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■停止

 そいつは純白の巨大な石像だった。


 材質はわからないが、遺跡平原に棲息するビスクーラを思い出す。


 筋骨隆々の巨人闘士。その腕は、かつて死霊沼地で戦ったアシュラボーンと同じ――三対六本。


 六本の腕を持つ魔人にして巨人が門を背に守るようにして、俺とガーネットの前に立ちはだかった。


 ナビがいればその名を知ることもできたかもしれない。


 体長十メートルほど巨人と対峙し、身構える。


 魔物というには神々しい姿をしていた。均整の取れた肉体美を再現したかのような姿は、動く彫刻であり芸術作品だ。


 まるで神の兵のような出で立ちだった。


 それでも倒さなければ俺たちは前に進めない。


 ガーネットが石火矢を構える。


「やっぱ次の場所に行く前に、祭壇でもなんでも門番ってのはいるんだねぇ。一気にいくよゼロ!」


「ああ……こいつを倒して門を開く!」


 ガーネットから火力支援パワゲインを受けると、俺は巨人の足に殴りかかった。


 巨人の動きはのろくて重い。一歩踏み出せばドシンと地面が揺れるほどだ。


 六本の腕を振り回すように殴る。その一撃を俺は全身で受けた。


「ゼロッ! こんのおおおおおおお!」


 ドガガ! ドガガ! ドガガ!


 ガーネットの石火矢が巨人の頭部で炸裂する。


 巨体がぐらりと後ろに下がり、神の兵は一歩下がった。


 俺はその巨大な腕に吹き飛ばされこそしたが、無傷だ。


 盾と鎧が衝撃をいなすように拡散させた。


 神代鋼の盾と鎧の性能は、世界を救ったという勇者の装備の名に恥じない。


 受け身をとって着地すると、巨人が体勢を整え直す前に、ガーネットの前に走り出て、星虹の巨鎚を振りかぶる。


 ガーネットも防具は強化されているが、巨人の一撃に耐えられるものではない。


 手を組んで巨人の腕がハンマーのように振り下ろされる。


 俺はその腕をしたから振り上げるようにした巨鎚で弾き上げた。




 ガゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!




 力負けしていない。相手の上からの振り下ろしも、押し返す威力が神代鋼の武器にはあった。


 オークは巨体だ。だが神兵に比べればはるかに小さい。


 ナビと俺が戦っているようなものだが、充分にこちらの攻撃が通じている。


「ガーネット! やつの膝を狙え!」


「あいよッ! アタイが崩してアンタがトドメだね!」


 俺の作戦は以心伝心でガーネットに伝わった。


 撃ち切ったカートリッジを交換して、ガーネットは巨人の左膝に集中砲火を浴びせる。


 俺も投げナイフを二発放った。


 神代鋼の弾丸とナイフが巨人の白色の身体を砕いた。


 大きな相手との戦い方は、地下迷宮世界で嫌ってほどやってきている。


 ガクンッ! と、巨人が膝を着いた。頭の位置が下がる。


 ガーネットは次のカートリッジに切り替えた。


 石火矢の砲身が氷結晶の冷却で間に合わない。過負荷を掛けて使えなくなる危険よりも、次の俺の一撃をより確実にする方を彼女は選択した。


「もう一発くらいなよ!」


 ガーネットが右膝に砲火を浴びせ、巨人が前のめりに倒れる。


 こうなれば頭は地についたようなものだ。


「行け! ゼロッ!」


「これで終わらせるッ!」


 ガーネットの声に背中をおされて俺は雄叫びを上げた。


 限界を超えた“力”を振り絞り、集中力を極限まで高める。


 チャージタックルで肉薄すると、弓の弦を限界まで引き絞るように力を溜めた。


 相手の反撃は無い。


 起き上がろうともがくが、膝を潰されてはどうにもなるまい。


「食らええええええええええええええええええええええええええええええッ!!」


 限界まで溜めた力を解き放ち、俺はラッシュを撃ち込んだ。


 一発、二発、三発、四発、五発、六発。


 渾身の六連撃が巨人の頭部を削り取るように、穿ち、叩き、潰し、粉砕した。


 巨人はその頭部を粉々にされて、ズウウンと地面に伏せたまま動かなくなる。


「やった……のか?」


 倒したという手応えは充分だ。


 たとえ巨人が自動人形のような、頭部が必ずしも急所とは限らない魔物だったとしても、倒した時の感触は残っている。


 だが――


 巨人は赤い光の粒子には変換されなかった。


「なんだってんだい? 倒したんじゃ……」


 焼け付いた砲身から白煙を上げながら、銃口を巨人に向けたままガーネットが呟く。


 次の瞬間、純白の陶器のような巨人の身体が……粉々にした肉片が時間を巻き戻したように元に戻った。


 そしてその表皮が白から変わる。


 透明な黄色い宝石か、水晶の塊のように。


 その巨体から重さが消えたように、巨人はゆらりと身を起こした。


 質量を感じ無い。その気配を俺はどこかで知っている。


「ったく。しつこい男は嫌われるよ!」


 ガーネットが再び、巨人の膝めがけて石火矢を撃ち込んだ。


 だが、その攻撃はあっさりと巨人の身体を貫通する。


 いや、すり抜けたといっても過言ではない。


 背筋が凍った。


 門番が復活したからだけではない。


 その透き通る身体は、まるで巨石平原に棲息するエレメンタルのようなのだ。


 もし俺の想像が当たっていたとすれば、最悪の結末しか待っていない。


 エレメンタルには物理攻撃は通じない。


 俺もガーネットも黒魔法は一切使えなかった。


「嘘……だろ……」


 巨人は六本の腕を広げた。


 それぞれに魔法力が集約し、空気がピリピリとヒリつく。


 ガーネットは撃ち続けたが、砲身が赤熱して石火矢が黒煙を吹いた。


「あははは……なんかヤバそうだね」


 今にも彼女は泣き出しそうだ。


 俺は彼女の前に立って神代鋼の盾を構える。


 六つの雷球が続けざまに発射された。お返しにしちゃ利子が付きすぎだ。


 もし、神代鋼の防具でなければ最初の一発でおだぶつだったに違いない。


 五発まで耐えたのは立派だ。さすがガーネットの作った装備だ。


 六発目で俺の身体は雷撃に焼かれた。


 膝を着く。


 巨人は同じ攻撃を繰り返そうとしていた。


 顔を上げるとガーネットの背中があった。


 彼女は両手を広げて俺を守ろうと盾になるつもりだ。


「やめろ……ガーネット……逃げて……くれ」


「逃げる場所なんて無いだろ? アンタの居場所はアタイのすぐそばさ」


 雷球が再び俺たちに降り注ぐ。


 ガーネットのこぼした涙は電撃の嵐に蒸発した。


 目の前で焼かれた彼女の背中が、俺の最後の記憶となった。


 どうあがいても、巻き込んでしまったら彼女は……ガーネットは死ぬのか?


 なら彼女の死は俺のせいなんじゃないか?


 もし次があるなら……俺は……。



――トライ・リ・トライ――


名前:????

種族:unknown

レベル:0

力:????

知性:????

信仰心:????

敏捷性:????

魅力:????

運:????

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