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反省を活かして

「……………………と、いうわけなんだけど、理解できるかなゼロ?」


 赤い光を壁に照射して、俺のステータスと今の不定形な姿を映しながらナビは言う。


 ナビの長い説明を聞いているうちに、冷静さを取り戻すことができた。


 どういうわけかはわからないが、死んだはずの俺はこの地点とこの時間に戻ってきたらしい。


 残念ながら高めた数値もため込んでいた余剰ポイントも、種族特典も何もかもが空っぽのunknown――0(ゼロ)に逆戻りだ。


 ナビが話した内容も出会った時とほぼ同じだった。ナビはこの世界の冒険者の誰にも認知できない存在で、協力者を探し続けてついに俺を見つけ出したらしい。


 真理に通じる門を探すという使命もそのままだった。


 ナビは俺との出会いを「最初で最後のチャンス」というが、実は二回目だ。


 どうしよう。正直に今までの事を話してみようか?


「なあナビ……」


「なんだいゼロ?」


 赤い瞳がまん丸く見開かれる。この出会いが二度目だということを、信じてくれるだろうか?


 相手は俺と初対面だ。そう仮定すると、突然俺が「二回目なんだ」と言い出したら不信感を植え付けかねない。


 不用意な事を言って混乱させるのは……危険だ。ナビの協力なくして最果ての街にはたどり着けないのだから。


 話すなら、もう少し落ち着いてからでもいいかもしれない。


「どうしたんだいゼロ?」


「いや……その……とりあえずこの姿のままじゃ話にならない。何か良い方法はないか?」


 ナビは嬉しそうにその場でくるんと回ってみせた。


「実はあるのさ。キミにステータストーンを進呈するよ」


 赤い光を額の宝石から凝縮させて、ナビは六面体ダイスを生成する。これまで48回見た光景だ。


 本当なら49回目になるはずだったが、積み重ねたカウントはリセットされてしまった。


 ナビに言われるでもなく、そっと触手を伸ばしてステータストーンを掴むと放り投げた。


 出目は……6だ。


 つい、ガッツポーズを作る。触手だからわかりにくいけれど。


 ナビも嬉しそうにその場で小さく飛び跳ねた。


「おめでとうゼロ。最高の出だしだね。さあ、ポイントを好きな項目に割り振ってみて。どうなりたいか強く念じるんだ……あっ、その前に項目について説明しておくかい?」


 赤い宝石が映し出す項目はこれまで通り。特に変わった様子は無い。


「いや、なんとなくだがわかるから大丈夫だ」


「本当にいいのかい? 最初にどう振るかでキミの姿が決まると言っても過言じゃないんだよ?」


「そうだな。最初が肝心……か」


 死の間際、ナビの悲痛な言葉を俺は思いだした。




『いけないよゼロ。エルフ族はオークを嫌悪しているんだ。オーク・ハイのキミが不用意にエルフに話しかけるなんて……ああ、なんてことだ……しっかりしてゼロ。目を開けて。ボクを独りにしないでよ。お願いだよ。誰かゼロを助けて。行かないで。頼むから……ああ……もうだめだ……ゼロ……ゼロ……ゼロ……』




 何が悪かったのか、ポイントは一つだけだ。


 オーク・ハイの俺が魅力も上げずに敵対的なエルフに話しかけてしまったこと。仮に魅力が高ければ、もしかしたらエルフがいきなり殺しにかかったりはしなかったかもしれない。


 まあ、敵対的な種族だからと、いきなり魔法で殺しに来るエルフの側にも問題ありだと思うのだが……あの街の独特の雰囲気や空気を知らなかった俺のミスには違いない。


 あそこで手を差し伸べるなら、せめて魅力は上げておくべきだった。


 そもそも論だが、あの時の失敗は俺がオークだったことに尽きる。


 別の種族であれば、いきなり殺されたりなどしなかっただろう。


 さて……考えなきゃいけないな。


 どうして俺が時間を巻き戻したように、記憶だけ保持してこの場所に戻ってきたかはわからない。


 ただやり直しが……この幸運がもう一度あるという保証こそ、どこにも無いのだ。


 であるならば、選択すべきルートは――


名前:ゼロ

種族:オーク

レベル:1

力:G+(6)

知性:G(0)

信仰心:G(0)

敏捷性:G(0)

魅力:G(0)

運:G(0)




 丸太のように太くたくましい手足も、樽のような腹や筋肉で膨らむ胸筋も元通りだ。


 そそり立つ牙と豚か猪のような顔も相変わらず。この顔には愛嬌があると思うんだが、エルフには生理的嫌悪感を与えるらしい。


 上位種族ではなくなったものの、実にしっくりなじむオークの肉体を俺は取り戻した。


 要は最果ての街でエルフに話しかけなければ良いのである。棲み分けは大事だと肝に銘じた。


 そして、今回もオークとして生きることを選んだのには、きちんと理由がある。


 別の種族になる危険をわざわざ冒すことはない。そう考えたからだ。


 立ち上がると足下でナビが嬉しそうに瞳をキラキラさせる。


「おめでとうゼロ。これでキミはunknown卒業だね」


「ああ。準備も整ったし、さっそく外で魔物狩りといこうか」


 ナビの先を歩いて、俺は洞穴の外に出た。


 天球は眩しく光り輝き、目の前には深く生い茂った蒼穹の森が広がる。オークの強みはその強靱な肉体そのものだ。力を極めればオーク・ハイになれることを“今の俺”は知っている。


 難易度が上がる後半の階層で、毒や麻痺を無効化できる有利さは代えがたい。


 ステータストーンの出目はランダムかもしれないが、平均値を大幅に下回らない限り第十四階層の周辺でオーク・ハイに成長できるはずだ。


 森に足を踏み入れる前に、俺は背中側に腕を回して……唖然とした。


 この第十階層からずっとの付き合いだったもう一人の、いや、もう一つの相棒――ゴルドラモルゲンシュテルンも、当然のように失われていたのである。


 当然、第十四階層で手に入れた真珠岩の盾もない。


「なあナビ。何か他に持っているものはないか? ほら、武器でも素材でも。裸一貫で戦うのは辛いものがあるんだが」


 ナビは俺の前に回り込むと首を左右に振った。


「そういったものは、これから魔物と戦っていくことで手に入るよ。装備品の場合はオークのキミに扱えないものもあるから、素材にして保存するけどかまわないかい?」


 それから素材が最果ての街で換金できることや、まず目指すべきはその街だということをナビは俺に語ってくれた。


 死ぬまでにため込んだ素材の数々も水泡に帰したのか。当然だよな。


 あああ、何か一つくらい残しておいてくれてもいいだろうに。


 と、悔やんだところで仕方ない。切り替えていこう。


 ギュッと握りこんだ拳が、熱く熱くなった。

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