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適“才”適所

 昨晩はガーネットの介抱をして、一晩眠れぬ夜を過ごした。


 彼女がようやく落ち着いてベッドで寝息を立て始めると、やっとナビと話をする時間を作ることができた。


 ベッドルームをあとにして居間のソファーに腰掛ける。


 部屋の照明は魔力灯という光る鉱石で、昼間のうちに天球から降り注ぐ光をため込んで夜は発光するらしい。光の量を調整するつまみがあったので、光量を蝋燭ほどに落としてようやく一息ついた。


「ひとまず真理に通じる門を探すにも、街で暮らしていかなきゃならんしな。強い武器だってあるに越したことはないだろ?」


「そうだねゼロ」


 ソファーの隣にぴょんと乗ると、俺の膝の上でナビは丸くなる。


 手触りも体温も感じるのに、ガーネットには見えていないのが不思議だな。


 そっと撫でるとナビは目を細めて呟いた。


「ああ、これからはゼロにこうして撫でてもらう機会も減るんだね」


「悪かったな今日はその……色々と」


「ボクに構うと他の誰かに不審がられてしまうみたいだね。ボクの方こそごめんねゼロ。キミがガーネットに取られてしまうと、不安になったんだ」


「取られるってお前……」


「キミにはボク以外にもいるけど、ボクにはキミしかいないんだよ」


 顔を上げてじっと俺の目を見るナビに、小さく頷いた。


「俺だってお前がいなかったら何もできないんだ。俺たちはこの迷宮世界で一心同体みたいなもんだって」


「よかった。そう言ってもらえるだけで、ボクはとても幸せだよ」


 尻尾をゆらりとさせながら、ナビは俺の膝を枕にして寝息を立て始めた。


 まいったな。これじゃあ俺が横になって休めない……が、まあいいか。




 翌朝、膝の上からナビは消えていた。


 いなくなってしまったんじゃないかと一瞬不安になったのだが、ソファーの下をのぞき込むと青い毛並みの小動物は、くるんと身体を丸めて床とソファーの隙間に収まっていた。


 ホッと息を吐き、吸い込むと今度は良い匂いがして、一階に降りる。


 店舗兼工房兼住居のガーネット宅は、一階にキッチンとダイニングがあった。


 窓からはさんさんと朝の光が射し込んでいる。


 時計代わりの教会の鐘の音が九回響いた。朝九時だ。


「おはよ~! つーか、ずいぶんゆっくりなお目覚めだな」


「昨晩は誰かさんの面倒を看て大変だったんだ」


「あっはっは~美女の看病ができて嬉しかったろ? つーかそのまま寝てればよかったのに。そしたら美女がチューして起こしてあげたんだから」


「そいつはもったいないことをしたな」


「あー! 本気にしてないでしょ? ま、冗談だけどね」


 キッチンでフライパンを火に掛け、ベーコンを焼いて卵を割り入れながらガーネットは笑う。パンを切り分け二人分の朝食を手早く作り終えた。


 二人でテーブルを囲んで食べながら作戦会議だ。


 塩気の強いベーコンと卵をパンに乗せて食べると、身体が目覚める感覚がした。


 ガーネットがじっと俺の顔を見つめて、真剣な眼差しで訊く。


「でさあ、こんな時にアレなんだけど」


「どうしたんだ急にかしこまって?」


「うん、ちょっとね……アンタ誰?」


「はあ?」


「なんか意気投合したまではぼんやり憶えてるんだよねぇ。けどほら、考えてみたら名前も知らないし」


 そういえば名乗った憶えが……無い。


 ノリで生きてるなこの女。ある意味尊敬できるぞ。


「俺の名前はゼロだ」


「アタイはガーネット。改めてよろしくな。いやぁほらさあ、武器作ったらサービスで所有者の名前を彫金したりするんだけど、そういえば訊いてなかったと思ったんだよ」


 俺自身、気づいていなかったんだからとやかく言えないな。


「ガーネットは色々と豪快だな」


「名前なんてわかんなくても生きていけるし、誰とだってやっていけるんだって! 細かいこと気にしてたら大きくなれないぞ?」


「これ以上デカくなるつもりはない」


「器の大きさって意味だから。まあ、アタイは背が高い男は嫌いじゃないけどね。背負って連れ帰って介抱してくれるくらいじゃなきゃ」


 ドワーフは全体的に女性の方が背が高い。中でもガーネットは180センチ近くあるんじゃなかろうか。身長二メートル越えの俺と並んでちょうど釣り合うくらいだ。


「どこまでちゃんと憶えていてくれてるんだ? しばらくここに厄介になるって話だったんだが」


「へー」


「まるで他人事みたいだな」


「酒飲みすぎると記憶が所々ぶっ飛んじゃうんだよね。ま、そういう約束したならオッケー……つうか、思い出した! アンタ酒の勢いでアタイの故郷のこととか訊いたろ?」


「そっちが自分から話したんだろ?」


「あれぇそうだっけ? ごめんごめん。まあ、なんつーかさ……恥ずかしいから他の連中には内緒にしててくれよな。店を畳むこともまだ、他の誰にも言ってないんだよ」


 俺は黙って頷いた。


「んじゃあ、今日から採掘って感じだろうね。掘った原石をうちの工房で精製してギルドに納品。利益は折半ね。今日は新月明けから三日くらいだし、一ヶ月はみっちり掘れるよ」


 聞き慣れない単語に俺は首を傾げた。


「新月明けってのはなんだ?」


「鉱床に通じる祭壇は新月とその前日には封鎖されちまうのさ。まあ、詳しいことは採掘しながら説明してあげるから、心配すんなって」


 わははと笑って、ガーネットは朝食をペロリと平らげた。




 すぐに鉱床に向かうのかと思いきや、食事の片付けのあとやってきたのは彼女の工房だ。


 巨大な金床やハンマーなどの工具類がずらっと揃い、煙突に炉もあった。


 大雑把な性格なのに、全てが理路整然と並んでいる。そういえば家の中もキッチンも片づいていたな。


 自慢げに胸を張ってガーネットは言う。


「どうだい? 全部Aランクの一級品さ。揃えるのに苦労したよマジで。もちろん、いくら良い道具が揃ってても腕が伴わないんじゃ宝の持ち腐れだけどねぇ。その点、アタイは非の打ち所が無い腕前ってね」


「立派な仕事場だな。けど、なんでまた工房なんだ?」


「鉱床の中には魔物が出るからねぇ。坑道もそんなに広くないから、大きな武器は邪魔になるんだよ。それとは別に採掘道具なんかも必要だし。で、武器と軽めの防具を作っていこうってわけさ」


 ガーネットが胸に下げた赤い宝石から光の粒子が彼女の手の上に集約した。


 それは赤い炎の揺らめきになる。


「おおッ! もしかして黒魔法か?」


「何言ってるんだい? アタイが使えるのは初級の白魔法くらいなもんだよ。これは鍛冶職人の技ってやつさ」


 いつの間にか足下にナビがすり寄ってきて、俺に告げた。


「ガーネットが出したのはヘパイオの種火だね。鍛冶職人のスキルだよ。種火にもランクがあるんだけど、ヘパイオはAランクだね。本当に実力のある鍛冶職人じゃないと扱えない力さ」


 なるほど。彼女が本物の職人という証だな。


 ガーネットは種火を炉に放つと、炎が燃えさかった。


「つーかアンタさ、種火も知らないなんて……まさか無職なわけ? 普通、迷宮に挑む前に何かしら手に職くらいあるでしょ?」


 痛いところを突かないくれ。その言葉は俺の胸をえぐるから。


「ぼ、冒険者だ」


「それはみんなそうだし、食って行くだけなら街の近くの森で魔物狩りでもすれば大丈夫だけど……ホント、マジで珍しいね」


 驚いたような表情を向けるガーネットと目を合わせられない。ナビも目を細めて「仕方ないね。ゼロは特別だから」と助け船は出してくれなかった。


「ほら、俺は生まれながらの冒険者だからさ」


「人生は旅ってやつか。詩人じゃん。まあオークの詩人なんて聞いたことないけど……一応、何かしら職についておく方が便利だぜ。同じ職人同士ライバルでもあるけど、仲間意識も芽生えるしさ」


「だったら鍛冶職人にしてくれ。見習いでいいから」


 ガーネットは俺のそばに歩み寄ると、そっと指に触れた。


「パワーは充分だけど繊細さも必要だから向いてないだろうねぇ。趣味で仕事を覚えるくらいならいいけど」


「じゃあオークならどんな仕事が向いてるんだ?」


 ガーネットは燃え上がる炉の炎を背にして腕組みをした。


「オークなら用心棒とか傭兵だろうね。タフだし。あとは街の西の端にある常闇街で男娼なんかが人気だよ。アンタならきっといっぱい客を取れるんじゃないか?」


「だ、男娼?」


「女を悦ばせる仕事だな。強引にされたいっていうのもいるみたいでねぇ。オークってのは精力絶倫なんだろ? 才能を活かすっていうならぴったりじゃんか」


 なんでもあるんだな、最果ての街には。


 足下でナビがあくび混じりに補足した。


「もちろん男性向けのお店もあるから、お金に余裕ができたら遊びにいくのもいいかもね」


 こいつ、遊びの内容がどういうことかとかわかって言ってるんだろうか。


「わかった。考えておく」


 自分に出来そうな仕事か。それを考えるにはまだ、俺はこの街の事を知らなさすぎた。




 ガーネットに装備を一式新調してもらった。今日まで使ってきた装備類は、すべてナビに分解して素材に戻す。


 軽量ながらそこそこ強度の高い軽銀鋼アルミナの兜に胸当て。それにレッグガードや腕当てなどだ。腕当てにそのまますっぽりはめることができる、丸形の盾もあつらえてもらった。


 背中にはガーネットが昔使っていたお古のザックを背負う。魔力灯のランタンに、ハンマーやピッケルなどの採掘道具一式もこの中だ。


 武器は黒曜鋼オブシディナの手斧。軽銀鋼よりもずっと重く、狭い坑道向けにとリーチは短いが扱いやすい大きさで、威力は粉骨砕身を越えていた。


「材料費だけで百万メイズは越えてるんだけど、まあ鉱床で集められる原石だし、現物で返してくれればいいって。技術料もまけといてやるよ」


 一流の鍛冶職人への依頼料は……訊かないでおこう。


「ありがとうございます」


 俺は身体を九十度折り曲げた。そこまでしてもらっては頭も上がらない。


「いいっていいって! アタイから誘ったんだし」


 諸々装備も整ったところで、俺たちは鍛冶職人街の目抜き通りにある祭壇――海底鉱床に赴いた。


名前:ゼロ

種族:オーク・ハイ

レベル:49

力:A+(99)

知性:G(0)

信仰心:G(0)

敏捷性:G(0)

魅力:F(17)

運:G(0)

余剰ステータスポイント:38


装備:黒曜鋼オブシディナの手斧 レア度B 攻撃力87

   軽銀鋼アルミナの防具一式 防御力70


スキル:ウォークライ 持続三十秒 再使用まで五分

   力溜め 相手の行動が一度終わるまで力を溜める 持続十秒 再使用まで三十秒

   ラッシュ 次の攻撃が連続攻撃になる 即時発動 再使用まで四十五秒


種族特典:雄々しきオークの超回復力 休憩中の回復力がアップし、通常の毒と麻痺を無効化。猛毒など治療が必要な状態異常も自然回復するようになる。ただし、そのたくましさが災いして、一部の種族の異性から激しく嫌悪される。


仲間:ガーネット

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