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ナビとは道連れ

 魔物たちは俺に向かってくるばかりで、ナビの事は同じ魔物とでも思っているらしく、まったく眼中にないようだ。まあ、ナビを守りながら戦うのは負担になるので、こちらとしては好都合だった。


 存分に目の前の敵に集中できる。戦闘のコツというか、要領もだんだんとつかめてきた。


 手傷を負うと回復に時間がかかるため、仕掛ける時は魔物が一匹だけのところを狙う。基本はタイマンだ。複数を相手に負けこそしないが、各個撃破なら反撃を受ける前に倒すことも可能である。


 一匹だけのはぐれ銀狼を狙ううちにレベル3になった。さっそくステータスをあげよう。


 転がしたステータストーンの出目は3か。他の項目には目もくれず、力につぎ込んだ。


 蒼穹の森には果実のなる木々も多い。甘みもなく皮も固いが、鈴なりの黄色い柑橘をもいで、果実で飢えと渇きを癒やすとまた戦う。食べることで回復力が上がるらしく、反撃を受けて負った手傷も数分休めばふさがった。頑健なるオークの肉体様々だ。


 そうこうしているうちに早くもレベルが4になった。振ったステータストーンの出目は5だ。力の数値が13になったところで、ナビから「そろそろGからFに上がるかも」と言われた。


 はぐれ銀狼も三体程度ならまとめて倒せるようになり、噛まれたくらいではどうということもなくなった。


「なあナビ。そろそろもう少し強い相手と戦いたいんだが?」


「それなら森の中心にある幻影湖まで出てみよう。先に進めば次の階層に続く祭壇もあるよ。魔物も強くなるはずさ」


 祭壇とやらにたどり着けば、次の階層に進めるのか。


「湖畔には小屋が建っているから、今夜はそこで休むといいかもしれないね」


 空を見上げると生い茂る木々の間から降り注ぐ光が、かすかに弱まりだしていた。


「こんな地下でも昼夜があるのか」


「光球はだんだんと赤くなって、夜になるとうすぼんやりと光る月みたいになるよ。階層ごとに昼夜はバラバラだから、この階層が昼でも次の階層が夜っていうこともあるんだ」


「まるで地底の太陽だな。いったい誰が作ったんだ?」


「それはボクにはわからないね」


 わからないといえば、そもそもナビについても知らないことだらけだ。


 茂みに分け入り獣道を進みながら、一歩先行く案内人に訊ねる。


「なあ、お前はいったい何者なんだ?」


「ボクはナビ。キミを導く者さ」


「それは最初に聞いたって。お前の目的はええと……なんだかの門を俺に開かせたいんだよな?」


「なんだかじゃないよ『真理に通じる門』さ」


「俺のことを助けてくれたし、恩に着るから協力するつもりだが、その門を開いてどうするんだ?」


 立ち止まると前を向いたままナビは続ける。


「ボクはここから出られないんだ。迷宮の外には地上世界が広がっているけど、そちらに行くことはできないからね」


「地上世界?」


 小動物の背中がどことなく寂しげに見えた。


「そうだよ。地上世界から冒険者たちが迷宮深く降りてくる。彼らは出入り自由だけど、ボクは地上世界に戻れない。キミはきっとボクと同じじゃないかな。たぶん地上世界には出られないよ。だから一緒に『真理に通じる門』を開いて、戻るんじゃなく先に進むしかないんだ」


「その肝心の門はどこにあるんだ?」


「それは……たぶん地下二十階層よりもさらに下だろうね。二十層にある最果ての街で情報を集めたいのだけど……」


 耳と尻尾をぺたんと下げてナビは溜息交じりだ。


「どうしたんだ?」


「ボクはキミにしか見えないし認知できない存在なんだ。最果ての街にはたくさんの冒険者がいるけれど、誰もボクの声に応えてくれなかった。キミがきっと最初で最後のチャンスなんだと思う」


 ますますうなだれるナビが不憫に思えた。


「わかった。俺がナビの代わりに街での情報収集も担当するぜ」


「ありがとうゼロ。キミは素晴らしい人物だ。それだけに、無茶はせずじっくり成長してから街を目指そう。死んでしまってはどうにもならないからね」


 焦りは禁物ってことだな。


「ボクは魔物に感知されないから二十層からここまでやってこられたけど、迷宮の地下十層より下は、本来なら熟練冒険者でも簡単には突破できないんだ。一層降りるごとに魔物も強くなるよ」


 道理で魔物たちがナビを無視して俺ばかりを襲うわけだ。


 こいつは俺にしか認知できない。冒険者で賑わう街でもずっと孤独だったんだろうな。


 俺が死んだらまた独りぼっちか。って、同情するより我が身の心配をした方がよさそうだ。俺が生き残ることが、こいつのためにもなるんだし。


「階層ごとの強さの目安はあるのか? 街に着くまで、だいたいどれくらいレベルを上げればいいのか教えてくれ」


「あくまでボクの見立てだけど、最果ての街にたどり着く冒険者のレベルは50前後じゃないかな」


「ここから十層降りる間に、自然とそれくらいにはなるんだろうな」


「十層から十一層に行くなら最低でもレベル5以上は欲しいね。ただ、同じレベルでもステータストーンの出目によって実力は違ってくるし、ボクは冒険者ではないから、ステータスの振り方について最適なアドバイスもできないんだ。ごめんねゼロ」


「謝るようなことじゃないだろ。教えてくれてありがとうな。ひとまずオークの肉体は頑丈で頑健だ。このまま力の項目を伸ばして、まずは二十階層にある街を目指そう。だからこの先も案内頼むぜ」


「うん。任せて。ボクが通ってきたのは最短ルートだけど、そういう道は決まって強力な魔物が塞いでいたりもするから、勝てない相手がいる場所は、機会を待つか迂回路を探すのもいいかもしれないね」


 今の俺にはナビが必要で、ナビもまた存在を認識できる俺を必要としている。


 迷宮を抜けるまで共同戦線だ。


 森を歩くうちに次第に空が赤く染まっていった。


 そのまま三十分ほど行軍する。四度、魔物の襲撃を受けたが、途中でレベル5になった俺の敵ではない。


 レベル上昇で得たステータストーンを使って、初めて6が出た。ダイス運も上向きだ。



名前:ゼロ

種族:オーク

レベル:5

力:F+(19)

知性:G(0)

信仰心:G(0)

敏捷性:G(0)

魅力:G(0)

運:G(0)



 力がGからFになった途端、すぐさま襲撃を受けた。茂みから唸り声を上げて無数の獣の影が跳ぶ。


 我ながら一極集中に過ぎると思うものの、はぐれ銀狼程度なら五匹に囲まれてもまったく怖く無くない。彼らの爪は俺の皮膚に傷をつけることもできず、肉を裂き骨を砕く自慢の牙も、今や甘噛みだ。


 じゃれつかれているんじゃないかと錯覚するくらいだった。


 反撃に転じた俺は、力任せの大ぶりはせず一匹ずつ拳で狼の頭を打ち据える。


 二匹三匹と倒すうちに、残りのはぐれ銀狼たちは臆したのか「キャインキャイン!」と声を上げて森の奥に跳ねるように逃げていった。


 結局、仕留められたのは三匹だけだ。敏捷性をまったくあげていないので、魔物と遭遇するとほとんど先手を敵に取られてしまう。


 まあ、こうしてカウンターで倒せるので問題無いわけだが、ああも逃げられると、やはりどうにも重たい身体で追撃は難しい。


 力以外のステータスにも割り振った方がいいんだろうか。ちょっと悩みどころだな。


 ナビの赤い瞳が暗い森にぼんやり光る。


「油断は禁物だよゼロ」


「大丈夫だって。しかし魔物に逃げられるとやっかいだな。手傷を負わせても倒さなきゃレベルは上がらないんだし」


 戦うほど強くなる。それにだんだんと快感を覚えつつあった。だからこそ敵を逃して取りこぼすのがもったいない。


 空の茜色が暗い青に染まりきったころ、ふと、鼻孔に湿り気を感じた。ナビもヒゲをピクリとさせる。


「そろそろ幻影湖が近いね」


 獣道を抜けると視界が拓けた。


 空には光球が薄ぼんやりと弱々しい光を浮かべている。その光球を波一つ立たない鏡面のような湖が、地上にも映していた。


 二つの月が水平線を挟んで並ぶ光景は神秘的だ。


「幻影湖の向こうに行けば魔物も強くなるよ。今夜はあそこで休もう」


 ナビの視線の先には丸太を組み上げて作られた小屋があった。


 ああいった建物は、地上世界の冒険者たちによる迷宮開拓時代の名残だと、ナビは俺に教えてくれた。


 休むにはうってつけだな。


 一眠りして明るくなったら、すぐに出発しよう。

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