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アドバンテージ

 思いがけない幸運でオーク・ハイの肉体を取り戻した。これで魔法以外は怖い物なしだ。


 階層ごとに推奨レベルが存在しているのは間違い無い。


 十階層クリアにはレベル5程度。十一階層ならレベル10前後と、一つ階層を進むごとにおよそ5レベルのアップが必要だ。


 例外的に“何も無い”十五階層も存在するが、その前後の階層は“レベルの壁”が他よりも緩いという印象だ。


 本来なら巨石平原のクリア到達レベルは25ほどである。


 物理攻撃がまったく通じないエレメンタルを相手にはできないが、前回と同じ攻略ルート上にある巨石群近くの魔物から受ける魔法攻撃が、以前よりも痛くない。耐えられる。


 俺に攻撃が通じないとみるや魔物たちは逃げていくので、平原の攻略ルートをほとんど素通りすることができた。


「クソッ! 逃げ回りやがって! 一発殴らせろ!」


「魔物たちはキミの力を恐れているみたいだね。今のゼロが戦うならもっと先の階層がいいんじゃないかな?」


 励ますように言うナビに頷いて、共に祭壇の上に立つと、俺たちは鬼門の十四階層を後にした。


 それにしても前回よりとんとん拍子だな。


 メタリックゼラチナムを倒したおかげなんだが……運の項目にポイントを振れば、また遭遇できるんだろうか?




 十五階層は相変わらず何もない白い空間だった。


 ナビが得意げに「ここには“何も無い”があるんだよ」と耳をピンっと立てて言う。


 素通りもできたのだが、入り口の祭壇付近を調べてみた。床は継ぎ目無く真っ白で、天球は常に昼の光量で空間を満たす。


 床と壁の境目も、昼夜の境界線も存在しない。


 ただただ白い世界に、入り口となる祭壇と出口となる祭壇しか存在しない。


 魔物の姿もどこにも見られない。


 平和で静かで無味乾燥していて、何の面白みのない場所だ。


「そんなにキョロキョロしてどうしたんだいゼロ?」


「いや……ここまで森や廃虚や砂漠に雪山ときて、さっきの不思議な平原の次がこれだからな。何か秘密でもあるんじゃないかと思ったんだが……」


「そうだね。街で聞いた話だけど、この十五階層を調べた冒険者も過去にはいたみたいだよ。魔法を使った探査や、壁を壊そうとしたりと手を尽くしたそうだけど、何も見つからなかったみたいなんだ」


 魔法を使うだなんて俺にできない方法で調べた後なら、やっぱりお手上げだな。


「オーク・ハイの出る幕じゃなさそうだ。先を急ごう」


 俺が歩き出すと、真っ白い床を青い猫はトコトコと軽快な足取りで着いてきた。




 後半の階層もレベルが上がっていたおかげでサクサクと進んだ。


 南国のリゾート地のような地底湖島で、白い砂浜を駆け抜けて群島を結ぶ橋を渡り、再びランドクラブを倒しまくる。祭壇に向かう最短経路は通らずに、何度も橋を往復し蟹と格闘した。


 何匹か倒してわかったのだが、この魔物は命の危機を感じると“防御”に徹する習性があるらしい。モルゲンシュテルン二発で撃墜していた時には気づかなかった特性だ。


 背負った貝殻に引き籠もられると手出しができなくなるのは厄介だが、三日月の斧を三発ほど食らわせたところで、ラッシュによる二段攻撃でたたみかけると撃破できた。


 最後の攻撃をラッシュではなく普通にしてしまうと、殻にこもられる。そうなった場合は無視して先に進み、別の個体を狙うようにした。


 ナビが不思議そうに俺を見つめる。


「ねえゼロ? どうしてさっきからランドクラブとばかり戦うんだい? キミの今のレベルなら、このまま先に進んでも問題は無さそうだよ?」


「ええとだな……ほら、ああいう防御の硬い魔物なら、お宝に防具を持っているかもしれないだろ?」


「なるほどね。もし、持っていなかったとしても気を落としちゃいけないよ」


「ああ。わかってるって」


 三十匹ほど倒したところで、真珠岩の盾を再び手に入れた。


 もう少し時間がかかるかと思っていたが、案外あっさり手に入ったな。


 ナビが目をまん丸くさせる。


「真珠岩の盾だね。時々だけど魔法を反射することがあるよ」


 俺は首を傾げた。


「なあナビ。ランドクラブがこの盾を落とすことは知らなかったのに、盾そのものについては知っているんだな?」


 ナビは首を小さく左右に振った。


「もちろん知っていることもあるけど、アイテムについては導く者の能力――鑑定レベル1で判別しているのさ」


「レベル1って……お前もレベルが上がるのか?」


 俺の質問にナビは「さあ? ボクは戦えないからレベルの上げようもないけどね」と少し困ったような口振りだ。


 そんなやりとりをしつつ、真珠岩の盾を装備する。魔法を防ぐ効果があるらしいが、焼け石に水かもしれないな。ただ、片手持ちしかできない三日月の斧と合わせるには、盾はうってつけの装備だった。


 十六階層の祭壇を守る大型の魔物――クラーケンとの死闘を制す。


 三日月の斧が切断属性を持つためか、軟体系相手にはいくらかマシな戦いができたものの、早く良い武器が欲しい。


 大物を撃破したにもかかわらず、レベルは上がらないまま次の十七階層――死毒沼地に向かった。




 この階層――死毒沼地でレベル35までは上げることができる。続く火炎鉱山で40まで。十九階層の世界樹上でレベル45程度になり、二十階層――最果ての街で50まで上げられるという計算だ。


 死毒沼地の攻略方は特に無し。他の種族ならいざ知らず、毒にも麻痺にも耐性を持つオーク・ハイの特性をフル活用することができた。


 道中、最短の道から少しだけ逸れて、鬼の背骨と冒険者たちによって名付けられた橋で魔物と戦う。


 背骨というのも納得だ。橋は灰色がかった白で、節があり表面は滑らかだが、奇妙に歪んでいた。


 全長二百メートルはある巨獣の白骨なのだ。この沼地で朽ち果てた亡骸が地形に取り込まれて陸橋のようになったなれの果て……とは、ナビの解説だ。


 背骨の上で遭遇する魔物は、沼地や森の毒虫や植物系から打って変わって、骨だけの不死系になる。中でも三面に六つの腕を持つ髑髏の戦士――アシュラボーンは強敵だ。


 六つの腕にそれぞれ剣、斧、鎚、槍、刀、鎌を持ち、一心不乱に乱撃を繰り出してくる。


 盾一つでは防ぎきれない攻撃だが、急所を守り全身を切り刻まれながらも、俺は吠える。


「ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」


 充分に力を溜めてからのラッシュによる二連撃をアシュラボーンの腕に叩き込み、武器を震う腕を減らしていった。


 こうして多腕を潰していかないことには、本体にダメージを与えられない。


「無理は禁物だよゼロ」


「ちょっとは無理しなきゃこの先やばいだろ!」


 アシュラボーンの腕が最後の一本になり、その手にした刀から放たれた斬撃が俺の喉元に触れる――寸前で、三日月の斧はアシュラボーンの正面の顔を真っ二つにした。


 サラサラと溶けるように赤い光に変換されたアシュラボーンに、ナビが声を上げる。


「魔物がアイテムを落としたみたいだね。残念だけどゼロには装備できそうにないから素材にするかい?」


「ちょっと待ってくれナビ。どんなアイテムなんだ?」


「骨切り包丁だよ。分類は刀だね。レア度はCで攻撃力は55かな。骨を持つ魔物に対して攻撃力が上がる効果があるみたいだね」


 刀か。惜しいな……って、偶然か? アシュラボーンが最後まで手にしていたのも刀だった。


「わかったナビ。とりあえず骨切り包丁は素材に分解してくれ」


 ナビはアシュラボーンを吸収すると、目をぱちくりとさせて俺を見上げる。


「使える武器じゃなかったのに、どことなく嬉しそうだねゼロ?」


「まあ、たまたまかもしれないけどな。ちょっと試してみたいことがあるんだ」


 鬼の背骨で休憩しつつ、時折、森に戻って食べられるキノコで回復しながら、俺はアシュラボーンと戦い続けた。


 レベルは36まで上がり、経験が積めなくなる“壁”の気配が濃厚になったものの、二十三体目のアシュラボーンから、俺はついに武器を獲得した。


「やったねゼロ。粉骨砕身を手に入れたよ。これは素材にせず装備した方がいいんじゃないかな?」


「ああ、頼む」


 アシュラボーンだった赤い光は集約して、全長二メートルの武器になった。肩がけできるよう革ベルト付きだ。


 白い骨でできた両手持ちの大槌である。骨のような白い柄の先端に巨大な頭蓋骨がついていた。見た目はネタっぽいが重量感はずっしりと良い感じだ。


 モルゲンシュテルンのようなトゲはついていないため、純粋な打撃武器だろう。ナビが解説を続けた。


「粉骨砕身は鎚だね。レア度はCで攻撃力は78かな。骨を持つ魔物に対して攻撃力が上がる効果があるみたい。ただし、軟体へのダメージはマイナスの補正があるみたいだよ」


 と、説明を終えてからナビが黙って俺を見る。


「どうしたんだナビ?」


「不思議なのだけど、どうしてアシュラボーンがキミが使える武器を落とすと思ったんだい?」


「確証は無かったけどな。色んな武器を持ってるから、倒していけばそのうち落とすかと思ったんだよ」


「アシュラボーンは6種類の武器を持っているよ?」


「どうやらコツがあるみたいで、腕を破壊する順番を工夫したんだ。気づかなかったか?」


 俺の謎かけにナビは「うーん」と、真剣に悩み始めてしまった。意地悪せずに教えよう。


「最後に残す手を鎚をもったやつにしたんだ」


 俺の答え合わせにナビは「なるほど。素晴らしい観察眼だね」と納得したようだった。


 さっそく戦利品を背中にマウントしてみたが、大きすぎて正直取り回しは悪いな。片手で扱うのも難しいから、盾との併用も無理そうだ。ナビが俺に訊く。


「三日月の斧と真珠岩の盾は分解しようか?」


「いや、狭い場所で戦うこともあるだろうから、斧も盾もそのままでいい」


 死毒沼地の地形は多彩で、森を抜けることもある。木々の茂った場所で粉骨砕身を振り回すのは自殺行為だ。


「わかったよ。あまり手荷物が多いと戦いの邪魔になるかもしれないから、いつでも相談してね」


 腰に三日月の斧を提げ、盾を背負って大槌は手にもったまま、比較的開けた場所を通るようにして、俺はナビとともに瘴気の満ちた階層を突き進む。


 新たに手にした粉骨砕身は、まさに十七階層にうってつけの武器だった。


 一振りで大半の不死系の魔物を葬り、祭壇を守る大型魔物――巨人ドクロは前回の対戦と同じく、その足を砕いて顔面を潰す方式で撃破した。




 大槌を手に入れてからは、世界が変わったように戦いは温くなった。


 相性の悪い軟体系の魔物は火炎鉱山にも世界樹上にも現れず、広い場所を選んで戦うことで、武器の取り回しの悪さもカバーできる。


 順調にレベルも重ねていき、ついに俺は……俺たちは二十階層に戻ってきた。


 丘の上の祭壇から見下ろすと、街の中心の聖堂に建った鐘楼から朝を知らせる鐘の音が鳴り響く。


「やっと戻ってこられたな」


 つい、言葉が漏れた。ナビが不思議そうに首を傾げる。


「戻ってきたのはボクで、キミは初めて着いたんじゃないのかいゼロ?」


「あ、ああ、そうだったそうだった」


 さあ、問題はここからの行動だ。あんな失敗は一度きりで充分だからな。




名前:ゼロ

種族:オーク・ハイ

レベル:49

力:A+(99)

知性:G(0)

信仰心:G(0)

敏捷性:G(0)

魅力:G(0)

運:G(0)

余剰ステータスポイント:55


装備:粉骨砕身 レア度C 攻撃力78 骨のある相手に+10% 軟体にー20%のダメージ

   三日月の斧 レア度E 攻撃力27 植物系に+10%のダメージ

   真珠岩の盾。レア度D 防御力13 時々魔法を反射する


スキル:ウォークライ 持続三十秒 再使用まで五分

   力溜め 相手の行動が一度終わるまで力を溜める 持続十秒 再使用まで三十秒

   ラッシュ 次の攻撃が連続攻撃になる 即時発動 再使用まで四十五秒


種族特典:雄々しきオークの超回復力 休憩中の回復力がアップし、通常の毒と麻痺を無効化。猛毒など治療が必要な状態異常も自然回復するようになる。ただし、そのたくましさが災いして、一部の種族の異性から激しく嫌悪される。

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