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決戦準備

 大深雪山から戻ってから一週間が過ぎた。


 ついに火炎鉱山の最奥に向かうための装備作りが始まり、俺はといえばその間やることが無かった。


 ガーネットが大枚叩いて集めた素材が高度過ぎて、手伝うどころか触らせてすらもらえない。


 彼女が言うには、雪山での戦いや発掘の経験でレベルアップできたという。


 戦う以外にも経験を積む方法はあるようだ。


 ガーネットの武器屋のカウンターにつき、留守番兼店番をする俺の足下でナビが目を細めた。彼女は今朝早くからエルフたちが集まる錬金術士街に、注文の品物を取りに行ったきりだ。


「最近のゼロは魅力に磨きが掛かっているね」


「新しく覚えたスキルがアレだからな。最初からやり直せるなら信仰心に振り直したいくらいだ」


「そのためにはレベルを下げて経験を積み直さないといけないよ」


 あくび混じりに前足で顔を洗うナビをじっと見つめて確認した。


「できるのか?」


「さあ、ボクにはわからないけれど、方法はあるみたいだね」


 ナビが小耳に挟むくらいには、街にそういう噂も流れているらしい。


「そろそろお昼だねゼロ? お客さんは来ないみたいだよ」


 カウンターを出て店の外の看板をクローズドにすると、施錠して一階のキッチンに向かう。


 ガーネットが作り置きしておいてくれたサンドイッチを食べた。


 このまま休憩していても良かったんだが……。


 俺はナビを引き連れて工房に入る。


 炉に妖精の種火を灯してナビに訊いた。


「俺が海底鉱床で初めて手に入れた金鉱石なんだけど、出せるか?」


「おやすい御用さ」


 ナビの額の紅玉が輝き、テーブルの上に金鉱石がごろんと転がった。


 ガーネットほどではないけれど、今ではもう少しグレードの高いレアな鉱石も加工できるようになったのだ。


 いつか彼女が言った言葉を思い出す。


 相手のことを考えて、気持ちのこもったプレゼントならもらえばなんでも嬉しい……と。


「何か作るのかい?」


「ああ。次の火炎鉱山がガーネットとの最後の冒険になるかもしれないしな」


 毎晩指を絡め合い身を寄せ合って同じベッドで眠った経験が、こんなカタチで役に立つとは思わなかった。


 金鉱石を炉で製錬し、純度の高い金にすると、以前に製錬した銀と銅を加えて合金にした。ガーネットから教わった装飾用の割合だ。


 できあがったイエロゴールドを、ガーネットの薬指のサイズに合わせてリングに加工した。


 ゴツゴツとした指先が恨めしい。


 彼女なら、細やかな彫金や宝石を埋め込んだりもできるだろうに。


 俺に作れるのは素っ気ない金の輪くらいなものだ。


 だからこそ、研磨に時間を掛けて地金の美しさを引き出すことに“集中”した。


 スキルを使った甲斐もあり、手触りの良いシンプルな金の指輪の完成だ。


 作業に熱中してしまい午後の開店が少し遅れたが、客足はほとんど無い。


 店の前の看板にはこう書かれているからだ。


『閉店セールにつき新規依頼は受けられません』


 店内在庫の汎用性の高い高性能な特価品はセール初日に飛ぶように売れてしまい、店の中は買い手のつかなかったガーネットの創作珍兵器(チェーンに鎌がついていたり、矢を連続で飛ばすクロス・ボウただし激重い)が残るばかり。


 空いたスペースには申し訳程度に、俺が作った鍬やら鋤といった農耕具が並んでいた。


 ガーネットの腕前を見込んで求めに来る客がいないとなれば、午後の営業も閑古鳥の鳴き声しか聞こえなさそうだな。


 店を畳むとガーネットは決めた。決意した。


 火炎鉱山の主と対決する覚悟だ。たった二人で。


 そのための準備は着々と進んでいた。




 営業終了まで客らしい客は現れず、再び看板をクローズドにするとガーネットが荷物を抱えて戻ってきた。


「いやぁマジでぼったくりだっつーの!」


 ぼられたというわりに、彼女は上機嫌だ。


「んじゃあ、加工は明日にして飲みに行こっか!」


 俺は本日の売り上げについて報告し、客足の無いことに納得済みなくせに「商売の才能無いなぁゼロって」とガーネットは冗談めかす。


 もし俺たちが街に戻らなければ、一週間で店は競売に掛けられることになっていた。


 短い間なのに、もうすっかり自分の家のように思っていたので寂しい気持ちはあるが、それも仕方の無いことだ。


 錬金術士街で仕入れたアレやコレやを工房の金庫に押し込んで、今夜もガーネットと二人、夜の街に繰り出した。


 岩窟亭ではいつものピッチャーを頼んで乾杯し、個別に注文しなくても「いつものやつ」の一言で、お気に入りのツマミがテーブルにずらっと並ぶ。


「んでさーエルフの連中ってば、マジでドワーフだからって足下見やがって……けど連中やっぱすごいわ。炎鉱石ってさ、アタイらが鎚で鍛えりゃ火炎鋼になるじゃん? エルフにかかるとコレが獄炎粉塵レッドパウダーってのになるわけ」


「なんだその粉は? 辛そうだな」


 真っ赤な香辛料をたっぷりまぶしたスペアリブに食らいついて、ガーネットは続けた。


「辛いどころじゃないって。爆発すんだから。で、まあ危なっかしいんだけどさ、これはアタイの試練なんだから、ゼロと一緒に戦いたいんだよ」


「無理は禁物だぞ」


「二人しかいないんだから二人で成し遂げたいでしょー。だいじょーぶ。遠距離から攻撃できるように、アレコレ考えてあるのさね。実家じゃ門外不出の工法とかねぇ」


 目尻をトロンと落として彼女は口元を緩ませる。


「もちろん火炎鉱山向けに、アンタの流星砕きも改良するよ。炎熱環境特化仕様ってやつね。投げナイフも氷塊石から削り出して錬金加工したやつを十本用意したから」


 ちなみに、もしこの投げナイフを店で売るなら一本三百万メイズはくだらないのだとか。


 予備の投擲武器だけで三千万メイズか。


 さらにガーネットは攻略のための装備について、そのこだわりや機能性を価格情報を交えて教えてくれた。


 俺にかかった総額は三億メイズほどだ。しかも火炎鉱山専用の装備である。


 ニカッっと笑ってガーネットは締めくくった。


「まあ死んじまったらいくらため込んでても仕方ないし、かかった金額のほとんどはエルフに依頼した錬金加工賃みたいなもんだから、気負わず使い潰してくれよ。あっはっは」


 俺の懐に隠した金の指輪は高めに見積もっても八万メイズが関の山だ。


 価格じゃない。気持ちが大事だとはいえ、ガーネットに渡すのは気後れしちまうな。




 翌日――全ての装備が揃って工房にて二人と一匹でのお披露目会となった。


 俺の武装は変わらず重装甲&重武装だ。


 アラミダ布の服にも錬金加工が施され、より炎や熱に耐性が付与された。


 火炎鋼アグニウム完全甲冑フルプレートは改められた。


 氷塊石を加工した氷結晶フラクリスタルと、軽量高強度な聖白金セイクリスティニウムと組み合わせた全身鎧に変更だ。


 兜も顔を覆うフルフェイスのもので、白金の地金に氷結晶の青が映える聖騎士のような出で立ちとなった。まあ……オークの俺に合わせて作られたものだけに、スマートさには欠けるのだが。


 腕に装着するタイプの大盾も氷結晶と聖白金の組み合わせによるものである。


 ベルトにはガーネットが削り出し、錬金術士の技によって貫通力を増した氷結晶製の投げナイフ。


 そしてメイン武装となる流星砕きにも氷結属性が付与された。


 ガーネットも動きやすいピッチリとしたボディースーツだが、星屑砂漠の流砂川の底を泳ぐというサハラマンタという巨大エイの魔物の皮で作った特注品だ。


 青白い皮は熱と冷気のどちらも遮断するらしい。薄く素肌のような手触りで、まるで何も身につけていないような軽さながら、通気性も強度も一級品だそうな。


「下着つけてないからゼロには刺激が強いかもねぇ」


 こちらにお尻を向けて突き出すようにすると、サハラマンタの白い皮が柔軟に伸びて、うっすらと彼女の薄褐色肌が浮かんだ。


 本当に薄手なのだ。というか……もはや服と言っていいのかわからない。


 そんなサハラマンタのボディースーツに、氷結晶と聖白金の軽鎧を身につけた。武器も氷結晶加工を施した戦鎚だが、これはあくまで予備だという。


「じゃっじゃーん! アタイの得物はコイツさ」


 手持ち式の石火矢だった。金属部分は聖白金で、銃身を冷却するために氷結晶が巻かれた持ち手がついている。


 銃床には世界樹上で採取できるという、世界樹の硬木がふんだんに使われていた。


「石火矢なんて一発撃ったら再装填に時間がかかるんじゃないか?」


「ふふっふ~ん! アタイの実家は勇者様御用達なんだよ? コイツを使えば連発できるんだよねぇ。錬金弾頭は高くついたけど、試射したらエルフの魔法使いが驚いてたよ。

 一発の威力が上級魔法レベルだってさ。まあ厳密に言えば魔法じゃないんで、弓矢みたくきっちり狙って当てる必要があるし、エレメンタルにも通じないとか言ってたけどねぇ」


 魔法は敏捷性が低くても誘導するが、石火矢は弓矢のように使い手の技量が必要……ってことか。


 赤毛の鍛冶職人は指で金属の小さな筒をつまみ上げた。


 筒の先端に、氷結晶の弾頭が装着されている。ガーネットが言うには、この筒の中に獄炎粉塵レッドパウダーと発火用の石火が組み込まれているのだとか。


「で、キモになるのがこの薬莢ってやつ? 獄炎粉塵レッドパウダーの爆発力を利用して、氷結晶の弾頭を撃ち出すって寸法なわけ」


 この薬莢が十発入ったケースを、石火矢に装着して使うというのだ。


 ドワーフの技術……恐るべし。ちなみに、弾丸一発で五百万メイズ。カートリッジ一つが五千万で、それをガーネットは八つほど作成したのだとか。


 金の力に物を言わせるだけでなく、知識とコネと技術も総動員だ。




 火炎鉱山の主との戦いの結末は、この時すでに決まっていた。




名前:ゼロ

種族:オーク・ハイ=スピード

レベル:85

力:A+(99)

知性:G(0)

信仰心:G(0)

敏捷性:A+(99)

魅力:B(82)

運:G(0)

余剰ステータスポイント:0

未使用ステータストーン:0


装備:流氷砕き レア度S+ 攻撃力223 火炎属性の敵に50%の追加ダメージ

   黒曜鋼オブシディナの手斧 レア度B 攻撃力87

   氷結晶フラクリスタルの投げナイフ レア度A 攻撃力107 火炎属性の敵に30%の追加ダメージ 敵を氷結させる効果あり

   氷結晶フラクリスタル騎士甲冑ナイトメイル一式 レア度S 防御力205 魔法も含む火炎属性攻撃を70%軽減 盾で守ることでAランク以下の炎熱攻撃を完全遮断

   火炎鉱山向けの上質な服一式


スキル:ウォークライ 持続三十秒 再使用まで五分

   力溜め 相手の行動が一度終わるまで力を溜める 持続十秒 再使用まで三十秒

   ラッシュ 次の攻撃が連続攻撃になる 即時発動 再使用まで四十五秒

   チャージタックル 攻撃対象を吹き飛ばす体当たり 即時発動 再使用まで三十秒 ラッシュとの併用不可

   集中 一時的に集中力を上げて『行動の成功率』を高める 再使用まで五分

   投げキッス 再使用まで0秒

   熱い抱擁 相手を抱きしめて身動きを封じる 魅力の高さに応じて抵抗されなくなる 再使用まで三十秒


種族特典:雄々しきオークの超回復力 休憩中の回復力がアップし、通常の毒と麻痺を無効化。猛毒など治療が必要な状態異常も自然回復するようになる。ただし、そのたくましさが災いして、一部の種族の異性から激しく嫌悪される。


恋人:ガーネット

種火:妖精の種火

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