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二度目の攻略はつつがなく

 祭壇から転送されて城塞廃虚に着くなり、俺は中央の大通りに目もくれず、速攻で右手の路地に向かった。


 ナビが俺の足にまとわりつくようにすり寄る。わざと歩きにくくして、俺を止めたいようだ。


「待ってよゼロ。城塞廃虚についてボクの知っていることを教えておきたいんだ」


 おっと、そうだったな。つい気持ちが先走ってしまった。


 大人しくナビからドグーラの情報を教えてもらう。注意すべきはその攻撃魔法だ。恐ろしさは身に染みて……いや、この魂に刻み込まれている。


 ナビのレクチャーを終えると、改めて俺は路地を進んだ。


 地面に目をこらし地下水路に続く丸い金属の蓋を探す。


 あった! これも前回と同じ場所だ。


 かがんで地面にはまった蓋をヨイセっと持ち上げた。


 ナビは目を丸くしながら「そんなところに道があるなんて、ボクも知らなかったよ。どうして気づいたんだい?」と、驚いたように俺に訊く。


「ええと……まあ、勘が冴えただけだ」


「なんて素晴らしい閃きなんだろう。キミこそ選ばれた存在だよ」


 目を細め、尻尾をフリフリ上機嫌なナビを肩に乗せて、地下に降りる。


 水路脇の通路を小走りで進んだ。何がいるかはわかっているので、魔物に気づかれようがお構いなしだ。


 角を曲がって即、会敵する。敵は火付けネズミだ。


 コンパクトで取り回しの良い三日月の斧は、地下水路を根城にする連中との戦いにうってつけだった。


 細い通路でタイマン張って俺に勝てると思ったか? 斧を振るって次々とテンポ良く打ち倒す。


 予想はしていたが、狭い場所にはそれに適した武器のリーチがあるんだと実感した。ただ、前よりもさらに接近戦クロスレンジになるため、火付けネズミの松明にしばしば火傷を負わされた。


 とはいえ頑健なオークボディである。ドグーラのファイアボルトに比べれば、表面をあぶられるくらい大したことない。炎にせよ氷にせよ雷にせよ“魔法的”なものがオークの弱点ってわけだ。


 相変わらず暗い地下を高速で這い回るブラックローチには手を焼いたが、壁や床にイソギンチャクのように貼り付いて動かない糸吹きサナギは斧でザクザクと切っていった。


 怖い物なしだ。


 レベルが上がれば力にポイントをつぎ込み、ウォークライに続く第二のスキル――力溜めも習得する。


「すごいよゼロ。魔物をまったく寄せ付けない強さだね」


 俺以上に成長が嬉しそうなナビに励まされながら、暗くジメッとした腐臭漂う地下水路を抜けた。


 地上に出ると祭壇の近くまで無事たどり着く。すぐにつっこまない。ここからは慎重に行こう。


 近くで公園を見つけて給水所で水を飲み、襲ってこないドグーラの眷属が箱に配給する硬いパンを腹に詰め込んだ。


 準備万端整えてから、単体でさまよっているドグーラを見つけて……挑む。


 ファイアボルトは相変わらず脅威で、黒焦げにされ炎熱地獄に狂い死にそうになりながらも、ウォークライと力溜めを駆使してなんとか一体倒すことができた。


 効率は前回と比べてガクッと落ちたな。ドグーラを相手にするには武器が弱すぎる。


 公園のベンチにドカッと腰掛けて、全身の焦げた匂いにむせそうになりながら大きく息を吐く。


 俺の膝の上にピョンっとナビが乗っかって、顔を上げた。


「大丈夫かいゼロ? 無理は禁物だよ」


「問題無い。一発食らって動けなくなるようならマズイが、二発程度までならドグーラのファイアボルトを受けても死なないようになったしな」


 三発食らえばあの世行きだ。今一度気を引き締め直そう。


 幸い、次の階層に向かう手順は前回で学習済みである。念のため、塔の前の広場を巡回するドグーラの動きが変わっていないか、半日かけてパターンを確認した。


 その上で翌日、早朝の交代のタイミングを見計らって、俺とナビは祭壇に滑り込みを狙う。


 敏捷性の低さと初挑戦の緊張感から、前回は祭壇に飛び込むまでに一発ファイアボルトをもらってしまったが、今回は二度目ということもあって冷静かつスマートに行動を完了した。


 ドグーラが警報を鳴らして包囲するより早く、俺とナビは祭壇に飛び込み次の階層へと転移するのだった。




 星屑砂漠の出発地点のオアシスで、諸々準備を整える。


 昼間のうちにオアシ近辺に棲息する、砂モドキオオトカゲを相手に修練だ。


 ゴルドラモルゲンシュテルンで二発の相手だったが、武器の火力不足はここでも露呈した。ウォークライと力溜めを駆使しても、三日月の斧だとオオトカゲを仕留めるのに三発。


 スキル頼りでは連戦できず、通常攻撃で敵を沈める場合、五回の攻撃を必要とした。当然、反撃を受ける頻度も上がり、戦いが終わると毎回どこかしら噛まれて痕だらけだ。


 数分休めば傷はふさがるとはいえ、血を流すのは嬉しくない。その匂いに釣られてオオトカゲの仲間が増えることもあった。


 わーい経験値のお代わり稼ぎ放題だ! 回復しきってないので泣きたくなる。


 というか素手よりマシとはいえ、この先、武器の弱さは心許ない。


 まあ前回が運が良すぎただけなんだが。後ルドラモルンゲンシュテルンの武器ランクはB。二十階層まで通用する最高にクールな武器だった。


 強い武器を手に入れさえすれば、もっと効率は上がるんだけどなぁ……。


 ええいへこんでどうする。足りない火力は今日まで培った経験で補っていこう。




 幸いナビの導きもあって、砂漠では一歩たりとも迷うことなく夜の行軍は順調に進んだ。


 少しでも安全なルートを外れると巨大蟻地獄――グレーターアントリオンと遭遇するらしい。


 今の俺では到底太刀打ちできない魔物だが、時折、最果ての街から錬金素材となる“巨大な顎牙”を求めて、狩りにやってくる冒険者がいるのだとか。


 レア素材で良いお金になるらしい。


 また一つ、情報を得たものの……とりあえず触らぬ神になんとやら。今は報酬よりも安全第一だ。


 夜に砂漠を進み、昼間は適度に休息を取りつつオアシス付近で戦ってレベルを上げた。


 二日目の夜には遠方で砂の海を回遊する巨大ミミズ――地鳴りの王を観ることができた。淡い月のような天球の射す光の中、砂の大海を我が物顔で雄大に泳ぐ姿は相変わらず圧巻だ。


 この階層の主が気まぐれに俺たちの方に向かってこないことを祈りつつ、砂の道を踏みしめて先を急ぐ。


 二度目の砂漠越えも三日をかけた。




 続く大深雪山も前回同様、装備を整えて緩やかな山を迂回するルートを選択した。


 日の出ている比較的暖かい昼間に距離を稼いで、要注意魔物であるフクロウ型のオウルーラだけは避けて進む。ファイアボルトよりいくらかマシだが、こいつらが使う氷結系のアイスボルトは食らえば充分に痛い。


 ナビが言うにはオウルーラは夜行性とのことで、行動が活発になる夜の行軍は危険度が倍増するということが判明した。


 雪に覆われた山道の一歩先を行きながら、首だけ振り返ってナビが言う。


「だから気をつけてねゼロ」


「あ、ああ。もとより気温が下がる夜間は、どこかで寒さをしのがないと凍え死ぬだろうしな」



 グワオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!


 そんな話をしていると、山頂方面から雷が落ちて空気を切り裂いたような轟音が響く。


「なあナビ。この雪山のいただきには何がいるんだ?」


「さあ。とりあえず魔物だろうね。街で討伐隊を編成したという話は訊いたことがあるけど、帰ってきたという話はさっぱり耳にしなかったよ」


「そりゃあヤバイ雰囲気だな」


「誰も倒したことが無い魔物なら、どんな装備やアイテムを落とすかわからないけど、きっとお宝はすごいものに違いないよ」


 捕らぬタヌキのなんとやらだ。しかし、この迷宮を地下二十階層まで降りる連中が、討伐隊なんてものを編成して勝てないなんて、いったいどんな魔物なんだろうか。


 そういえば、蒼穹の森ですら祭壇の先には更に深い森林地帯が広がっているし、城塞廃虚の塔だってどこかに入り口くらいありそうだ。あの巨大な塔を登った先には、やはり階層を守る魔物がいるのか?


 砂漠も最短ルートを選んで進んでいるわけだし、ほとんど探索はしていない。


 あの地鳴りの王にだって挑むことができる。まあ、そんな命知らずはそうそういないだろうが。




 何か意味があるのだろうか? 各階層に潜む格段に強い魔物たちは、ただそこに生まれたから居続けるだけ……なのだろうか?


「どうしたんだいゼロ? そんな深刻そうな顔をして?」


「あ、いや。別にな」


「困ったことがあったらなんでも相談してね」


「もちろんさ。頼りにしてるぜ相棒」


 ナビはうんと頷くと、歩きながら機嫌良さそうに尻尾をゆらりゆーらりと振る。


 考えるよりも先に、まずは今夜世話になる山小屋ログハウスにたどり着かないとな。明るいうちに薪を集めて、夜は火を焚きしっかり身体を休められるよう準備しよう。




 不幸とは言わないが、ここまでレベル上げついでにいくつか装備を手に入れたものの、俺では扱えない弓矢や魔法の杖などが多く、すべてナビに素材にして保管してもらった。


 雪山で俺が倒せる狼系――雪原の殺し屋は、倒しても倒してもホワイトファングというナイフ系の武器にしかならない。


 投げナイフとして使えないかと思ったのだが、そこは敏捷性の低さがたたってか、五メートル先の的にかすりもせず、ナイフは投げるたびに見当違いの方向に飛んでいってしまった。


 力自慢のオークが器用に立ち回るのは難しそうだ。


 とはいえ、進軍そのものはスムーズである。一度経験した峠越えということもあって、精神的な余裕を持ちつつ無事、大深雪山を越えることができた。


 続く第十四階層――巨石平原の突破方法はすでにわかっている。足りないのは実力レベルだ。


 火力不足を嘆いても仕方ないが、前回のように武器に頼れないのだから、こここそが正念場だな。


 大深雪山の出口付近で、ナビが次の階層へと続く祭壇にちょこんと乗って俺を呼んだ。


「さあゼロ。次の階層に進もうよ」


「待ってくれナビ。確かこの先の巨石平原には魔法を使う魔物が多いんだったんだよな?」


「そうだよ。だから魔法が苦手なキミは気をつけないといけないね」


「だよな。うん……で、まあ先に進む前に、上げられるだけこの階層でレベルを上げていこうと思うんだ」


 レベルの“壁”はやっかいだが、それでもコツコツやるしかない。何百匹だろうと何千匹だろうと、狼系を狩ってやる。


 ナビは小さく頷いた。


「わかったよ。キミは時々ものすごく大胆に行動すると思ったら、今回はまるで先を見てきたみたいに慎重だね」


「そうか? ここまで俺が魔法に弱いっていうのは、この身に染みるほど味わってきたからな。魔法を使う魔物が多いっていうんなら、用心に越したことはないだろ?」


 ナビは目を細めた。


「キミは賢明だね。ボクはとても心強いよ」


 納得したナビが祭壇から降りて、俺の足下まで戻ってくる。


 しばらくこの階層の出口をキャンプ地にして、魔物狩りの日々……と、思った矢先の事だった。


 銀色に輝く“何か”が、純白の雪の小山から飛び出してきたのだ。


 それは金属的な光沢を持ちながら、適度な弾性を感じさせる魔物だった。


 スライム系のようにも見える。これまで見たことが無い。


「ナビ……あいつはなんだ? 魔物なのか?」


 息を呑む。自然と手には三日月の斧を構えていた。


 祭壇の前でスライム系(?)はぴたりと動きを止めた。その姿を確認してナビが耳と尻尾を立てる。


「あれはレア魔物のメタリックゼラチナムだね」


 フルフルと震えるばかりで、魔物が襲ってくる気配は無い。レア魔物といえば、十階層のコンジキブイブイ以来だ。


「それなら倒せば良いことあるだろうなああああああ!」


 反撃を恐れず俺は三日月の斧を振り上げた。


 大上段から真っ二つ――が、斧は空気を縦に切り裂くだけで、金属光沢も美しい魔物の姿は残像のようにゆらりと消えた。


「後ろに回り込まれたよゼロ」


 振り返る俺に、ゼラチナムが魔法を放つ。ファイアボルトだ。避けることは不可能なのでこらえようと身構える。至近距離から放たれた火炎の矢は俺の胴体で爆ぜた。


 炎熱と衝撃は……さほどでもない。レア魔物だと訊いて一瞬、死が脳裏によぎったが――




 こいつ弱いぞ!




 ただ、素早い動きはこれまで遭遇したどの魔物も比べものにならず、目で追うのもやっとというか、追い切れない。


 あざ笑うかのようにゼラチナムは俺の攻撃を全て回避する。時折ファイアボルトや体当たりをかまして、まるでこちらを子供扱いだ。


 ただ、魔法であれ打撃であれ、俺に膝を着かせるほどの威力はない。


 一心不乱に斧を振り回すうちに、またもゼラチナムを見失った。さては背後に回ったな!?

 

 身体をひねって後ろを向こうとした勢いで、焦るあまり俺は思い切りバランスを崩した。


 足を滑らせ背中側から雪原に落ちるような格好だ。


 しまった。いくら相手の攻撃力が低いとはいえ、このまま背中から地面に倒れたら隙を晒しすぎだ。


 だが、身体を入れ替えるなり受け身を取るような敏捷性は俺にはない。


 重力にあらがえず、スローモーションがかったように背中が雪で覆われた白い地面に着く――その地面と背中の隙間に、高速移動しっぱなしだったメタリックゼラチナムが偶然にも挟まった。




 ブチンッ!




 会心の手応えを背中に感じて立ち上がると、銀色のゼリーから莫大な量の赤い光が噴水の如く吹き上がり、それを浴びるようにしてナビが満足げに俺に告げる。


「おめでとうゼロ。レベルが上がったよ」


 結果、どうなったかというと……。




名前:ゼロ

種族:オーク・ハイ

レベル:33

力:A+(99)

知性:G(0)

信仰心:G(0)

敏捷性:G(0)

魅力:G(0)

運:G(0)

余剰ステータスポイント:2


装備:三日月の斧 レア度E 攻撃力27 植物系に+10%のダメージ


スキル:ウォークライ 持続三十秒 再使用まで五分

   力溜め 相手の行動が一度終わるまで力を溜める 持続十秒 再使用まで三十秒

   ラッシュ 次の攻撃が連続攻撃になる 即時発動 再使用まで四十五秒


種族特典:雄々しきオークの超回復力 休憩中の回復力がアップし、通常の毒と麻痺を無効化。猛毒など治療が必要な状態異常も自然回復するようになる。ただし、そのたくましさが災いして、一部の種族の異性から激しく嫌悪される。




 メタリックゼラチナムは経験の塊だったらしく、巨石平原を突破するに充分以上のレベルに俺はいきなり達してしまった。


 頭の中で絶頂感がスパークした。

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