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チュートリアル:黒魔法

 最果ての街にたどり着くまで、五回ほど死亡した。


 そのうち数えるのを止めそうだ。これまでオークの時によっぽど無茶をしてきたんだと痛感もした。


 心身ともに感じる痛みとは、死なないための危険を知らせる信号だ。


 恐れないことで死の感覚が麻痺する。


 おかげで多少の無茶ができるようになったのは皮肉だが。


 このやり直しに回数制限があるにしても、俺にはそれを知る方法は無いし、すべての失敗は未来への“先行投資”と考えるようにした。


 まあ、痛いは辛いは熱いは寒いはと、死ぬのも楽じゃないけれど。


 狼に手足を喰いちぎられたり、獅子ウサギの杵に潰されたり、砂漠の砂の中に隠れていた爬虫類の化け物に飛びかかられたりもしたが、雪山で素材探索に没頭しての遭難死は、我ながら間抜けだったと思う。集めた換金アイテムが水の泡だ。


 この地下迷宮世界で、ほぼほぼ同じ道をたどっているのにオークの時とは難易度が段違いだった。


 力押しが通じた相手にゴリ押し出来ない。


 魔物から攻撃を受ければ、オークの時のかすり傷が時には致命傷だ。


 まあ、その傷が休息を挟めばふさがるのは、オークの加護のおかげである。


 もしエルフからこの旅を始めていたら、最果ての街にたどり着けたかどうか……。


 ともかくエルフは攻防のバランスが悪い。


 いっそ知性に能力を極振りしたくなる……ものの、ある程度の敏捷性が無ければ回避や反撃ができないのである。


 戦いにおいては、常にこちらが先手を取れるとは限らないので、敏捷性も知性と同程度にはバランス良く成長させていく必要があった。


 基本は先制攻撃。不意打ちは敏捷性で回避。回避に失敗した場合は逃走も視野にいれつつ、魔法で反撃。


 これがエルフの基本戦術だった。


 最果ての街を目指して進むうちにレベルが上がり、この基本戦術にバリエーションを与える攻撃魔法――火炎、氷結、雷撃の三種を習得。


 相手の弱点を突けるようになると、途端に戦いが楽になった。


 が、俺が黒魔導士として未熟なため、魔法を連続で放つことができないのが辛いところだ。


 また、単体攻撃用ばかりなので、魔物が群になって襲ってくると、あっという間にやられてしまう。


 ナビのやつ……本当は魔法を使えるんだから、俺じゃなく魔物を攻撃しろってんだよ。


 まあ、そんなことを言えばまた、コード66が執行されそうだから、ぐっとこらえるしかない。


 一方で、オークの時には難しかった場面が楽に素通りできるなんてこともあった。


 エルフの目の能力――魔法的に隠された存在を見抜く眼力だ。魔法力を目に集中させることで、見えないものを見つけることができた。


 実は先駆者たるエルフたちによって隠された近道が、各階層に一つ~二つあったのである。


 城塞廃虚には裏道のマンホールを通らなくても、魔物の監視が少ない屋内を進むルートを見つけた。


 砂漠に近道は無かったものの、雪山では通り抜けられるトンネルがあったりと、エルフたちが見つけたルートの痕跡は、エルフの目でしか発見できない。中にはエルフによって意図的に隠されたような道もあった。


 他の種族に秘密にするだなんて。


 エルフって……意地悪だな。オークの時にこれらの道がわかっていれば、楽が出来たのに。


 続く巨石平原では物理攻撃が一切効かないエレメンタルを、エルフの目で居場所を暴き出して魔法で攻撃した。


 オークの時にはどうやっても倒せなかった魔物を倒せたのは気持ちがいい。


 経験もガツンと一気に積むことができた。


 そして――なにもない十五階層へ。


 エルフの目で見れば新しい発見があると思ったのだが、残念ながら何も見つからなかった。


 その先の地底湖島で修行を続けたものの、オークの時には十四階層クリア辺りでオーク・ハイになれたのだが、十六階層でも俺はエルフのままだ。


 エルフになって五回目の挑戦では、俺が余りに的確に魔法を使いこなすのでナビはずっと驚きっぱなしだったな。


「キミは魔法の天才だよゼロ! 敵の弱点属性をすべて知っているみたいだね」


「運がいいだけさ」


 謙虚に応える俺に、ナビは一層目をキラキラと輝かせた。


 この協力的で愛くるしい小動物を、どこまで信じていいのかわからない。


 何も知らなかった過去に戻りたいと、ついナビの顔を見ると後悔してしまった。




 後半の階層にさしかかると、魔法は一気に使いやすくなった。中級レベルの範囲攻撃魔法を手に入れたのだ。他にも補助系の魔法を習得したのだが、それらを使うよりも攻撃魔法で焼き払った方が早かった。


 自分の力を試し、理解し、失敗を糧にして――


 二十階層の祭壇にやっと戻ってくることができた。


 高台から見下ろした街は、天球から降り注ぐ朝の光を受けて、ようやく眠りから目覚めようとしている。


 街の中央にある大聖堂の鐘楼から鐘の音が鳴り響いた。


 ナビは「やったねゼロ。ついに最果ての街に到着したよ。導く者としてここまで無事、キミを案内できたことを誇りに思うよ」と朝の日射しよりも明るい声を上げた。




 オークだったら二週間も掛からず到達できるのだが、たどり着くまでおよそ二十日ほどかかった。


 歩き慣れたはずの街の目抜き通りが、どこか一回り、広く大きく感じられる。


 行き交う人並みに威圧感すら覚えるほどだ。


「ここからはボクから話しかけるけど、ゼロは無理に人前で返事をしない方がいいかもしれないね」


 足下のナビに視線を落として小さく頷いた。


 前はその強面こわもてと身体のデカさもあって、人が勝手に避けてくれたが、掻き分けすり抜けるようにして歩く。


 まず目指すべきはエルフたちの共同体――錬金術士ギルドなのに、つい足が鍛冶職人ギルドの方面に向かいそうになった。


 もう、ガーネットには俺の事がわからないし、やり直すこともできない。


 そう思った矢先の事だ。


 建ち並ぶ露店のカラフルな天幕の先に、赤い髪と褐色肌の美女の姿を見つけてしまった。


 そして、何度となく見た光景がまたしても再現される。


 到着の日数は関係ないのか?


 疑問に答えが出ないままの俺の視界で、雑踏の中に白いローブがゆらりと揺れた。


 何冊も重ねるようにして、分厚い本を抱えた細腕が、ゆらゆらよたよたと歩いてくる。


 その進路上でガーネットは立ったまま、遠くの露店に視線を向けていた。


 俺は――


 止めなかった。ガーネットの名前を呼べば、彼女は俺の方に向き直る。そしてこっちに歩き出して、白いローブの少女とぶつかることもない。


 だが、そうなったら彼女と……ガーネットと知り合ってしまう。


 俺に関わったばかりに、彼女を逃れられない死の運命に巻き込んでしまうかもしれない。


 もちろん、そうならないことだって考えられる。

 

 今の俺はオークではなくエルフなのだから。まだ未来はわからない。


 迷っているうちに、ローブの少女がガーネットに自分からぶつかっていった。


「キャッ!」


 細身の少女は抱えていた本を道にばらまく。


 詰まれた本の塔に隠れていた少女の顔が露わになった。俺と同じく尖った長い耳はエルフのそれだ。


 髪は短くショートボブで、エルフらしく整った顔立ちである。やや幼い印象に見えるのは、サファイア色の青い瞳が大きいからかもしれない。


 ガーネットはエルフの少女を見下ろすようにして言う。


「気をつけな。ったく、これだからエルフってのはヤワで嫌いなんだよ。今度からは自分で持てるだけにするんだね」


 フンッ! と鼻を鳴らして胸っさり揺らし、赤毛の美女はスタスタと去っていった。


 その背中を見送る。寂しさを覚えながらも、俺は歩み出るとエルフの少女が落とした本を拾いあげる。


「大丈夫か?」


 金髪のショートボブを揺らしてエルフは青い瞳でじっと俺の顔を見つめた。


 無言だ。その眼差しに緊張が走る。


 俺がオークならいざ知らず、今は彼女と同じエルフなのだ。いきなり黒魔法で攻撃なんて……してこないよな?


 まだあどけなさすら残る少女の桜色の唇が、そっと開いた。


「な、なな、ナンパッスか? これっていわゆるナンパってやつッスか?」


 可憐な見た目とは裏腹に、出て来た言葉やしゃべり方のギャップにギョッとさせられた。




 これが黒魔導士にして錬金術士のエルフの少女――シルフィーネ・カライテンとの二度目の出会いである。


 どうやら一度目の悲惨バッド結末エンドは、回避できたようだった。



名前:ゼロ

種族:エルフ

レベル:45

力:G(0)

知性:C(77)

信仰心:G(0)

敏捷性:C+(79)

魅力:G(0)

運:G(0)


黒魔法:初級炎撃魔法ファイアボルト 初級氷撃魔法アイスボルト 初級雷撃魔法サンダーボルト

   中級炎撃魔法ファイアストーム 中級氷撃魔法アイスストーム 中級雷撃魔法サンダーストーム

   脱力魔法ディスパワン 対象の力を下げ攻撃と物理防御を弱める

   鈍重魔法ディスアグレ 対象の敏捷性を下げ速度や命中率を落とす


種族固有能力:エルフの目 魔法によって隠されたものを見つけ出す探求の眼差し


――隠しステータス――


特殊能力:魂の記憶 力を引き継ぎ積み重ねる選ばれし者の能力


種族特典:雄々しきオークの超回復力 休憩中の回復力がアップし、通常の毒と麻痺を無効化。猛毒など治療が必要な状態異常も自然回復するようになる。ただし、そのたくましさが災いして、一部の種族の異性から激しく嫌悪される。

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