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おさらい迷宮世界

 俺たちはさかのぼるように迷宮世界を地上に向けて進んだ。


 世界樹を通り火炎鉱山を迂回する。


 死毒沼地では不死の魔物が力量差も考えず、俺とガーネットに襲いかかってきた。


 祭壇を守る巨人ドクロだが……正直敵じゃない。ワンパンKOだ。


 道中、あれだけ苦戦し、戦い方を工夫して倒した骸骨戦士のアシュラボーンも、流星砕きの一振りで文字通り粉砕する。


 その先の地底湖島にたどり着く。巨人ドクロと同様、祭壇の守り手である巨大イカも楽勝だった。


 島を繋ぐ橋を渡る。魔物たちは俺たちを避けるように逃げ惑った。


 ちょっと気分がいい。


 月明かりが照らす夜の水平線が、どこまでも広がっていた。階層ごとに時間がずれているので、死毒沼地が朝でも次の階層では夜なんてことはザラである。


 休憩がてら、祭壇と祭壇の中間地点の島で白い砂浜にガーネットと並んで座る。


 ナビは波打ち際までトテトテ歩くと、寄せては返す波を前足で捕まえようとしていた。まるでじゃれついているみたいだ。


 さざ波の音に癒やされながら、月明かりを降らせる天球をみてガーネットは言う。


「麦酒飲みたいわぁ……さっきのイカ焼いたら美味そうじゃん。つまみにぴったりなのに素材になんないなんてついてないねぇ」


「情緒もなにもあったもんじゃないな」


「いいじゃん! あーもぅ昼間ならちょっと泳いでいくのに」


 ガーネットは砂浜にパタンと背中から倒れて大の字になった。


「これから雪山に行くんだから、余計な消耗はしないほうがいいんじゃないか?」


「…………なあゼロ。アンタの夢はなんなんだ?」


「俺の夢?」


 じっと星の無い夜空を見上げたままガーネットは続けた。


「そうだよ。夢さ。今はこうしてアタイの夢のために、アンタは力を貸してくれてるだろ? だったらアタイもアンタの夢を応援したいんだよ」


 俺は小さく首を左右に振る。


「ガーネットからはもう充分にもらったさ。鍛冶の技術だってオークにしちゃなかなかのもんだろ?」


「ドワーフ基準じゃめっちゃ下手くそだけどね!」


 これには苦笑いしか出ない。本当に正直だなガーネットは。


「武器も防具もこうして用意してもらった。稼ぎ方も教えてもらった。実際に俺が稼いだ分なんて、対価としては安すぎるくらいだ。俺はほら……腕力くらいしか取り柄がないから、せめてそれでガーネットに恩返しさせてほしいんだ」


「アタイが好きで勝手にしたことなんだから、別にいいのに」


 ゆっくりと上体を起こして、身体についた砂を軽く叩きながら彼女は溜息をつく。


 髪の毛についた砂を俺はそっと撫でるようにはらった。


 優しく撫でるように。こういった動作が苦手なごつい指先が、今は少しだけ恨めしい。


 ガーネットは何か思いついたように目を丸くさせて俺の顔を見上げる。


「……あっ! 簡単な事じゃんか。恩返しだのなんだのはアタイにゃどーでもいいんだ。アンタの夢を勝手に応援するよ。そうすりゃ……もう少しだけ一緒にいられるだろ」


 そのまま肩を寄せると目を細めて、ガーネットは俺に体重を預けるようにした。


「最近、毎日が楽しいのさ。アンタみたいな男と出会えて幸せだよ。だからアンタにもアタイと同じような気持ちになって欲しいんだ。恩だのなんだの義務感とかじゃなくて、ただ一緒にいて気持ちいい関係ってやつさ」


 気持ちが少し軽くなる。少なからずガーネットに義務感のようなものを抱いていた。


 それを彼女は取っ払おうとしてくれているんだ。


「俺も……ガーネットのことは好きだ」


「なんだ……相思相愛ってやつじゃん。あっはっはっは。実はちょっと心配だったんだよね。順番が逆っていうかさ。身体の関係が先で気持ちが後になっちまったよ」


 嬉しそうに笑うと彼女は俺の頬にそっと唇を当てる。


「お互い、いつ死ぬかもしれないけど……許す限りの時間、楽しもうぜ」


「ありがとう。ガーネットって優しいんだな」


「とーぜんじゃん! イイ女だもん」


 自信満々に胸を張ると、ぴったりと密着したボディースーツ越しの胸がブルンと揺れた。


 目の毒だ。おかしいな。オークは毒に耐性があるのに、彼女からにじみ出る魅力にはあらがえない。


「そ、そろそろ先に進むか」


 立ち上がろうとして中腰で一旦動きが止まった俺に、ガーネットは「ちょっと股間の部分の採寸間違ったかもしんないねぇ」と、レギンスアーマーの股間部分をコツコツとノックした。


「戦闘中に興奮していきり立ってもいいように、出っ張ったデザインに改良しよっか? 股間に角とかヤバくない? 奥の手で魔物にズブリ! ってのどう?」


「どう? じゃないだろ! 恥ずかしいからやめてくれ!」


 それなら褌と腰蓑だけのほうがマシだっての。


 


 第十五階層には相変わらず何も無い。


 地面と壁と天井が白い継ぎ目の無い石のような素材で繋がっている。


 祭壇から祭壇まで遮るものもなく、今回も素通りだ。


 赤髪を左右にゆらしてガーネットはぐるりと見渡す。


「にしても変な場所だよねぇ。神様がここだけ世界を作り忘れちまったみたいでさ」


 歩きながら首を傾げる彼女に「そうだな」と、俺も頷いて返した。


 そもそも誰が何の目的でこの迷宮世界を作ったんだろうか。


「ガーネットは誰がこの地下迷宮世界を作ったと思う?」


「誰ってそんなの神様しか無理だし」


「じゃあ、なんで神様は外の世界とは別に、外の世界の環境を切り貼りして階層分けしたような、こんなヘンテコな世界を作ったんだろうな」


「それはえーと……わからん。つーか、わけわからんことで良いことは全部光の神様のおかげ。悪い事は邪神のせい。世の中全部それでまわってるんだからいいじゃん。妙な理屈こねくり回してると、そのうちエルフみたいに耳がとんがるよ?」


 それもそうかもしれないが、この迷宮世界には奇妙な事や気になることも少なくない。


 何より意味がわからないのは、俺自身の存在なんだが……。


 今日まで自分以外にunknownと遭遇したことは無かった。




 巨石平原の祭壇から出るなり、懐かしい魔物が襲ってきた。


 純白の陶器のような巨大ビスクーラ――白亜の女神である。以前はその動きや魔法に翻弄され苦戦を強いられたが、チャージタックル一発で魔物は砕け散り赤い光に変換された。


 ナビが光の粒子を額の宝石に納めて告げる。


「最果ての街まで到達した冒険者にとっては、祭壇を守る魔物はまったく障害にならないね」


 それだけ自分が強くなったと実感できる。


 が、油断は禁物だ。巨石平原には物理攻撃が通じないエレメンタル系の魔物がうようよしている。


 巨石群を目印に、ルートを外れないよう進んだ。


 案の定、魔物の大半は俺たちに恐れを成して逃げて行き、無事――目的の大深雪山にたどり着いたのだった。


名前:ゼロ

種族:オーク・ハイ=スピード

レベル:77

力:A+(99)

知性:G(0)

信仰心:G(0)

敏捷性:A+(99)

魅力:D(56)

運:G(0)

余剰ステータスポイント:0

未使用ステータストーン:0


装備:流星砕き レア度S 攻撃力221 

   黒曜鋼オブシディナの手斧 レア度B 攻撃力87

   火炎鋼アグニウム完全甲冑フルプレート レア度A 防御力171 魔法も含む氷結属性攻撃を50%軽減 火炎属性の被ダメージが20%増加

   大深雪山向けの服一式


スキル:ウォークライ 持続三十秒 再使用まで五分

   力溜め 相手の行動が一度終わるまで力を溜める 持続十秒 再使用まで三十秒

   ラッシュ 次の攻撃が連続攻撃になる 即時発動 再使用まで四十五秒

   チャージタックル 攻撃対象を吹き飛ばす体当たり 即時発動 再使用まで三十秒 ラッシュとの併用不可

   集中 一時的に集中力を上げて『行動の成功率』を高める 再使用まで五分

   投げキッス 再使用まで0秒


種族特典:雄々しきオークの超回復力 休憩中の回復力がアップし、通常の毒と麻痺を無効化。猛毒など治療が必要な状態異常も自然回復するようになる。ただし、そのたくましさが災いして、一部の種族の異性から激しく嫌悪される。


恋人:ガーネット

種火:妖精の種火

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