせちゃだめだよ。男なんだし、この子をちゃーんと守ってやんな」


「お、おう。わかってるって」


 ガーネットに言われると複雑な気持ちになる。


 さらに他のテーブルの客たちからも、口笛や揶揄するような酒気混じりの声援が飛んできた。


 ドワーフばかりの店内にエルフの客が二人きり。そう見られるのが普通なようだ。


 けど、シルフィとはそんな関係になりそうにない。


 時々、ぐっと女らしく感じることはあるけど、彼女は俺にとって師匠であり友人なのだから。




 迦楼羅は宙を自在に舞う美しい魔物で、獣人族の狩人やエルフの弓の名手でさえも手を焼くらしい。


 その点、標的を追跡する黒魔法は迦楼羅退治にうってつけだった。


 明日はさっそく下見に出て、近日中には対決になりそうだ。


名前:ゼロ

種族:エルフ

レベル:51

力:G(0)

知性:B+(91)

信仰心:G(0)

敏捷性:B(89)

魅力:G(0)

運:G(0)


黒魔法:初級炎撃魔法ファイアボルト 初級氷撃魔法アイスボルト 初級雷撃魔法サンダーボルト

   中級炎撃魔法ファイアストーム 中級氷撃魔法アイスストーム 中級雷撃魔法サンダーストーム

   上級炎撃魔法ファイアノヴァ 上級氷撃魔法アイスクリスタ 上級雷撃魔法サンダーフレア


   脱力魔法ディスパワン 対象の力を下げ攻撃と物理防御を弱める

   鈍重魔法ディスアグレ 対象の敏捷性を下げ速度や命中率を落とす

   魔法障壁マジルシド 敵意ある魔法による攻撃を防ぐ盾

   呪封魔法ディスペルド 魔法を打ち消し封じる魔法殺しの術



種族固有能力:エルフの目 魔法によって隠されたものを見つけ出す探求の眼差し


学習成果:黒魔法の最適化 学習進度によって魔法力の効率的な運用が可能となる


師匠:シルフィ

仲間:ガーネット


――隠しステータス――


特殊能力:魂の記憶 力を引き継ぎ積み重ねる選ばれし者の能力


種族特典:雄々しきオークの超回復力 休憩中の回復力がアップし、通常の毒と麻痺を無効化。猛毒など治療が必要な状態異常も自然回復するようになる。ただし、そのたくましさが災いして、一部の種族の異性から激しく嫌悪される。

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