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才能開花

 さらに一週間が経過した。


 俺の勉強の進み具合は、エルフとしては恐ろしく早いらしい。


 他の種族よりも長く生きる種族だからか、時間を貴重に思わないのもエルフの特徴なのだとか。


 俺自身も不思議なことに、思い出しているという自覚は無いのだが、シルフィの教え方が上手いのか、一度教わった黒魔法の式などは、一発で覚えることができた。


 そして、この二週間の総仕上げのテストを今、終えたところだ。


 ソファーに腰掛け背もたれに体重を預けながら、低い地下研究所の天井を見上げていると、答案のチェックを終えたシルフィの顔が俺をのぞき込んだ。


「いいッスか。あんまりテングになられても困るッスからね。それに錬金術に関しては黒魔法以上に学ぶ事は多いッス」


「結論だけ先に教えてくれ」


 ムッとした顔から一転して、シルフィは笑顔になった。


「やっぱ師匠が良かったんスよねぇ。我ながら自分の教える才能が怖いッス。今のゼロさんなら、国立魔導学院に入学できるレベルッスよ。もちろん、実技試験もあるッスけど」


 シルフィの指導で、俺は上級レベルの魔法も使えるようになった。




上級炎撃魔法ファイアノヴァ 城塞すら吹き飛ばす爆熱火球


上級氷撃魔法アイスクリスタ 魂までも凍てつかせる無慈な氷塊


上級雷撃魔法サンダーフレア オークを仕留める雷撃の嵐


魔法障壁マジルシド 敵意ある魔法による攻撃を防ぐ盾


呪封魔法ディスペルド 魔法を打ち消し封じる魔法殺しの術




 とまあ、使いこなせるかはこれからの修練次第だが、これらの魔法が加わった。


 初級から上級まで三系統の属性魔法と、物理攻撃の得意な魔物を弱体化する補助魔法二種類に、魔法攻撃に長けた魔物から力を奪う補助魔法二種類と、合計十三種類の魔法を獲得したわけだ。


 レベルは上がっていないが、シルフィと出会う前よりも強くなっているのは間違いない。


 俺はソファーから立ち上がった。


「よーし、さっそく魔法をぶっ放したいぞ」


「それならぴったりの場所があるッスよ。あ! それとほとんど引き籠もってたから、お金はそんなにかかってないッスけど、上級魔法が扱える黒魔導士らしい装備は必要ッスね」


 どこかで大きく稼ぐ必要がありそうだが、まずは自身の力をきちんと把握しないとな。




 シルフィに連れられてやってきたのは、港から少し離れた浜辺だった。


 海水浴をするような者もなく、ビーチは貸し切りだ。


 二人きりで波音を聞くのは男女の仲が深まりそうな気もするのだが……別にそういったことのためにやってきたのではない。


 潮風草という錬金素材になる薬草が、浜辺に点々と生えている。


 少し湿り気を帯びた砂は重く感じた。


 視線を上げれば押し寄せては返す波と、その向こうの水平線が見える。


「いったいどこまで続いてるんだろうな、この二十階層は?」


「船が出て帰ってきたって話は訊かないッスね。残念ながら。ま、未知の世界を求めるならおきな船が必要ッスよ。けど、大型帆船を作れる船大工なんて、この街にはいないッスから」


 海を渡るなら他の手段がないと無理なようだ。なにがこの先にあるのか妄想するくらいしか、出来ることはないみたいだな。


「それでシルフィ、ここならぶっ飛ばしてもいいのか?」


「海はすべてを受け止めてくれるッス。あと、師匠と呼ぶッスよ。仮にもぼくの指導で魔法を覚えたんスから」


「はいはい、ししょーししょー」


「尊敬の念ゼロッスか! 名前通りッスね! もっとこう、リスペクトするッスよ」


 平べったい胸元に手を当ててシルフィは力説する。感謝する気持ちはあるのだが、どうも彼女には師匠の威厳が足りていない気がした。


「尊敬してますお師匠様」


「よろしい。目が死んでいて限り無く棒読みな点をのぞけば満点の解答ッス。ではッ!」


 シルフィは背中の杖を手にして、海に向かうと呼吸を整え――


上級雷撃魔法サンダーフレアッ!!」


 いきなり魔法をぶっ放した。


 ドガガガガ! ズガガガガッ! ドゴンドゴンドゴンッ!


 いくつもの雷撃が海に落ちる。空から牙を剥いた龍が襲いかかるような光景だ。


 なるほど、街中で撃てば大騒ぎになるな。だから人気の無い浜辺なのか。


 そして、あんな魔法を俺は撃ち込まれたわけである。


 黒魔法を学んだから、その威力を推測することができた。魔法に弱いオークなら十人まとめて葬ることができるだろう。


 オーバーキルだ。やり過ぎだ。


 魔法を撃ち終えてシルフィはニッコリ笑った。


「というわけッスから、ここで魔法の試射をしてみるッス。実技試験ッスね」


「ああ、わかった」


「装備によって魔法の威力を底上げできるッスけど、今回は何も無しで素の力がどれくらいか確認するッスよ」


 うなずいて返すと、潮風に金髪を流すようにしながら、俺は水平線をキッと見据えて右腕を前につきだした。


 手のひらを開いて頭の中で魔法のイメージを数値化し、式に当てはめる。


 いきなり上級魔法はやばいな。しばらく実際に魔法を撃ってなかったんだし、ここは基本中の基本から試してみよう。


 その基本を全力で撃つ。


「じゃあとりあえず……初級炎撃魔法ファイアボルト


 手のひらに炎熱の魔法力が収束し、それは矢というよりも光の筋のようになって放たれた。


 ゴウンッ!


 放った衝撃で右肩が外れそうになる。


 足は砂の地面を引きずるようにかかとから埋まった。一メートル近く引きずられたように後退した。


 そして俺が放った炎の火線は――


「海が……割れたッス」


 一瞬だが、浜辺から十メートルほど海を割り、海水を蒸発させた。


 唖然としたまま、目を見開き口をぽかんと開けてシルフィがこちらに向き直る。


「な、なにをしたッスか?」


「なにって初級炎撃魔法を全力で撃ったんだが。なにかまずいことしたか俺?」


「お、おおおおかしいッス! ぜんっぜん初級レベルじゃないッスよ!」


 放った右手の平には、まだ炎がくすぶっているような熱気が残っていた。


 不思議と一発撃てば重くなるはずの頭の重さを感じない。


 いや、感じはしたがすぐに回復するのだ。


 オークの超回復力で。


 ずっと大人しくしていたナビが砂の上で跳ねた。


「どうやらシルフィから黒魔法を教えてもらったことで、魔法力を損失ロスすることなく、すべてを魔法の威力にすることができたようだね。すごいよゼロ。キミは魔法の天才だ」


 シルフィが俺に歩み寄る。


「つ、次ッス! 初級氷撃魔法アイスボルトお願いするッス!」


 再び俺は右手を伸ばして海に向ける。初級レベルなら連射ができそうだ。


「よーし、いくぞッ! 初級氷撃魔法!」


 シュババ! シュババ! シュババ!


 強烈なのけぞりを起こした炎撃魔法に比べると、氷撃魔法は扱いやすいな。


 初級レベルなら三連射くらいいけるらしい。


 ツララのような冷気の塊が水面に着弾すると、海が凍てつき氷の島ができあがった。


「こんな初級レベル見たことないッス。教授プロフェッサー級ッス……」


「それっていいのか?」


「いいどころか外の世界じゃ黒魔法の最高峰ッスよ!」


 興奮して鼻息荒いシルフィに言われるまま、俺は攻撃魔法を一つ一つ試していく。


 初級雷撃魔法サンダーボルトは、俺の周囲に雷撃の矢が六本現れた。それらが次々に飛翔し、着弾と同時に小さなプラズマを発生させて爆ぜる。


 威力を中級に引き上げると、連射は利かなくなったがより広範囲で魔法が炸裂した。


 そして上級魔法はといえば――


「やばいッスね。上級炎撃魔法ファイアノヴァは、絶対街中で使っちゃだめッスよ」


 できるだけ遠くに向けて放った上級炎撃魔法は、着弾するやいなや巨大な水柱をあげて海の底のものまで巻き上げる威力で爆発した。


 シャワーのように海水の雨が降り、もくもくと上がった水煙で水平線がしばらく隠されるほどだ。


 さすがに上級ともなると頭がズンと重くなったが、一分ほど呼吸を整え瞑想すれば元通りだ。


 シルフィが俺の右腕に抱きついて手のひらにほおずりした。


「師匠と呼ばせてくださいッス!」


「おいおいいきなり抱きつくなよ」


 スッと顔をあげてシルフィは真顔になる。


「ゼロさんには言ってないッス。ゼロさんの右手様にお願いしてるんスよ。まさにゴッドハンド!」


 信仰心が低いのにその言い方はいかがなものでしょうかシルフィさんや。


 しかしまあ、彼女のおかげで俺はオーク時代とは桁違いの、圧倒的な破壊力を手にしてしまったらしい。


 これならあの門番にも――真理に通じる門を守る複腕の巨人にも通じるだろう。


 恐るべきはオークの超回復力だ。俺が理論を抜きにして、イメージだけで魔法を使って戦えたのも、この超回復力で無駄な消耗分をねじ伏せてきたからだ。


 その無駄の一切を廃して効率化したことで、精神力の回復に充てることができた。


 杖などの装備で威力の底上げも狙えるだろう。


 なにより今の俺はまだレベルが上がる余地がある。


 まずは暴れ馬のように進化した初級炎撃魔法の調教からだな。威力をできるだけ落とさず、反動をマイルドにして発射サイクルや精度を上げていこう。


「というかシルフィ。いつまでくっついてるつもりだ? もう少し練習したいんだが……」


「そ、そそそそうッスね! さあ存分に魔法の威力に酔いしれるッスよゼロさん!」


 俺は呼吸を整えると、再び海に向けて手のひらに魔法力を集めたが、どうやらこのままだと魔法が暴れ気味だ。


 さらに集中力を高めて指先に魔法力を集中させる。


「三連初級炎撃魔法」


 バシュッ! バシュッ! バシュッ!


 まるでガーネットが“この延長上にはない未来”で使っていた石火矢のような、貫通力と衝撃力を兼ね備え炎の弾丸が指先から放たれた。


 誘導性はこれまでの炎撃魔法に比べて劣るかもしれないが、初速も石火矢に近く、空を高速で飛翔する魔物にも充分当てられそうだ。


 シルフィがじっと俺の顔を見つめた。


「それ、どうやったんスか?」


「指先に魔法力を集中させたんだ」


「そんなの学院じゃ誰も教えてくれなかったッスよ!」


「思いついたんでやってみただけだが、いけないのか?」


「いけないなんてことはないッス! こんな応用の仕方をする発想がある意味変態っすよ」


「褒めてないだろ」


「褒めてるッスってば! 記憶喪失でエルフの常識が無い上に、魔法の才能があるとこんな結果を招くんスね」


 キラキラとした目は尊敬の眼差しのようだが、言ってる“結果を招く”なんて惨劇の舞台になったような言い方はやめてくれっての。


 まあ、これなら今まで以上に迷宮世界の深い場所――たとえば火炎鉱山の内部や大深雪山の高いところにいる魔物にも通用するだろうな。


 ただ、攻撃力は高くとも打たれ弱さはエルフのままだ。


 まずは金策。倒せる範囲内の魔物から素材集めやらをして、少しずつ防御力の高い装備を調えていこう。


 今夜はようやく、ガーネットに次の展望について、報告できる気がするな。彼女からお友達価格で装備を買える日は、案外近いかもしれない。


 まあ、お友達価格になっても数百万、数千万メイズの世界なんだろうが……強くなるのはもちろん、稼がなきゃな、いっぱい。



名前:ゼロ

種族:エルフ

レベル:45

力:G(0)

知性:C(77)

信仰心:G(0)

敏捷性:C+(79)

魅力:G(0)

運:G(0)


黒魔法:初級炎撃魔法ファイアボルト 初級氷撃魔法アイスボルト 初級雷撃魔法サンダーボルト

   中級炎撃魔法ファイアストーム 中級氷撃魔法アイスストーム 中級雷撃魔法サンダーストーム

   上級炎撃魔法ファイアノヴァ 上級氷撃魔法アイスクリスタ 上級雷撃魔法サンダーフレア


   脱力魔法ディスパワン 対象の力を下げ攻撃と物理防御を弱める

   鈍重魔法ディスアグレ 対象の敏捷性を下げ速度や命中率を落とす

   魔法障壁マジルシド 敵意ある魔法による攻撃を防ぐ盾

   呪封魔法ディスペルド 魔法を打ち消し封じる魔法殺しの術



種族固有能力:エルフの目 魔法によって隠されたものを見つけ出す探求の眼差し


学習成果:黒魔法の最適化 学習進度によって魔法力の効率的な運用が可能となる


師匠:シルフィ

仲間:ガーネット


――隠しステータス――


特殊能力:魂の記憶 力を引き継ぎ積み重ねる選ばれし者の能力


種族特典:雄々しきオークの超回復力 休憩中の回復力がアップし、通常の毒と麻痺を無効化。猛毒など治療が必要な状態異常も自然回復するようになる。ただし、そのたくましさが災いして、一部の種族の異性から激しく嫌悪される。

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