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敏捷性VS運

 三つ目の小部屋に向かう途中、魔物との戦闘でレベルが上がった。ステータスの調整は街に戻って落ち着いてからにしよう。


 今日は初日ということで、この小部屋で採掘をして終わりだとガーネットは先に告げた。


「うっし! じゃあガンガン掘るぜ」


 彼女が指定する場所にツルハシを突き入れる。と、ふと思った。


「この鉱山って二十階層のどこにあるんだ?」


 手を止め振り返って訊くと、ガーネットは天井を指差した。


「どうやらこの上は海らしい。だから海底鉱床って呼ばれてるよ。昔、上に坑道を掘り進めたやつがいたみたいでさ。海水が流入してお釈迦になったんだと」


「お釈迦にって……こうして普通に採掘できてるじゃないか?」


「そこが迷宮世界の面白いところなんだよねぇ。出発前にちょっと話したけど、この海底鉱床の坑道は、毎月変化するんだ。新月の夜に中身ががらっとかわっちまう」


「不思議だな」


「掘り尽くされるってことがない、夢の鉱床ってやつね。ただ、地図を作っても一ヶ月で使えなくなるし、誰もこの鉱床がどこまで続くのかも不明なわけ。ほら、手を動かしてキリキリ働く!」


 前を向いてツルハシを振り上げ、鉱石と岩壁の隙間を探るように打つ。


「地図が使えないなら迷子になるだろ?」


「だから海底鉱床はドワーフが独占してるのさ。どれだけ進んでも帰り道がわかるからね。あ! もちろん他の種族にも祭壇は解放されてるよ。たまーに迷子の冒険者を連れ帰ったりもしてるし」


 マッピングをしても一ヶ月でやり直し。入り口付近の坑道ならともかく、他の種族が希少な鉱石を求めるのは難しいみたいだな。


「ところで、どうして新月の夜に坑道が変わるんだろうな?」


「さあねぇ。ただ、絶対に新月の夜には海底鉱床に入っちゃいけないんだよ」


「そりゃまたどうして?」


「まだ、この祭壇の付近に鍛冶職人街が出来る前のことでね、冒険者たちが入植したての頃の話だけど……」


 何か事件があったのだろうか。俺は黙々と鉱石を掘り出しながら、続きを待った。


「ドワーフも色々だけど、鉱石集めに特化した掘り師ってのが昔はいたらしくてね。今は安全のため日帰りが普通だけど、掘り師は鉱床でキャンプをして奥へ奥へ進むんだとさ」


「探求者って感じがするな」


「当時から海底鉱床が新月の夜に変化するってのはわかってたんだけどさ……ある新月の夜、伝説の掘り師が海底鉱床から帰ってこなかったんだ。きっと鉱床の底にたどり着いたんだろうね。採掘に夢中になるうちに、戻れなくなっちまった。そして新月を迎えたんだ」


 抑揚のない淡々としたガーネットの語り口に、背筋がぶるっと寒くなる。


「掘り師はどうなったんだ?」


「死んだよ。新月明けに一番乗りしたドワーフたちが、海底鉱床の祭壇の前でその掘り師の遺体を見つけたんだ……掘り師は全身バラバラにされて、捨てられるように冷たくなっていた。魔物だってそんなことはしないさ」


 強い警告と悪意を感じる。つい、作業する手を止めてしまった。


「それ以来、ギルドは新月の前日から明けまで祭壇の使用を禁じることにしたんだってさ。まあ、鍵があるわけでもないから進入禁止の立て札が出るだけで、入ろうと思えば入れるんだけどね」


「不用心じゃないか?」


「だから事情を知らない冒険者がうっかり新月の夜に入って、掘り師と同じような格好で発見されることが年に一~二回あるんだよ。看板を読めないのも読まないのも、内容を理解して好奇心から入るやつも、みんな同じ結末をたどるのさ」


 話を聞き終えて俺は安堵の息を吐く。もしガーネットとお近づきになっていなければ、自分も彼らと同じような目に遭っていたかもしれない。


 知らないということは怖い物知らずという強みもあるが、情報は力だと改めて実感した。


 知ることで回避できる危機があるのだ。


 作業を続けようとして、ふとに思いつく。


「そういえばこういう状態でラッシュするとどうなるんだ?」


 駄目元で鉱石めがけてラッシュを仕掛ける。


 カカンッ! と、普段よりも甲高い音が響いて、鉱石がポロリと落ちた。


 あれ? 銅鉱石や鉄鉱石とは違うぞ?


 すぐさまナビが鉱石を回収して目を丸くした。


「やったねゼロ。金鉱石を見つけたよ」


 運が良かったのかラッシュのおかげか、予想外の結果に俺以上にガーネットが驚いたようだった。


「金鉱石はもっと深いとこじゃなきゃ出ないのに、アンタ持ってる男じゃん!」


 運の項目は0のままだが、こういうこともあるのか。


 ガーネットは興奮気味に呼吸を荒くした。


「今夜もたっぷり飲めるな! 付き合えよゼロ!」


「俺が掘り出したんだから、もっとこう褒め称えてくれ」


「よっ! ゼロ様! 幸運の男! キャー! 抱いて!」


 ノリがいいな。


 って、もしかしてガーネットに名前で呼ばれたのは初めてかもしれない。


 現金なやつめ。だけどまあ、悪い気はしなかった。




 一通り採掘を終えて、一旦ガーネットの自宅に戻る。


 工房で本日採取できた鉱石を製錬するのだ。鉱石からインゴットに変えることで、ギルドでの買い取り価格も上がる。


「アタイがやるからアンタは見てな」


 ヘパイオの種火を炉に入れて、ガーネットは銅鉱石を溶かすと成分を抽出した。


 銅の延べ棒ができあがる。本来ならもっと工程や時間がかかるのだろうが、これが鍛冶職人のスキルなのかもしれない。


「こんなに簡単にできるのか?」


「おっ! 言ってくれるね。だったらアンタもやってみるかい? 趣味で覚える分には教えてやるよ」


 教えてもらうべきだろうか? ちらりと足下のナビに視線を送ったが、気づかないのか無反応だ。


 教わることで何か新しい発見があるかもしれない。


「教えてくれ。どれくらいガーネットがすごいのか、実際に自分でもやってみないとわからないしな」


「良い心がけじゃんか。それに免じてこいつをやるよ。というか、手持ちであげられるのコレだけなんだけどさ」


 ヘパイオの種火を炉から戻すと、ガーネットは別の種火を赤い宝石から取り出した。


 比べると、新しく出した種火の炎は小さくて心許ない。


「こいつは妖精の種火さ。アタイが最初にお父様からもらったものだけど……アンタみたいな初心者にはぴったりだし、扱いやすいから好きに使ってくれよ」


 そっと差し出された小さな炎だが、受け取るのをためらった。


「いいのか? そんな大切なものを」


「アタイってば天才だから三回も使わないうちに次の大きさの種火に昇格しちゃったんだよね。ほらほら遠慮すんなって!」


 思い入れが無いような言い方をするが、ヘパイオの種火があるのに大事に最初にもらった種火を持っているということは、やっぱり大切なものじゃなかろうか。


 俺が受け取るのをじっと待つガーネット。その顔はどことなく満足げだ。


 やると決めたのも俺だし、彼女にとって大切な種火なら、大事に扱おう。


「ありがとう。使わせてもらうよ」


「んじゃあやり方教えるから、銅鉱石も準備して……っと」


 俺が種火を受け取ると、ナビが耳と尻尾をピンっと立てた。


「妖精の種火を手に入れたね。一番小さな種火だけど、その分扱いやすいよ」


 ナビの言葉に頷きながら、ガーネットの指導の下で銅鉱石からインゴットの製錬に挑んだ……のだが、銅鉱石が六つほど燃えないゴミになったのは、このあとすぐの事である。




 結局、手に入れた金鉱石には手をつけず保管することにして、ガーネットが作ったインゴットを売却し、利益を折半。さらに今日一日の汗を流しに街の北にある大浴場に向かった。


 当然、男女で別々の湯だ。


 さっぱり汗を流してからガーネットと浴場の外で合流すると、そのまま岩窟亭で夕食がてら飲むことになった。


 軽く酒が入ったところでガーネットが俺の顔を指さす。


「アタイの指導込みで6連続失敗とかマジ才能ないねー」


「う、うるせぇ! なんかこう、うまく行かないんだ」


「オークにしたって不器用すぎるっての。あー笑った笑った。つーか思い出し笑い?」


「こっちは真剣にやったんだ。笑うことはないだろ」


「いやーごめんごめん。けどさ、これ以上悪くなりようがないなら、後は上達する一方だから安心しなって」


 ピッチャーの麦酒を飲み干すと、俺はギロリとガーネットをにらみつける。


「フォローになってねぇ!」


「お! 相変わらず良い飲みっぷり! 嬢ちゃんこっちピッチャーおかわり二つね~!」


 頼んでもいないのに、給仕係の獣人族の少女に笑顔でガーネットは手を振った。


 それから俺に向き直る。


「今日、手に入ったあの金鉱石だけど、アンタの腕があがったら、自分で製錬してみるつもりはないかい?」


「俺に任せるっていうのか?」


「嫌ならいいんだけどねぇ。アンタのちょっといいとこ見てみたいと思ってさ。それとも金をゴミに変えるのが怖い?」


「や、やや、やってやろうじゃないか!」


 そんなやりとりをしているうちに、ピッチャーのお代わりがテーブルに運ばれてきた。


「よーし言ったな約束だかんね! それじゃーまたまたかんぱーい!」


 本日三度目の“特に理由の無い乾杯”とともに、俺に新たな目標が設定されてしまった。




 前回同様、酒が入って夢見心地なガーネットを背負って帰宅する。


 彼女を寝かしつけて居間で一息ついた。


 ソファーに腰掛けると、ナビが俺の膝の上に乗ってくる。


「しばらくは鉱床で経験を積むことになりそうだね」


「しかし器用さは上がらないものなのか?」


「ドワーフの手つきが繊細なのは種族の特性だからね。オークのキミが不器用なのも特性さ。ただ、敏捷性には器用さも含まれるから、ステータスポイントをつぎ込めば製錬の成功率は高まるだろうね」


 そろそろポイントを余らせておくのがもったいなくなってきた。とはいえ、種族的にオークの俺が敏捷性をつぎ込んでも、一流の鍛冶職人には及ばないのが想像できる。


 戦闘面においても相手の攻撃に耐えて反撃するスタイルだから、敏捷性を伸ばす意味は薄いかもしれない。


 限界を超えて“力”に振ることができればいいのに。


「じゃあ運はどうだ?」


 金鉱石が見つかったことを考えると、運が0でもまったく良いとも思うのだが……。


「鉱床で希少鉱石に出会える確率は上がりそうだよ」


 他に幸運によって相手の弱点を突きやすくなる。敏捷性よりも確実さに乏しいが、爆発力はあるだろうな。


「すまないなナビ。本当はすぐにでも真理に通じる門を探したいだろうけど……」


 ナビは首を左右に振った。


「気にしないで。闇雲に焦って探すよりも、堅実に力をつけていった方が安全だと思うよ」


「わかった。しばらくガーネットの世話になろう……ところで」


 俺が一度死んだ事実をナビに言わないでいいのだろうか。順調だからこそ、今のうちに伝えても良いような気がしてくる。


「なんだいゼロ?」


「ええとだな……」


 口に仕掛けたその時、突然――ガーネットの寝室のドアが開いた。


「ふあああああ! っと、アンタなに一人でぶつくさ言ってんだい? 独り言のクセは直した方がいいよ?」


 あくび混じりで俺に告げると、ゆらゆらとした足取りでガーネットは一階に降りていった。


 トイレに起きたらしい。


「あ、ああ。気をつけるよ」


 俺の膝の上でナビはクリクリとした目で見つめてくるのだが、結局今回も言えずじまいだった。



名前:ゼロ

種族:オーク・ハイ

レベル:51

力:A+(99)

知性:G(0)

信仰心:G(0)

敏捷性:G(0)

魅力:F(17)

運:G(0)

余剰ステータスポイント:38

未使用ステータストーン:2


装備:黒曜鋼オブシディナの手斧 レア度B 攻撃力87

   軽銀鋼アルミナの防具一式 防御力70


スキル:ウォークライ 持続三十秒 再使用まで五分

   力溜め 相手の行動が一度終わるまで力を溜める 持続十秒 再使用まで三十秒

   ラッシュ 次の攻撃が連続攻撃になる 即時発動 再使用まで四十五秒


種族特典:雄々しきオークの超回復力 休憩中の回復力がアップし、通常の毒と麻痺を無効化。猛毒など治療が必要な状態異常も自然回復するようになる。ただし、そのたくましさが災いして、一部の種族の異性から激しく嫌悪される。


仲間:ガーネット

種火:妖精の種火

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