降りしきる夜は二人のために
降り積もった純白が山肌を覆い隠し、天球から降り注ぐ陽光をを反射して眩しかった。
目を細める俺の腕にしがみつくようにして、ガーネットがブルッと震える。
「あー。マジめっちゃ寒いんだけど」
「その新しい服は寒くないよう仕掛けがしてあるんだろ?」
「ん~まぁね。最上級の夢見羊の革と、関節のとこはラテクシアの樹液を固めた弾力素材で密着ピッチピチのムレムレだかんね。けどさ、ほっぺたとか寒いじゃん」
火炎鉱山で掘り出した炎鉱石から製錬した火炎鋼も仕込んであるため、吹雪の中でも体温を保てると自慢していたのだが……。
「つーか、アンタの鎧ってば温かいねぇ」
大深雪山に入って本領発揮と言わんばかりに、俺の鎧も発熱を始めた。
昼間の砂漠には着ていけないが、雪山では心強い。
俺にくっついて離れないガーネットに確認する。
「それで氷塊石はどの辺りで採掘できるんだ?」
「頂上付近だろうねぇ。標高が高いと空気も薄くなるし、ちょっとずつ身体を慣らしていった方が動けるって話さね」
足下でナビが前足で顔を洗いながら付け加えた。
「オークの環境適応能力なら、そんなに気にする必要は無いだろうね。ただ、彼女は寒さにも弱いから、いきなり山頂を目指すのはオススメできないよ」
小さく頷いて返す。しばらくガーネットには過酷な環境が続きそうだ。
「そろそろ出発しようか?」
「つーか話変わるんだけど、こういう真っ白なとこでおしっこしたらなんか楽しそうじゃない?」
「変わりすぎだろまったく」
大深雪山には整備された山道に、いくつか小屋が建っている。
冒険者たちによる開拓時代の名残だ。
まだ明るいうちに、最初の目的地である五合目の山小屋を目指すことにした。
この合目というのは攻略難易度で、道の険しさだけでなく魔物の強さも意味する。
岩窟亭やギルドで訊いた話だと、五合目を境に雪山の魔物は豹変するらしい。
まるで猫のように目を細めて、ガーネットは微笑む。
「やっぱ帰る?」
「せっかく装備も整えてここまで来てそりゃないだろ」
「登るのしんどいなぁ。おんぶしてってよ!」
「テントだの食料だの諸々入ったリュックで背中側は埋まってるんだ」
「じゃあじゃあお姫様抱っこ!」
「坑道じゃあんなに元気なのに……っと」
俺は軽々とガーネットの身体を持ち上げて抱えた。
「う、うわっ! ホントにやるとか思わなかったんだけど」
「自分で頼んでおいてなんて言い草だ」
「やったー! 楽ちんじゃん」
普通に喜んでるな。まったく。
「魔物に襲われるまでの間だけだぞ」
「このまま抱いて逃げてよゼロ! どこか遠くの誰もアタイらの事を知らない街までさ」
「はいはい」
またいつもの冗談で俺を振り回そうとしやがって。
「ひっでーな! 軽く流すなんてさ。アタイは……う、ううんなんでもない! ほら行け進め! はいどーはいどー!」
馬扱いか!
通り抱きかかえたまま、俺は雪道を歩き始めた。
しばらくすると、俺の腕の中でガーネットはすやすやと寝息を立てだす。鎧の発熱がちょうど温熱効果になって心地よいのかもしれない。
山道を行く。麓側ではなく、山頂に続く傾斜の深い道を選んで登った。時折、分かれ道があるとナビに確認する。
「鍛冶職人ギルドで得た情報だと、一旦下ってから登るルートが正解みたいだね」
「ありがとうなナビ。助かるよ」
魔物の襲撃があるまでとガーネットに断りを入れたのだが、どうやら強くなりすぎたみたいで、魔物が一向に襲ってこない。
彼女を抱えたままの雪山登山になってしまった。
空が茜色に染まる頃――
「ふあああああ! よく寝たわぁ。っていうかもう夕方!?」
「魔物が襲ってこなくてな」
「あ、ごめん。なんかさ……いくらアンタが力持ちでも大変だったろ?」
「らしくないぞガーネット。それにお前一人抱えて歩くくらい、どうってことないって。このまま山頂までだって行ける気がするよ」
腕の中でガーネットが金色の瞳を輝かせる。
「つまりそれって、愛する人のためならなんのそのってことだよね? ホント、アンタってばアレだな。ツンデレってやつだな」
真顔で言われて俺も焦る。フルフェイスのバケツみたいなヘルムのおかげで表情を読まれないのが救いだ。
無事、今日の目的地となる五合目の山小屋に到着した。
この辺りまでは木々も生えているのだが、先に進むほど植物の背は低くなり、山頂付近はほぼ岩山だ。
万年雪に閉ざされて白い吹雪が止むことはないらしい。
小屋の近くで薪を拾う。生木も細い枝を選んで黒曜鋼の手斧で切って集めた。
すっかり辺りが暗くなると、気温はぐっと落ちこんだ。テーブルの上に魔力灯のランプを置き、小屋の暖炉に薪をくべて、妖精の種火で火を灯す。
パチパチと木々が小さく音を立てて爆ぜた。種火は普通の炎よりも力強く燃え、暖炉の火の勢いが安定したところでそれを携帯コンロに移す。
ナビは暖炉の前で丸くなった。ここが自分の定位置と言わんばかりだ。
手鍋に新雪を入れ、コンロに掛けて熱して湯を沸かす。
寝袋の準備を終えて、ガーネットが不意にボディースーツを脱ぎ始めた。
「やっと部屋がぬくくなってきたねぇ」
「脱がない方が温かいんじゃないか?」
「まあそうだけどさ。明日からテントだし、こうしてノビノビできるうちにしときたいじゃん。アンタも鎧着たままじゃ身体が休まんないでしょ?」
脱がないなら脱がせると、ガーネットの瞳が語っていた。
「そんな目でみるなって」
重い鎧を脱ぎ捨てる。白雲羊の服は、モフッとしていて暖かい。正直、地底湖島に長居したくない服と鎧だ。
肩の荷が下りたような安堵感とともに、空腹が襲いかかってきた。
「んじゃあ夕飯にしよっか?」
干し野菜と豆を湯で戻し、調味料を加えたスープをガーネットは手早く作る。
それにチーズとパンに肉の燻製というメニューだ。
食事の前にガーネットが小瓶を二つ、彼女のリュックから取り出した。
「教会で分けてもらった強化葡萄酒だよ。五年熟成の上物さ。麦酒と違って強いから、一気に飲むとバカになるんで気をつけなよ?」
開栓して互いの瓶の口を軽くチンっと合わせると、一口舐めて驚いた。
琥珀色の酒は喉をカアッと熱くさせる。塩気の強い燻製肉やチーズにぴったりだ。
彼女の作ったスープと合わせて、身体が内側から温まる。
ガーネットが上機嫌に笑った。
「麦酒もいいけど、こういうところで一杯やるのもけっこう良いじゃん。寒いのは苦手だけど、酒とつまみとアンタがいれば、案外雪山も楽しいわ」
食事で腹も満たされ、小瓶の酒もゆっくりと空にした。
食べ終えると俺の隣に腰掛けて、こちらに頭を寄りかからせながらガーネットはじっと俺の顔を見つめる。
「なんかさ……ちょっと大きくなってない?」
股間のあたりに手を添えて、元も子もないことを言うなよ。
「き、気のせいだろ」
「さっきまでずっと寝てたから、今夜ぐっすり眠れるかわかんないんだよねぇ。寝る前に軽く運動をすれば、スッと寝入って明日への鋭気が養える……みたいな?」
繊細な指先がズボンの布越しに俺の大事な急所を撫で始める。
「運動って……」
酒が入ったガーネットは止まらない。
「本当に気のせいかどうか、アタイが調べてあげるよ。代わりにアタイのもさ……調べてごらんよ」
胸を包む布地をそっとずらして、形の良い双丘をぶるんとさらけ出す。
彼女のピンク色の先端は張り詰めたようにツンとして、触れると痛々しいほど固くなっていた。
「あんっ……ホント……ごつい指だねぇ……けど……好き……好き……大好き……」
熱い吐息まじりにうっとりとした表情を浮かべると、彼女はそっと俺に唇を重ねる。
ぎゅうっと首に腕を巻き付けるようにしてガーネットは抱きつく。
その赤い髪を不器用に撫でると、甘いワインとも彼女の匂いともつかない芳香に、一層酔いが廻る。
そのまま俺たちは朝を迎えるまで求め合い、お互いの身体を貪り合うように一つになった。
名前:ゼロ
種族:オーク・ハイ=スピード
レベル:77
力:A+(99)
知性:G(0)
信仰心:G(0)
敏捷性:A+(99)
魅力:D(56)
運:G(0)
余剰ステータスポイント:0
未使用ステータストーン:0
装備:流星砕き レア度S 攻撃力221
黒曜鋼の手斧 レア度B 攻撃力87
火炎鋼完全甲冑 レア度A 防御力171 魔法も含む氷結属性攻撃を50%軽減 火炎属性の被ダメージが20%増加
大深雪山向けの服一式
スキル:ウォークライ 持続三十秒 再使用まで五分
力溜め 相手の行動が一度終わるまで力を溜める 持続十秒 再使用まで三十秒
ラッシュ 次の攻撃が連続攻撃になる 即時発動 再使用まで四十五秒
チャージタックル 攻撃対象を吹き飛ばす体当たり 即時発動 再使用まで三十秒 ラッシュとの併用不可
集中 一時的に集中力を上げて『行動の成功率』を高める 再使用まで五分
投げキッス 再使用まで0秒
種族特典:雄々しきオークの超回復力 休憩中の回復力がアップし、通常の毒と麻痺を無効化。猛毒など治療が必要な状態異常も自然回復するようになる。ただし、そのたくましさが災いして、一部の種族の異性から激しく嫌悪される。
恋人:ガーネット
種火:妖精の種火




