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換金

 ガーネットの紹介で鍛冶職人街の目抜き通りにあるギルドにやってきた。


 まるで城塞のような石造りの堅牢な建物で、街の中央にある大聖堂ほどではないが、鍛冶職人街にあるどの建築物よりも大きい。三階建てだがギルドに登録していない俺が入れるのは一階のフロアまでだ。


 鍛冶ギルドは鉱物資源から武器や防具に道具類などを管理しているらしい。素材の買い取りもしてくれるという。


 俺は買い取り業務を行うカウンターで、これまで集めた素材を売った。


 ナビが次々と額の紅玉から素材化したアイテムを床に出していく。


 魔物を倒した時とは逆の要領で、赤い光の粒子が放出されると物質化するのだ。


 まるで魔法だな。


 隣でガーネットが「おっ! けっこうため込んでたな。一気に出すと気持ちいいだろ?」と、誤解を招くような言い方をした。


 本人は発言の問題点に気づいていないらしい。が、教えたところで気にするような性格でもないか。


 ちなみに、ナビが素材を出しているのだが、ガーネットからは“俺の首にかかった宝石から素材が取り出されている”ように見えるのだとか。認識の歪みというやつだ。


 素材を査定係に預けて、待合ロビーでガーネットと並んで長椅子に腰を落ち着けた。


 ナビはするりと椅子の下の隙間に滑り込むと、香箱座りをしてあくびを一つ。


 どうやら狭いところが落ち着くみたいだ。


 しばらく待つ間、ガーネットからお金に関するレクチャーを受けた。


 金貨、銀貨、銅貨で支払われるが、通貨単位はメイズで統一されている。


 この単位も外の世界とは違う独自のものなのだ。迷宮では外の世界で貴重なものがゴロゴロしており、物価が違うからだとガーネットは教えてくれた。


「まあ日用品なんかは外の世界とも大差ないんだけどな。あっちじゃ見たこともないような宝石の原石とかも見つかるわけだし。


 そいつ目当てで挑んで来る冒険者は後を絶たないけどさ、こうして街までたどり着くのなんてほんの一握りさ」


 中には外の世界にお宝を持ち出して売却し、悠々自適に暮らす冒険者もいるらしい。


 査定が終わるまでまだかかりそうだし、一つ訊いてみるか。


「ガーネットはどうして迷宮にやってきたんだ?」


「おっと、その質問をするとは驚きだね。まあ、迷宮を降りる動機なんて人それぞれだろうさ」


 気丈な彼女がらしくなく伏し目がちになった。


「言えないなら無理には訊かない」


 すると、途端に目を丸く見開いてガーネットは俺の顔をのぞき込む。


「アンタさ、見た目はごついわりになんつーか、相手の顔色うかがうタイプだよね」


「俺なりにこの街の空気に馴染もうと必死なだけだ」


「必死って。空気読めなくても死にやしないって」


 いや、死んだから。


 失言から即死コンボは二度とゴメンだが、どうもガーネットには取りつくろっているのが見透かされているみたいに思えた。


 ガーネットが続ける。


「生きていくのにあんま深く考えなくてもいいじゃん? どうせ脳みそまで筋肉なんだし」


「オレ……脳筋……チガウ」


「あっはっは! 案外ノリいいね! そっちの方が女にモテるよきっと」


 腹を抱えて笑うガーネットに、こっちまでつい頬が緩む。なんとなくだが、彼女との接し方がわかった気がした。




 査定に時間がかかったのは、単純に量が多かったためだ。


 ひとまず換金を終える。金額は百二十七万四千メイズ。


 個人売買より換金率は低いが、手間賃と考えることにする。


 ナビ曰く、節制すれば一年は街で暮らせる額だそうだ。とはいえ、ゆっくりするつもりはない。


 俺には……いや、俺たちには真理に通じる門を探すという目的があった。


 いつまでと期限は定められていないが、早く見つけるに越したことはないな。


 カウンターで金を受け取りガーネットの元に戻ると、彼女は長椅子にかけたまま俺の全財産から一万メイズ銀貨を一枚取り上げた。


「んじゃあ、さっきの服代な」


「ちょっと取り過ぎじゃないか?」


「服にズボンに靴で八千メイズだろ。あとはアタイみたいな絶世の美女とのデート代さ。んじゃあさっそくこの出会いを祝して飲みに行こうぜ!


 今日はアタイのおごりだよ。昼間っから飲める良い店があるんだ。飯も美味いから期待していいぜ。どうせここまで、ろくなもん食べてこなかったんだろ?」


 銀貨を親指でピンと弾いて空中でキャッチしながら、ガーネットは子供っぽく笑う。


 そういえば迷宮内で食いつないではきたが、料理も酒も今の今まで存在を忘れていたな。


 不思議なことに、記憶は無くともそういうことは憶えている。


「なあガーネット。どうして見ず知らずの俺にそこまでしてくれるんだ?」


 真顔で訊くと彼女は突然、ぷいっとそっぽを向いてしまった。


「べ、別に、アンタだから特別親切にしてやってるつもりはないって。アタイは元々親切心の塊みたいな女なんだ。それにアンタはお客さんだからな。商談の一環だよ」


 それなら最初に彼女を見かけた時――前回の街の雑踏で、エルフの少女とぶつかって本をばらまいた時のガーネットの対応は、親切とは言いがたい。


 そこはやはり、種族間相性の問題なんだろうか。商談という観点から考えると、ドワーフにとってエルフはあまり良い商売相手にはならないということかもしれない。


「んじゃあ行こうぜ!」


 よいせっと呟きながらガーネットは腰を上げた。


「あ、ああ。ちょっと靴紐を直させてくれ」


 俺はしゃがんで長椅子の下に潜む青い小動物の頭をそっと撫でる。


「食事と一緒にお酒を飲めば、彼女の口も滑らかになって情報を得られるかもしれないね」


 頷いてナビのアドバイスに返すと立ち上がった。


 またしてもガーネットが俺の顔をのぞき込む。


「サンダルに靴紐なんてないのに……アタイがスカートならのぞき込みたいっていう気持ちは良くわかるけど、どうしてアンタはこうもローアングルが好きなんだ?」


 返す言葉に窮すると「ほら、とっとと行くよ」と、ガーネットは俺の手を引いてギルドの外に向かいだす。


 ナビが後ろから俺に着いてきながら「武器よりも先に紐靴を手に入れた方がいいかもしれないね」と忠告した。

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