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再会

 最果ての街の門をくぐる前に、街道で立ち止まると俺は余剰ステータスポイントを魅力に割り振った。


 ここからは極端な振り方はせず、状況に応じて数値を調整していこう。


 1ポイントずつ魅力を上げていくと、17ポイントつぎ込んだところでランクがGからFに上がった。


「なあナビ。魅力を上げてみたんだが、俺も少しくらいは男前になったか?」


「ゼロは出会ってからずっとかっこいいよ」


「冗談で言ってるのか?」


 足下でナビは目を輝かせる。


「本気さ。キミは強い。腕力に優れているという意味じゃなくて、あらゆる状況に対応して、二週間とかからずこの街にたどり着いたんだもの。ボクはそんなキミを心から尊敬しているんだ」


 騙しているようで気が引ける。それもこれも前回の失敗あってのことだ。


 結局のところ、魅力を上げた成果については実感を得られないままだった。


 改めて、ナビから種族ごとの傾向や相性について訊く。


 オークは基本的に、他種族ウケは良くないらしい。特に魔法を操るエルフとは最悪の相性――とは、死を持って体験済みである。


「しかし、いきなり街中で攻撃されることなんて……ないよな?」


 試しにナビに訊いてみると、青い小動物はその身体をブルッと震えさせてから、小さくあくびをしてみせた。


「どうだろうね。この街は種族ごとに棲み分けされているようだし、少なくともボクが見た限り、オークとエルフが仲良く並んで歩いているところには遭遇したことがないよ」


 なるほど。魅力を上げようとも、無理にエルフと接触をはかるのは良くなさそうだ。


 ナビは尻尾を自慢げに揺らして続ける。


「冒険者ギルドが仕切って、もめ事や争い事が起こらないよう不干渉ということにはなっているけど、裏を返せば『干渉してきた方が悪い。なにをされても文句は言えない』とも言えるんじゃないかな?」


 命を持って償わされるとは思わなかった。もうあんな失敗はごめんだ。


 しかしまあ、オークに好感とまでは言わないが、話しかけても大丈夫な相手はいないんだろうか?


「なあナビ。オークに嫌悪感や偏見を持たない種族はいないのか?」


 ナビはヒゲをピクンとさせた。


「同じオーク同士でも仲が悪いらしいね」


「なんだよそれ。同族も頼れないのか」


「けど、強いて上げるなら獣人族はどんな種族相手でも比較的中立的だね。もともと彼らは多種族みたいなものだから、価値観や個性には寛容なんだ。初対面の相手でも友人と呼んだりして、種族が違ってもうまく受け入れ、群を形成するみたいだよ」


 安堵の息が自然と漏れた。


「そいつはありがたいな。獣人族のコミュニティーに参加するのは良いかもしれない」


 俺の足下にぴとっと身を寄せてナビは顔をスリスリさせながら言う。


「あとはドワーフ族だね。エルフとはライバル関係にある種族さ」


 そういえば、俺が死ぬきっかけを間接的とはいえ作ったのは、赤い髪で背の高いドワーフの女だった。


 エルフの少女とぶつかった拍子に、抱えていた本がばらまかれて……そいつを拾ったところであの仕打ちだ。


 どちらも恨んじゃいないが、本当にあの時は運が無かったな。


 失敗を未然に防ぐためにも、俺はもう少しだけドワーフについて訊いてみることにした。


「ライバルって具体的には?」


「ドワーフは力と信仰心が高くて、鉱物採取や冶金に鍛冶が得意なんだ。エルフは敏捷性と知力に優れていて、黒魔法を得意としているんだよね。本来なら弱点を埋め合えるのに、お互いのプライドがそれぞれの素晴らしさを認められないんだ」


 それで競い合ってライバルというわけか。


「そのドワーフはオークを嫌っていないんだな?」


「エルフがオークを嫌っていたり、恐怖心を抱いているからね。敵の敵は味方というのもあるだろうけど、ドワーフ族は手先が器用なわりに豪快で、細かいことを気にしないようだから」


 種族ごとにノリみたいなものがあるんだな。


 ナビは最後に重要な一言を付け加えた。


「なによりドワーフは筋肉に弱いんだ。その点、力を極めたキミならドワーフたちに受け入れられる可能性は高いんじゃないかな」


 ん? となると魅力を上げたのは失敗か?


「そういうことはもっと早く……いや、なんでもない」


 ナビに愚痴ってもしかたない。街を拠点にする以上、ドワーフ以外の種族ともやりとりはあるだろうし、上げた魅力が無駄にはならないと前向きに考えよう。




 大通りに様々な種族が店を出していた。


 行き交う人々を見ながら道の真ん中で足を止め、深呼吸をする。この先は前回の経験を活かすことはできないのだ。先に進む覚悟を決めよう。


 相変わらずナビは街の住人の誰にも見えていないらしい。が、人混みを器用に避けつつ俺の後についてきた。


「まずはドワーフとお近づきになりたいところだな」


 と、ナビに言ったつもりだが、ナビは雑踏の中から俺に返した。


「ボクに話しかけてくれるのは嬉しいけど、人前でそれをやると独り言になるから気をつけてね」


 この街にたどり着くまで他者という概念がほとんど無かったおかげで、すっかり失念していた。忠告してくれたナビに頷いて返す。


「ボクの方からは声をかけることがあるけど、返事がしにくい場合は頷くか首を左右に振るかしてくれるとありがたいよ」


 もう一度頷く。


 そういえば、街についてから種明かしをする予定だったんだが……今さらナビも「俺は二度目なんだ」なんて話をされたって、混乱するだけだろうな。


 ここからは同じ視点で共に歩いて行けるわけだし、言わないでおくとしよう。


 俺の大きな歩幅に合わせて、せわしなく足を動かしながらナビは隣を歩く。


 目抜き通りから円形広場に出ると、商店のテントが色とりどりの花のように天幕を連ねていた。


 思わず緊張で手に汗がじんわり浮かぶ。呼吸が荒くなり心音が胸から足の先にまで響くような錯覚をした。


 ――同じなのだ。あの時と。


 死の元凶が本の山を抱えて、人混みの中をゆらゆら、オロオロとこちらに向かってくる。


 ほっそりとした指先を真っ赤にさせながら。積んだ本の向こう側には、おそらくエルフ特有の長い耳と金髪に青い瞳が隠れているに違いない。


 どういうことだ? 到着日数は前回よりも3~4日は早い。


 なのに同じ光景が目の前に広がっている。


 そして、人混みの中から背の高い赤い髪のドワーフ女が姿を現した。


 彼女とぶつかって本がばらまかれるのだ。


「ちょっとそこの赤い髪のドワーフ! 待ってくれ!」


 俺はつい、声を上げてしまった。ドワーフ女は立ち止まり、その脇をよろよろと本を抱えたエルフの少女がすり抜けていく。


 すれちがった。横目にちらりとエルフの顔を確認する。彼女は重い本の山に必死で、オーク・ハイの俺のことすら目に入っていないようだ。


 服装は白地に青い差し色の入ったローブ。背中には長い魔法の杖。


 間違い無く、俺を殺したエルフの黒魔導士だった。


 彼女はそのまま、フラフラしながら目抜き通りの方へと引きずるように歩みを進める。


 首だけ振り返って、その背中が遠くなるのをじっと見つめた。


 エルフは雑踏に消える。


 ドッと重たい息が口からこぼれた。心臓はさらにバクバクと音を立て、手のひらと言わず背筋まで冷たい汗に濡れていた。


 ナビがちょんちょんと、前足で俺のすねのあたりをつつく。


「人を呼んでおいてなにボーッとつったってるわけ?」


 前を向くとそこには、俺の顔を見上げるようにして赤い外ハネ髪気味な髪を揺らしながら、金色の瞳がじっと俺の顔をのぞき込んでいた。


 大きく胸元の開いた服で、職人らしく様々な道具のついた革ベルトと袖の無いジャケットを羽織っている女が不機嫌そうに言う。


「なあ話、訊いてるのか?」


 何か言うたびに、そのこぼれ落ちそうなほど大きな胸がゆっさたゆんと揺れた。


「あ、いや……その……」


 つい口ごもる。考えも無しに声をかけてしまった。きっと不審に思われたに違いない。


 ドワーフの女は口元を緩めた。


「はっはーん。さては……アタイに惚れたな? いやぁーイイ女はつらいねぇ。アタイの魅力につい、声を掛けたくなるってのもわかるよ。うんうん」


 独り勝手に納得すると、下から胸を持ち上げるように腕を組んで、ドワーフ女は何度も頷いてみせる。


 エルフとぶつかった時は、ずいぶんと失礼なヤツだと思ったが……あの態度は行ってしまったエルフの少女に対してのものだったらしい。種族間のライバル関係ってやつだな。不親切な態度も仕方ない。


 ドワーフ女は俺の顔を指さした。


「つーかよく見たらアンタあれじゃん。オークじゃん。しかも胸毛もっさもさ」


「あ、ああ。オーク・ハイだからな」


「へー。珍しいね。この街は初めてかい?」


「さっき着いたばっかりだ。どうしてわかったんだ?」


 オーク女は値踏みするように俺を見る。


「だってさぁろくな装備してないし。超一流の鍛冶職人のアタイをつかまえて、いったい何をさせようってのさ?」


「いやその……ええと……」


 押しが強いノリに言葉が上手く返せない。下手な問答は命に関わる。


「あー、悪いんだけどさ。オークの弟子はとってないんだよねぇ。アンタらパワーはあるけど不器用だし。となるとやっぱ、アタイの噂を聞きつけて、その腕を見込んで惚れこんでってこと?」


「そ、そうそう! そうだ。あんたを見込んで頼みがあるんだ」


 名前もわからず、相手に合わせて「あんた」呼ばわりしてしまったが、ドワーフ女は口を大きく開けて笑った。


「あっはっはっはっは! なんだ早くそう言ってくれりゃあ良かったのに。このガーネット・オルタニアにかかれば、どんな武器だって作ってやるぜ。けど、超一流の鍛冶職人の仕事には、それなりの対価を払ってもらうからな?」


 ナビが素材をため込んでいるが、まだ換金していないので所持金がどれほどあるかわからない。


 とはいえ、ここでケチな事を言うのも彼女――ガーネットのノリに反するだろう。


「よろしく頼む!」


「良く言った! んじゃあ、さっそく打ち合わせといこうか。アタイの工房はこっちだよ。ついてきな!」


 俺は一度、足下に視線を落とした。ナビは目を細めて「いいんじゃないかな?」と言う。


 その声に小さく頷いて、俺はガーネットを追い、歩き出した。


 隣に立つと不意に、ガーネットが俺の二の腕に手で触れる。突然の事に一瞬、ビクンと身体が震えた。


「なにビビッてんだよ? 男だろ? シャキッとしろって。しっかしまぁ……なかなか良い筋肉してるじゃんか。これなら相当重い武器でも振り回せそうだ」


 薄い褐色の指先が、丹念に俺の腕に触れる。口振りからして豪快な印象だが、その手つきはまるで壊れ物を扱うように繊細だ。


「ふむふむ。よし! 気に入った! 最近はやれ細身の剣だのナイフだのと、ちまっこい武器ばっかり作らされてきたからな。アタイの趣味に付き合ってくれるなら、料金まけてやるよ」


「ほ、本当か?」


 ちょっと親切すぎやしないだろうか。


「遠慮すんなって。アンタにぴったりの武器を作ってやるから。料金が払えないようなら身体で払ってもらうけどな」


「身体って……」


「なかなかスゴそうじゃんか。太ましくてパンパンに詰まってて、筋も浮き彫りでさ。一晩くらい持ちそうだし。タフな男って嫌いじゃないぜ」


 いったい何をどう払わせるっていうんだ!?


 導かれるまま、俺はガーネットの工房があるという職人街へと歩みを進めた。


名前:ゼロ

種族:オーク・ハイ

レベル:49

力:A+(99)

知性:G(0)

信仰心:G(0)

敏捷性:G(0)

魅力:F(17)

運:G(0)

余剰ステータスポイント:38


装備:粉骨砕身 レア度C 攻撃力78 骨のある相手に+10% 軟体にー20%のダメージ

   三日月の斧 レア度E 攻撃力27 植物系に+10%のダメージ

   真珠岩の盾。レア度D 防御力13 時々魔法を反射する


スキル:ウォークライ 持続三十秒 再使用まで五分

   力溜め 相手の行動が一度終わるまで力を溜める 持続十秒 再使用まで三十秒

   ラッシュ 次の攻撃が連続攻撃になる 即時発動 再使用まで四十五秒


種族特典:雄々しきオークの超回復力 休憩中の回復力がアップし、通常の毒と麻痺を無効化。猛毒など治療が必要な状態異常も自然回復するようになる。ただし、そのたくましさが災いして、一部の種族の異性から激しく嫌悪される。

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