鬼棍棒
ガーネットと組んで火炎鉱山を攻略してから十日が経った。
魔物は強さを増しているが、流星砕きの威力は絶大だ。
地下四階は巨大な空洞で、そこかしこに溶岩だまりがあった。足下に注意も必要だが、空間が広いだけに上方も警戒しなければならない。
両翼を広げれば五メートル近い巨大怪鳥――火吹きコンドルが炎の息をまき散らしながら、空中から襲ってくるのだから。
ガーネットがすかさず俺に魔法をかけた。
「遮炎防壁!」
炎熱防御の白魔法は、薄い膜のように俺の身体を優しく包み込む。
タッチの差で火吹きコンドルの炎の息も、渦巻きながら俺の身体を焼いた。
「グアッ……っついだろうがこの野郎!」
熱いで済むのは魔法のおかげだ。ガーネットの遮炎防壁は通常の炎はもちろん、ファイアボルトなどの魔法的に発生した炎も防いでくれる。
おかげで黒焦げになるのを免れた。
すぐさま投げナイフで怪鳥の風切り羽を撃ち抜くと、空中要塞のような巨体がバランスを崩して落下する。
墜落地点に走り込みラッシュで仕留めると、火吹きコンドルは赤い光に溶けて消えた。
「なんかアタイ、あんま役に立ってなくない?」
戦鎚片手に一流鍛冶職人は少しだけ寂しそうな顔をする。
「ガーネットがいなきゃ最初の炎に巻かれた時に、致命傷だっての」
俺のそばに歩み寄ると、ガーネットは初級の回復魔法で癒やしてくれた。
彼女の手からかざされる癒やしの光が心地よい。
「そっか。だよねぇ。アタイがいなきゃアンタはダメなんだ。うんうん」
嬉しそうに納得してガーネットは笑う。俺が攻撃に専念できるのも、彼女のサポートあってのことだ。
さらに進むと今度は炎のたてがみをまとった、あばれ炎獅子と遭遇した。
体長およそ三メートル。鋭い爪に牙を備えた猛獣だ。
ガーネットの火力支援を受けて、俺は魔物にチャージタックルを仕掛けた。
一歩目から最高速に達する加速力で、あばれ炎獅子の意表を突く。
肩口から体当たりをぶちかまし、怯んだところにガーネットが俺の背後から飛び出して炎獅子の顔面に戦鎚を叩き込んだ。
打ち合わせなしでも呼吸ぴったりの流れるような連携攻撃である。
巨大肉食獣が誇る炎のたてがみは触れる者を焦がすが、ガーネットはものともしない。
苦し紛れに炎獅子が前足を無茶苦茶に振り回した。
「危ないガーネット!」
前に出たままの彼女の腕をとって、後ろに軽く放り投げる。
「――ッ!? いきなりなにすんのさ!」
すぐさま背中越しに飛んでくる抗議の声を気にせず、軽銀鋼の丸い盾を構えて俺は爪の乱撃を受けた。
ガギンガギンガギンガギン!
ガーネットが鍛えた盾がかろうじて三発目まで防いだものの、最後の爪の一撃が盾を切り裂いて俺の上腕を軽くえぐった。
「ッシャコラヤンノカテメェエエエエエエエ!」
言葉というよりも吠え声のような雄叫び(ウォークライ)をあげて、あばれ炎獅子の頭を流星砕きでスタンプする。
地面と超重量の金属塊に挟まれて、巨獣の頭はへしゃげると四肢からガクンと崩れ落ち、あばれ炎獅子は横たわったまま動かなくなった。
ゆっくり光に還る姿を確認してから、だらりと垂れ下がった自分の左腕をみる。
久しぶりに受けたけっこうな痛手だ。さすが火炎鉱山も地下四階ってとこだな。一筋縄じゃいかなさそうだ。
「だ、大丈夫ゼロ!? あぁ……ごめん。アタイが勝手に前に出すぎたから……」
「今のでだいたい戦い方もつかめたな。この調子でがんばろうぜ」
「う、うん……そうだね。ほら、傷をみせて。あっ……盾がおしゃかだねぇ。今日はちょっと早いけど、これで上がりにしよっか?」
俺の腕をいたわるようにガーネットは初級回復魔法で癒やす。
「もっと大きくて硬い盾が欲しいな」
軽銀鋼の装備をガーネットが最初に作ってくれたのも、俺の鈍重な動きを気にしてのことだ。
しばらく彼女の元で鍛冶の手伝いをした今だからこそ、ガーネットの心遣いが理解できた。
「そうだねぇ。アンタってば力持ちだし、ここ最近で一気に身のこなしが軽やかになったし。ある程度重装備でも、充分動けるかも。はい治療おっしまい!」
俺の尻を手のひらでパアアンと叩くガーネットに「なんで尻を叩くんだよ!」と抗議すると、彼女は腕組みをして頷く。
「んなの叩きたいからに決まってんじゃん!」
左様ですか。ったく……いつか復讐してやるからな。
ガーネットは小さく息を吐いた。
「けどどーしたもんかねぇ。ここで採掘できる素材で作っても、炎鉱石の鎧とかだろ? しょーじき、寒いところ向けの装備になりそうだし」
炎鉱石は海底鉱床ではお目にかかれない、この火山地帯特有の素材だった。
「なにかまずいのか?」
「炎鉱石系の装備は寒い所で温かいんだよ。こういうあっついとこだと、その恩恵が徒になる。氷塊石があればいいんだけど……アンタいっつも汗だくだし」
「俺とガーネットならその氷塊石ってのも取りにいけるんじゃないか?」
「ま、まぁ……いけなくもないけどさ。アタイ寒いの苦手なんだよねぇ。ここで採取できた炎鉱石で装備整えればいいっちゃいいんだけど、寒いと麦酒も美味しくないし」
俺は比較的寒さに強いのだが、ガーネットは逆みたいだな。
憂鬱そうな彼女に「ガーネットがいやならやめておくか」と返すと、ぶんぶんと赤い髪を振るって鍛冶職人は胸を張った。
「独りじゃ絶対ごめんだけど、アンタが一緒なら行ってやるよ!」
「決まりだな」
この先、火炎鉱山地下五階に降りるなら防具の強化は必須だ。
死んじまったら元も子もない。
俺の足下で、鉱山の熱気をものともせず涼しい顔のナビが言う。
「なるほど。装備を調えて大深雪山の上を目指すんだね。ボクもそれがいいと思うよ」
って、その寒い場所っていうのは……やっぱり十三階層の雪山なのかよ。
こりゃあ最果ての街から片道だけでも、けっこう手間取りそうだな。
火炎鉱山から外に出ると、ガーネットは十九階層に続く祭壇方面には向かわず、十八階層方面に続く道を進み始めた。
「おいおいちょっと待ってくれ! まだ雪山に行く準備はできてないだろ?」
立ち止まると目を丸くしてガーネットは口を開く。
「行かないって! けどついてきてよ。ちょっと良い場所知ってるんだ。二人だけの秘密だぜ?」
赤い荒野をスタスタと行ってしまう。すでに鉱山の外の魔物は敵じゃないんだが、一人で行かせるわけにもいかず、すぐに後を追った。
火山の中腹から麓に降りて回り込むように歩くと、十分ほどで次第に硫黄のような独特の匂いが空気に混ざり始めた。
谷を下ると、かすかに緑が増え始める。
小川が流れるその脇に、石を積んで囲った湯だまりがあった。
うっすら乳白色をしている。湯気が香った。
石垣のように積まれた石や岩がせき止めるようにしてできた湯船は、明かに人の手で作られたものだ。
近づいて手を入れてみる。小川の流水を引き込んで、ほどよい温度に保たれていた。
俺の傍らでナビが前足を湯の中にちゃぽりと入れて「四十度くらいだね」と告げる。
ガーネットが腰に手を当てて胸を張った。
「じゃっじゃ~ん! アタイがこっそり作った露天風呂さね。魔物が出てきても今のアンタならワンパンKOだもんね。だから連中も襲っちゃこないだろうし」
実際、魔物は実力差があるとこちらを避けるようになる傾向のものが多い。
中には関係なく襲ってくるのもいるんだが、そういうタイプは魔法生物やゴーレム系に不死系が主だった。
火炎鉱山周辺には出没しないタイプなので安心だろう。
「俺は念のため周囲を警戒してるから、入っていいぞ」
「はぁっ!?」
「じゃあ俺が先に入っていいのか?」
「ば、バカなのか!? 一緒に入るに決まってるだろ?」
「それはその……まずいだろ。仮にも俺は男なわけだし」
薄い褐色肌のガーネットの顔が、みるまに赤くなった。
「まずいことないでしょ? つーかさ、アンタはほら……信用できるんだよ男として! アタイみたいなイイ女と一つ屋根の下でさ、性欲魔人のオークがだよ? 寝込みを襲うどころか指一本触れないんだから! 借りてきた猫っていうかチキン野郎じゃん!」
「おい、褒めてるようで後半完全にけなしにかかってるじゃないか」
「いいから一緒に入ろうって! あーもうわかった恥ずかしいってんなら脱がしてやるから。ほらぬんぎぬんぎしまちょ~ね~」
ガーネットは俺の背後に回り込むと、防具の留め金やベルトをあっという間に外していった。さすが武器職人。器用なうえに自分の作品である装備類の、どこをどう攻めれば解除できるのか心得ている。
「や、やめろって!」
後ろから背中を抱かれる。
豊満な膨らみの弾力が服越しに伝わってきた。
汗ばんでいるが、それでもほのかに甘い香がする。
振り払うわけにもいかないが、さすがにこの体勢から服までは脱がせられないだろう。
「甘いね~。そのアラミダ布の服を用意したのが誰か忘れちまったのかい?」
ガーネットの手が俺のうなじあたりに触れた。さらに背中に手を突っ込むと、ビリッ! と、何かを剥がすような音がする。
「な、な、なにをしたんだ?」
「この仕込み糸を抜くと服がはだける仕組みになってるのさ」
はらりはらりと、まるで指の隙間から砂が漏れ落ちるように、俺の服は型紙のようにほどけて落ちていった。
あっという間に褌一丁だ。
「きゃあああああああああああああああああッ!」
「女の子みたいな悲鳴あげるなよぉ。興奮するじゃんか!」
楽しげにガーネットは俺の褌に手を掛ける。
「待って本当にそれだけは後生だから!」
「いいじゃん減るもんじゃなし? つーか、街に来た時からその格好だったんだから、今さら恥ずかしがることないでしょ?」
「服を着るのが普通になったら、裸は恥ずかしいに決まってるだろ!」
「じゃあアタイも脱ぐからそれであいこってことで」
彼女は褌から手を離すと自分の上着に手を掛けた。
「あいこもなにもないから!」
ガーネットが脱ぎだすのを止めようと腕を伸ばすと――
「隙あり!」
俺が褌を抑える手を離した瞬間に、巧みな手つきでガーネットは脱衣させた。
ぼろん……と俺の急所が空気にさらされる。
褌を手にしてガーネットはじっとそれを直視した。
「やばっ……子供の腕くらいあんじゃん」
「うわああああああああああああああああああああああああああああ!」
慌てて手で覆い隠したものの、もう手遅れだ。
「お湯の中に逃げれば見えないかもねぇ?」
意地悪く笑う彼女から逃れるように、俺はブーツを脱ぎ捨て湯だまりの中へと飛ぶ。
大波としぶきをたてて湯船に逃げ込んだ。
意外にも温泉は深く、座れば肩まで浸かれるほどだった。
そんな俺の目の前で、ガーネットは服を脱いでいく。ベストのような上着を脱ぎ、工具や道具の収まったベルトを外した。
「あ、アタイも見たんだから、ゼロも見ていいよ。っていうか、見ろ!」
命令かよ!
目をそらすのも失礼な気がして、もうヤケだ。おあいこだと心に言い聞かせた。
恥じらう素振りも見せず、堂々とシャツを脱ぎ下着をとると、普段から主張の激しい豊満な胸が、窮屈なくびきから解き放たれたように、ぷるんと双丘を露わにする。
先端は薄桃色でツンと上向きだ。
肉付きはいいが引き締まった身体に、こちらの身体も反応してしまう。
くびれた腰の下にガーネットは指先を運んだ。
ズボンのベルトをさっと外してゆっくり降ろす。
白い下着が褐色肌とコントラストを描き、むっちりとした太ももがあらわになる。
こちらに背中を向けると、最後の一枚をゆっくりと惜しむようにおろしていった。
薄い褐色の尻はほんのり汗ばみ、すぐにもその肉を両手で掴んで揉みし抱きたくなるような欲求にかられる。
ブーツを脱いで手にした下着をふぁさっと投げ捨てると、ガーネットはこちらに向き直った。
「こ、これでおあいこだから」
包み隠さずすべてをさらけ出し、彼女は俺めがけて……ダイブする。
バッシャーン! と、湯船に二度目の水しぶきが上がった。
褐色の胸の谷間が俺の顔を挟み込むようにして、彼女と密着状態だ。
「うおわああああああああああああああああ! いきなり飛び込むやつがあるか!」
「アンタならちゃーんと受け止めてくれるだろ?」
正面から抱き合う格好だった。
普通、ここまでしないよな。
俺をどう思ってるんだろう。
からかってるのか?
だめだ、考えがまとまらない。
「ふぅぅやっぱ温泉はいいねぇ。てか、アタイのお尻になんか硬いのが当たってるんだけど。アンタの鬼棍棒マジやばくね?」
適度な弾力のある柔らかさが、俺のアレの先に触れる。こねくり回すように腰と尻を揺らして笑うガーネット。
ちょっとずれたら大変なことになる。
「危ないから動くなっ!」
「スリル満点の人生なんて最高じゃないさ!」
このまま……欲望の赴くままに……いや、だめだ。
「んはぁ~。気持ちいいねぇ。なんだかとろけちゃいそうだよ」
嬉しそうに彼女は目を細める。
小川沿いの木々から小鳥のさえずりが聞こえてきた。
温泉の湯は肌に柔らかく、疲れが溶けて身体の中から流れ出ていくようだ。
ぎゅうと彼女は俺の後頭部に手を回しで身体を寄せる。
ちゃぷちゃぷ湯船は音を立てて揺れた。
「このまま……しちゃおっか?」
「いいのか?」
「なんか最近アンタのことを見てるとさ……ムズムズしちゃうんだよ……今まで無かったんだ……こんな気持ち……」
そういうと、ガーネットは一度俺の頭から手を離して、そっと額に唇を添える。
「だからさ……アタイの……初めての人になってよ」
湯船の下で、俺たちはお互いに指を交差して絡めるように手を握り合った。
名前:ゼロ
種族:オーク・ハイ=スピード
レベル:77
力:A+(99)
知性:G(0)
信仰心:G(0)
敏捷性:A+(99)
魅力:D(56)
運:G(0)
余剰ステータスポイント:0
未使用ステータストーン:0
装備:流星砕き レア度S 攻撃力221
黒曜鋼の手斧 レア度B 攻撃力87
軽銀鋼の防具一式 防御力70
火炎鉱山向けの服一式
スキル:ウォークライ 持続三十秒 再使用まで五分
力溜め 相手の行動が一度終わるまで力を溜める 持続十秒 再使用まで三十秒
ラッシュ 次の攻撃が連続攻撃になる 即時発動 再使用まで四十五秒
チャージタックル 攻撃対象を吹き飛ばす体当たり 即時発動 再使用まで三十秒 ラッシュとの併用不可
集中 一時的に集中力を上げて『行動の成功率』を高める 再使用まで五分
投げキッス 再使用まで0秒
種族特典:雄々しきオークの超回復力 休憩中の回復力がアップし、通常の毒と麻痺を無効化。猛毒など治療が必要な状態異常も自然回復するようになる。ただし、そのたくましさが災いして、一部の種族の異性から激しく嫌悪される。
恋人:ガーネット
種火:妖精の種火
魅力がランクアップして投げキッスを覚えました(割とどうでもいい)




